スマートシティという言葉を耳にする機会は増えましたが、「では、どうやって街を賢く運営していくのか」という問いに答えられる自治体や企業は、意外なほど少ないのが現実です。
技術を導入するだけでは、街は賢くなりません。大切なのは、ビジョンを描き、住民を中心に据え、データを賢く使い、複数の関係者が協調して動くための「運営の仕組み」です。
その運営モデルを国際的に体系化した規格が、ISO 37106です。個人的にも自治体のデジタル施策に関わる中で、技術先行のプロジェクトがつまずく場面を何度も見てきました。そのたびに「運営の型」の重要性を痛感します。
この記事では、ISO 37106とは何かという基本から、スマートシティ運営モデルの構造、認証レベル、取得の流れ、そして国内外の位置づけまでを一本で整理します。
この記事で学べること
- ISO 37106は技術規格ではなく「都市の運営モデル」を定めるガイドである
- ISO 37101が全体戦略、37106が運営実装という役割分担が理解できる
- BSIの認証はレベル1〜5で成熟度を段階評価する仕組みになっている
- ビジョン・人中心・デジタル活用・オープンの4本柱が評価の核となる
- 認証は最終目的ではなく、運営を継続改善するための出発点である
ISO 37106とは何か
ISO 37106は、正式には「Sustainable cities and communities — Guidance on establishing smart city operating models for sustainable communities(持続可能な都市とコミュニティ ― 持続可能なコミュニティのためのスマートシティ運営モデル確立に関する指針)」と呼ばれる国際規格です。
ポイントは、これが「運営モデル(operating model)」のガイダンスだという点にあります。
センサーの性能や通信規格といった技術仕様を定めるものではありません。むしろ、都市のリーダーが「どうやって街全体を賢く運営していくか」を考えるための指針です。
対象は主に、市町村のリーダー、都市計画の責任者、そしてスマートシティ事業に関わる民間パートナーです。都市を一つの組織体として捉え、その運営の型を提供します。
ISO 37101や他の規格との関係

スマートシティ関連のISO規格はいくつかあり、役割が異なります。ここを整理しておくと、全体像がすっきりします。
ISO 37101は、持続可能な都市開発のための「マネジメントシステム」を定めます。いわば都市全体の戦略とガバナンスの枠組みです。
これに対してISO 37106は、そのビジョンを実際に動かすための「運営モデル」に踏み込みます。戦略を実装レベルに落とし込む役割と考えると分かりやすいでしょう。
さらにISO 37120シリーズが都市サービスの「指標(KPI)」を提供します。戦略・運営・測定という三層で捉えると、規格同士の関係が見えてきます。
ISO 37101(戦略)
都市全体の持続可能性を管理する枠組みを定める
ISO 37106(運営)
スマートシティを実際に動かす運営モデルを提供
ISO 37120(測定)
都市サービスの成果を測る指標を標準化する
スマートシティ運営モデルの4本柱

ISO 37106が示す運営モデルは、いくつかの原則で構成されます。中でも中核となるのが、次の4つの考え方です。
これらは技術ではなく、都市を動かす「姿勢」を定めるもの。だと理解すると腑に落ちます。
ビジョン主導であること
まず、明確なビジョンから出発します。どんな街を目指すのか、その姿を関係者が共有していなければ、個々の施策はバラバラに動いてしまいます。
人中心であること
技術ありきではなく、住民や利用者のニーズを起点に設計します。スマートシティの主役はあくまで人である。という原則が貫かれています。
デジタルとデータを活用すること
都市が持つデータを資産として捉え、サービス改善や意思決定に活かします。データ連携の仕組みづくりが、この柱の要になります。
オープンで協調的であること
行政、企業、住民、研究機関など多様な主体が協力できる開かれた環境を整えます。特定のベンダーに縛られない相互運用性も重視されます。
ISO 37106認証のレベルと評価内容

ISO 37106に関連して、英国規格協会(BSI)が運用する認証スキームがあります。これは都市のスマートシティ運営の「成熟度」を段階的に評価する仕組みです。
評価は一般にレベル1からレベル5で表され、最上位にはKitemark(キーテマーク)と呼ばれる認証マークが用意されています。
成熟度レベルのイメージ
評価では、先ほどの4本柱に沿った項目が確認されます。明確なビジョンがあるか、人中心の設計がなされているか、デジタルとデータをどう活用しているか、そしてオープンで協調的な体制が築けているか、といった観点です。
レベルが上がるほど、場当たり的な取り組みから、組織全体に定着した継続的な運営へと成熟していく、というイメージになります。
認証取得の流れと必要な準備
認証取得は、いきなり申請するものではありません。まず自らの運営状況を見つめ直す準備段階が欠かせません。
取得前に整えたい事項
大まかな流れは、現状把握のための自己評価から始まり、ギャップの洗い出し、必要な体制やドキュメントの整備、そして審査という順序になります。
経験上、最も時間がかかるのは審査そのものよりも、部署をまたいだ合意形成と体制づくりです。年度末や新年度の切り替え時期を挟む場合は、通常より余裕を持ったスケジュールをお勧めします。
導入のメリット
- 運営の型が共通言語になり関係者が連携しやすい
- 国際規格に基づく客観的な自己評価ができる
- 継続的な改善のサイクルを回しやすくなる
注意すべき点
- 認証取得自体が目的化しやすい
- 体制整備に相応の時間と労力がかかる
- 技術やインフラの成果を直接保証しない
日本と海外における位置づけ
ISO 37106はもともと英国の実践を土台に生まれた背景があり、BSIによる認証運用も英国が中心です。海外では、この運営モデルを参照して都市戦略を組み立てる事例が見られます。
一方、日本のスマートシティ施策は、内閣府や国土交通省が主導する枠組みが中心で、ISO 37106を直接の認証対象とする動きはまだ限定的です。
とはいえ、運営モデルという考え方そのものは、日本の自治体にも大いに参考になります。国内の取り組みの広がりは、スマートシティの事例を見ていくと、運営体制の重要性が浮かび上がってきます。
また、こうした都市運営を支える基盤づくりの一環として、デジタル地域通貨と合意形成プラットフォームの連携のように、住民参加とデータ活用を組み合わせる試みも注目されています。
スマートシティの成否を分けるのは、最新技術の量ではなく、それを継続的に運営し改善していく仕組みの成熟度である。
よくある質問
ISO 37106は認証を必ず取得しないといけませんか
いいえ、必須ではありません。ISO 37106自体はガイダンス(指針)であり、認証はBSIが提供する任意のスキームです。まずは運営モデルの考え方を自己評価の枠組みとして活用するだけでも、十分に価値があります。
ISO 37101とどちらから取り組むべきですか
都市全体の戦略やガバナンスが固まっていない場合は、ISO 37101の考え方から入るのが自然です。戦略を実装レベルで動かす段階に来たら、ISO 37106の運営モデルが役立ちます。両者は対立せず補完し合う関係です。
小規模な自治体でも活用できますか
活用できます。規模の大小より、ビジョンを共有し、住民を中心に据え、関係者が協調する姿勢が大切です。むしろ小規模なほど部署間の距離が近く、運営モデルを実践しやすい面もあります。
認証取得にはどのくらいの期間がかかりますか
都市の準備状況によって大きく異なります。体制やドキュメントがある程度整っていれば審査は比較的スムーズですが、ゼロから合意形成と体制づくりを行う場合は、数か月から年単位を見込むのが現実的です。
技術ベンダーはどう関わればよいですか
ISO 37106はオープンで協調的な体制を重視するため、特定ベンダーへの依存を避ける設計が求められます。ベンダーは相互運用性を尊重し、都市のビジョンに沿ったパートナーとして関わる姿勢が望まれます。
まとめと次の一歩
ISO 37106は、スマートシティを「技術の集合」ではなく「運営される都市」として捉え直すための指針です。ビジョン、人中心、デジタル活用、オープンな協調という4本柱が、その骨格をなしています。
認証はゴールではなく、継続的に街を改善していくための出発点です。まずは自らの都市や組織を、この4つの観点で静かに見つめ直してみることから始めてはいかがでしょうか。
運営モデルという発想は、これからの地域づくりにおいて、ますます重要な軸になっていくと考えられます。
