スマートフォンやオンライン手続きが当たり前になった今、高齢のご家族が「使い方がわからない」「なんだか不安」と戸惑っている姿を見て、どう手助けすればよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
デジタルデバイド、つまり「情報通信技術を使える人と使えない人の間に生まれる格差」は、高齢者にとって暮らしの質そのものに関わる大きな課題になっています。ただ、国や自治体、そして家族や地域が取り組める対策は、思っている以上に整いつつあります。
この記事では、これまで自治体のデジタル化支援に関わってきた経験も踏まえながら、問題の全体像から具体的な行動までを体系的にお伝えします。
この記事で学べること
- 高齢者のデジタル格差は「端末の有無」だけでなく心理的・身体的な複合要因で生じる
- 総務省は2021年度から「デジタル活用支援推進事業」で全国的な講習会を展開している
- 東京都や渋谷区などはスマホ購入費助成や高齢者向け講座を独自に実施している
- 家族の支援は「急がせない・叱らない・少しずつ」が成功のカギになる
- 単発講習より「伴走型支援」が定着率を高めることがわかってきている
高齢者のデジタルデバイドとは何か
デジタルデバイドとは、パソコンやスマートフォン、インターネットを使いこなせる人と、そうでない人との間に生まれる格差のことです。
高齢者の場合、この格差は単純に「スマホを持っているかどうか」だけの問題ではありません。
実は、機器を持っていても「操作がわからない」「続けて使える環境がない」といった状態が広く見られます。ここが見落とされがちなポイントです。
社会全体のデジタル化が進むほど、この格差は暮らしの不便さへと直結していきます。行政手続き、買い物、医療予約、家族との連絡など、日常のあらゆる場面がオンライン化しているからです。
格差が生まれる主な原因
高齢者のデジタルデバイドには、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。
心理的な障壁が根源的な要因としてよく指摘されます。「デジタルは難しいもの」という思い込みや、「壊してしまうかもしれない」という不安が、最初の一歩を妨げるのです。
経済的な理由も無視できません。スマホやパソコンの購入費、毎月の通信費の負担が重く、導入をためらうケースがあります。
環境面の問題として、公共Wi-Fiが少ない地域や、ネットワーク環境が整っていない地域では、接続そのものが障壁となります。
さらに、視力や聴力の低下、指先の細かな操作のしづらさといった身体機能の変化により、一般的な画面設計(UI)が使いにくいというアクセシビリティの課題もあります。
国が進めている高齢者向けの対策

まず知っておきたいのが、国レベルでの取り組みです。個人の努力だけに頼らず、公的な仕組みを活用することが対策の基本になります。
総務省は「社会全体のデジタル化が進む中で、誰もがデジタル化の恩恵を受けられる環境整備」を目的として、高齢者などへのデジタル活用支援を進めています。
デジタル活用支援推進事業
2021年度(令和3年度)から始まった中心的な取り組みが「デジタル活用支援推進事業」です。
この事業では、スマートフォンを使ったオンライン行政手続きなどについて、身近な場所で助言や講習を受けられる体制づくりが進められています。
携帯ショップや地域の公民館などを会場に、少人数で丁寧に教えてもらえるのが特徴です。
講習会を探す
お住まいの自治体の広報や総務省サイトで開催情報を確認します。
実際に参加する
多くは無料で、電源の入れ方から丁寧に教えてもらえます。
継続して相談する
わからないことは繰り返し相談し、少しずつ慣れていきます。
国は「デジタル活用環境構築推進事業」など、環境面の整備を進める枠組みも用意しています。こうした自治体を通じたデジタル人材育成の取り組みは、高齢者支援とも連動しながら広がりつつあります。
自治体が取り組む具体的な支援策

より身近な支援として力を発揮しているのが、自治体独自の取り組みです。地域の実情に合わせた、きめ細かい対策が特徴になっています。
スマホ購入費や利用料の助成
東京都や渋谷区などでは、高齢者を対象としたスマートフォンの購入費助成を行う事業が実施されてきました。
経済的な負担が導入のハードルになっている方にとって、これは大きな後押しになります。
高齢者向けの講座やQOL向上事業
自治体主催の高齢者向けスマホ講座も広がっています。単に操作を覚えるだけでなく、生活の質(QOL)を高めることを目的にした事業として位置づけられている点が特徴です。
こうした地域単位のデジタル化は、スマートシティの事例のように、まち全体の暮らしやすさを底上げする動きとも重なっています。
自治体支援を活用するための確認事項
家族や地域ができる実践的なサポート

公的な支援と並んで大切なのが、身近な人による日常的なサポートです。ここが対策の成否を大きく左右します。
導入を急ぎすぎない
家族がやりがちな失敗が、「便利だから」と一気に色々な機能を使わせようとすることです。
多くの方が「早く覚えてほしい」と思われがちですが、実際は本人のペースを尊重することが定着への近道になります。
まずは「電話」「LINE」「写真」など、本人が興味を持てる一つの機能から始めるのがおすすめです。
叱らず、繰り返しを前提にする
「前も教えたでしょう」という言葉は、高齢者の学ぶ意欲を大きく削いでしまいます。
同じことを何度聞かれても、繰り返し答える姿勢が信頼につながります。操作手順を紙に大きく書いて渡しておくのも効果的です。
相談できる場所を知っておく
家族だけで抱え込む必要はありません。携帯ショップの操作サポート、公民館や図書館の相談会など、頼れる「行動の入口」は地域に複数あります。
単発で終わらせない伴走型支援という考え方
近年、専門家の間で重視されているのが「伴走型支援」という考え方です。
一度きりの講習会では、その場ではできても、家に帰ると忘れてしまうという課題がありました。
そこで、継続的に寄り添いながら支える体制づくりが求められているのです。
デジタルデバイド対策は、教えて終わりではなく「続けられる環境をどう作るか」が本質だと考えられています。
地域の支援ネットワークづくりや、健康管理に役立つデジタルヘルスの活用など、中長期的な視点での取り組みが各地で模索されています。地域が抱える課題については、地域医療の課題に関する自治体調査でも高齢者支援との関連が示されています。
伴走型支援の利点
- 忘れてもすぐ相談でき、定着率が高い
- 本人の不安に寄り添える
- 地域のつながりも生まれる
単発講習の課題
- その場ではできても後で忘れやすい
- 継続的な質問先がない
- 習熟度に個人差が出やすい
よくある質問
高齢の親がスマホを嫌がります。どうすればよいですか。
無理に持たせる必要はありません。まずは本人が「これなら便利」と感じる目的を一緒に見つけることが大切です。孫の写真が届く、天気がすぐわかるなど、生活に密着した動機があると自然に前向きになります。
支援の講習会はどこで受けられますか。
多くは携帯ショップ、地域の公民館、図書館などで開催されています。総務省のデジタル活用支援推進事業に基づくものは無料の場合が多いので、自治体の広報を確認してみてください。
費用の負担が心配です。助成はありますか。
東京都や渋谷区など、自治体によってはスマホ購入費の助成を行っている場合があります。お住まいの地域の高齢者福祉窓口や地域包括支援センターに相談すると、利用できる制度を教えてもらえます。
教えても何度も同じことを聞かれて疲れてしまいます。
これはごく自然なことです。操作手順を大きな字で紙に書いて渡す、動画で残しておくなど、本人が自分で確認できる仕組みを作ると、双方の負担が軽くなります。
行政手続きのオンライン化についていけるか不安です。
マイナポータルなどの手続きは、講習会でも重点的に扱われるテーマです。窓口での対面サポートも残されている場合が多いので、焦らず、公的な支援を組み合わせて少しずつ慣れていけば問題ありません。
まとめ
高齢者のデジタルデバイドは、心理的・経済的・環境的・身体的な要因が複雑に絡み合った課題です。だからこそ、対策も一つではなく、いくつもの手立てを組み合わせることが大切になります。
国の「デジタル活用支援推進事業」や自治体の助成・講座といった公的支援を土台にしつつ、家族が「急がせず、叱らず、少しずつ」寄り添う。そして、単発ではなく継続的な伴走型支援へとつなげていく。
まずは、お住まいの自治体の広報を確認し、身近な講習会や相談窓口を一つ調べてみることから始めてみてください。小さな一歩の積み重ねが、高齢のご家族の暮らしをより豊かにしていくはずです。
