※画像はイメージです。
「すごい取り組みだ……」と思わず声をこぼしてしまった。
自治体公共Weekで各社の展示ブースを眺めていたら「図書館に興味あります?」と声をかけられた。てっきり、「最新技術をふんだんに使用した図書館」や「読み放題サービスのような地域図書館のサービス」なのかと思ったら、“あの”図書館の話だそうだ。
地域づくりの核になる
地方創生に携わる人にとって、取り組み対象のひとつに挙げられやすいとされるのが「図書館」だ。
各自治体が持つ公共施設である図書館は、その地域住民が集う“場”としての役目があり、なおかつすべての国民が無料で利用できる、ある意味特殊なポジションだ。図書館自体の役割はさまざまだが、真っ先に思い浮かぶのは、教育機会の均等など。利用者が能動的にではあるものの、誰もが平等に知る機会を得られる。
都心やその近郊など、商業施設が多い場所で生活していると本は気軽に手に入る。しかし、地域によっては書店までの距離が遠かったり、そもそも無かったりする影響で本を手に取れず、読書できない人もいるそうだ。そうした地域特性に基づく需要や課題を解決する役目を図書館は担っている。
図書館を中心とした地方創生に取り組む人たちがいる。「図書館と地域をむすぶ協議会」だ。同協議会はチーフディレクター・コーディネーターとして慶應義塾大学講師/編集工学機動隊ギア代表の太田剛氏を中心にさまざまな地域の“図書館づくり”による地域活性化を目指している。これまでに、北海道・幕別町や栃木県・茂木町などの図書館づくりに携わってきた。
この協議会が目指しているのは、地域づくりの核になる図書館をつくることだ。
従来の図書館に対するイメージを変える
図書館に対するイメージは、静かに勉強や読書する場所だろう。おそらく、多くの人が同じイメージを持っているはずだ。ただ、このイメージのままだと地域活性化につなげることは難しい。
目を付けたのは、図書館自体のデザインだ。単純に書架(本棚)が所狭しと配置されるのではなく、空間自体をコーディネートする。間取りごとに「ここの部屋には地域に関する本」「向こうの部屋には時事ネタに関する本」など棚構成を分けるだけでなく、壁の色味や雰囲気を変更するなどで、図書館全体の“世界観”をつくっている。
展示やギャラリーなどのイベントを各図書館では実施していて、書籍を楽しみにくる人だけでなく、展示イベントを目的とした集客ポイントとしても活用されている。茂木町の図書館はカフェが併設されていて、カフェを楽しむために来る人も少なくないそうだ。
ただ、実を言えば、このような取り組みをしている図書館は全国各地にある。しかし、同協議会が着手する図書館づくりが心がけているのは、「書籍貸出屋」「単なる集客装置」だけにとどめないことだ。
一時期、図書館は貸出数を競い合うような状況があったという。ベストセラーの小説を多数取り添えることで、市民に対して本を大量に貸し出していた。市民からの需要は満たされるものの、これでは図書館は人気書籍を無料で借りられる場所でしかない。
また、カフェを併設するなどで集客要素を高めた図書館も多数存在している。たしかに、カフェを併設するなどで集客要素は圧倒的に高まる可能性はあるものの、本来の図書館としての機能を満たせていない場合があるそうだ。よくあるのは、図書館をカフェとしてしか利用しておらず、ほとんど本が読まれていないことだ。
民間企業であれば営利目的として“儲かる”ように努力するのが最善ではあるが、図書館(今回でいえば自治体の図書館)は公共施設だ。そのため、図書館本来の存在意義が重要である。
では、図書館と地域をむすぶ協議会がつくる図書館は、これまでの図書館事情と何が異なるのか。冒頭にも記載しているように、地域づくりの核になるかどうかである。もっといえば、図書館をつくるが、そのターゲットは図書館だけでなく、地域全体だ。
住民に本を運ぶのを手伝ってもらった意図
同協議会が取り組む図書館づくりにはいくつか注目ポイントがある。
たとえば、書籍の入手経路。多くの図書館は大手専門業者から蔵書を調達しているようだが、たとえば幕別町の図書館は、地元の書店から購入しているという。年間をとおしてある程度の資料購入費が同図書館には割り振られている。その購入先が地元の店舗になるだけで地域は一気に潤う。
これまで同様の取り組みが他地域で難しかったのは、入手した書籍を図書館用にカスタマイズする必要があったからだ。ラベルを貼付したり、カバーやフィルムを施したりなど、書籍等は管理上の都合もあり図書館用にカスタムが必要だった。大手の専門業者では、このような作業もまるっと引き受けてくれていたため、なかなか地元の書店に還元するという発想や行動が生まれなかったとされる。
図書館と地域をむすぶ協議会は、このラベル付けなどの作業を地元の福祉施設に委託した。入所者に対して仕事を依頼することで、地元の書店から本を購入することによって発生する“デメリット”の解消と、新たな雇用の創出に成功したのだ。
そのほかにも、住民みんなで“図書館を作る”という意識づけにも注力した事例もある。これは栃木県茂木で図書館をつくった際の話だ。
旧図書館から新たな図書館に蔵書を一斉に移動(引っ越し)する際、一般的にというよりも普通は業者を利用する。理由は言うまでもない。しかし、図書館と地域をむすぶ協議会は業者を使わなかった。書籍の引っ越し作業は住民から協力者を募り、バケツリレーのように本を手渡しで運んだ。
この取り組みも大きな成功を生んだ。住民が参加することで、地域意識が芽生え、図書館を自分たちで作るという意識づけができた。よく、地方創生の成否は、住民の理解や浸透、そして参加が重要視される。この本を運ぶという行動で、すべてをまかなってしまったのだ。
本のバケツリレーは、老若男女問わず、その住民の方々が参加したという。学生や地域で働く人たち、福祉施設に入所されている方、そして町長など。
リレーで受け渡されていく本はふだん自分が手に取らない本も当然含まれる。そのため、蔵書されている“未知の本”との出会いのきっかけにもなったそうだ。あえて住民に協力してもらった。それだけで与える影響は大きく変わった。
実は図書館では難しかった「本棚に自由に書籍を並べる」こと
図書館を取り巻く要素について紹介したが、図書館において最も重要な書籍の配置についても本記事で取り上げたい。
全国どの図書館も同じような配列で、同じ項目の棚では“あいうえお順”で著者ごとに書籍が置かれている。これは、日本十進分類法(NDC)が分類・管理のしやすさがあり利用されているためだ。書籍の背表紙に貼付されているラベルに「913」「338」「051」などの3ケタの数字が記載されている。これはそれぞれの書籍に応じた“ジャンル分け”によるもの。例に挙げた数値でいえば、913は日本の小説、338は金融に関する本、051は雑誌を意味する。
図書館と地域をむすぶ協議会が手がける図書館では、このNDCを利用していない。使っているのは独自に改良を重ねた「LENコード」と呼ばれるものだ。LENはLibrary Editorial Navigationの頭文字を取ったもので、二次元のカラーコードを書籍の背表紙に貼ると、カメラで認識し蔵書管理を可能にしている。もともとはカメレオンコードと呼ばれる物流業界で使われていた技術を図書館仕様にカスタムしたという。
LENコードはカメラで認識できることが最大の特徴で、一度に数十冊を読み取れ、貸出や返却などの対応も飛躍的に効率化することに成功している。
そして、管理方法を従来のNDCからLENコードに変更したことで、書籍の配置にも「自由」が生まれたそうだ。「本の色が赤い書籍だけの棚」「(時事ニュースで賭博の話題があったときは)さまざまなジャンル・時代・国の賭け事に関する本だけをあつめた棚」など、棚ごとにストーリーや世界観、テーマをもたせることで、図書館として魅せたいこと、伝えたいメッセージを“棚”から発信できるようになった。
ちなみに、効率化の話をすると、従来蔵書の管理など、棚卸し作業は1週間程度かかっていたが、いまでは1、2日程度で済むようになったという。
地域に関する本、学びのための本、魅せたい本で構成
図書館と地域をむすぶ協議会が手がけた図書館は、主に地域に関する郷土資料や、さまざまな教育・学習関連の本、そして先に紹介したようなテーマごとに採用された本が主だそうだ。つまりは、学術書やビジネス書、新書などがメインのラインアップというわけだ。もちろん、絵本なども多数取り揃えている。
興味本位で、小説がそこまでメインではない理由について担当者に聞いたところ、「小説も置いているには置いていますけど、ジャンルも好みも、流行もすぐに変化します。なので、小説に関しては書店で好きなものを購入してほしいです」との回答があった。
この回答を聞いた際には「あぁ、まぁたしかにそうか」程度にしか受け取れなかったものの、思い返してみれば
- 郷土資料などが多数集まるその地域の図書館である意義
- 無料の人気本貸し出し屋さんではないという意識
- 地元の書店も潤ってほしいという意図
がコメントには入っていたと気づかされた。
図書館だけを良くするのではなく、あくまでも図書館という存在を中心とした取り組みで、その取り組みのなかには雇用の創出なども含まれており、全体像は地域を活性化させていくことがこの協議会の目的だ。
余談ではあるが、基本的に図書館と地域をむすぶ協議会は、自治体などから相談を受けて活動するケースがほとんどだそうだ。地方創生のための行政主体のコンペ等に参加するのではなく、これまで各行政や自治体から相談を受けて実施しているケースばかりという。
そして余談の余談だが、幕別町の図書館はこれまで図書館では難しかった「地方創生交付金」などの予算も獲得できたそうだ。
取り組み方次第で、図書館を地方創生の核に昇華させる“すごい取り組み”だ。
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シクチョーソンでは、デジタル庁 河野太郎大臣の講演をはじめ、「自治体・公共Week2024」で実施された各種セミナーや出展ブースのレポートなどを公開中。気になる取り組み、参考にしたいサービスなどを紹介しているのであわせてチェックしてください。
展示会概要
展示会名:自治体・公共Week2024
会期:2024年6月26日(水)~2024年6月28日(金)
会場:東京ビッグサイト 西展示棟
※本展は業界関係者のための商談展です。一般の方はご入場できません。