建築物を建てるときにも、修繕や解体するときにも共通して必要なものがある。足場だ。
この足場において、「足場レンタル」事業を展開しているのが株式会社ASNOVAだ。同社は足場業界において、独自の技術やサービスで高い評価を得ている。話を聞くと、同社は足場を貸し出すサービスに取り組みつつも、雇用の創出やさまざまな社会課題・環境問題の解決にも取り組んでいることがわかった。同社の阿南 元春氏に話を聞いた。
「足場」とはそもそもどんなものなのか
本題に入る前に、まず足場について簡単に紹介したい。
足場とは、主に建設現場等における高所作業時の足の踏み場になるものを指す。そのため、ほぼすべての建設現場において足場は必要とされている。
足場を用意するのは「足場施工業者」と言われる方々。建設現場においてはさまざまな業者による分担制となっており、足場施工業者は足場の建設と解体が主な業務。
ただ、足場は何かを作るときだけに必要とされるわけではない。高所作業が発生するのは、解体や修繕をする際にも使われることがある。
たとえば自然災害が発生した際の復旧・復興活動。建物に被害があったとき、さらなる事故を未然に防ぐために解体や修繕作業が施される。また、空き家なども含めた建物の老朽化対策も同じだ。
つまり、足場はこの世の中において建物がある限り必要とされつづける、建築業界の基盤となる重要なインフラだ。
足場の需要が今後さらに増加していく理由
株式会社ASNOVA 経営企画室の阿南 元春氏は「足場の需要は増加している」と次のように話した。
「老朽化建築物の増加、地球温暖化等による自然災害の増加、そしてリモートワークなどの普及により自宅で過ごす時間が増えたことによるリフォーム需要など、さまざまなシーンで足場の需要が増加しています。
そのなかでも、老朽化したマンションに関する大規模修繕工事は今後も増加すると言われています」
国土交通省の発表によれば、2022年末時点で築40年以上のマンションは約125万戸存在するそうだ。今後10年後には約2.1倍、20年後には3.5倍に増加すると試算されており、20年後の数は445万戸になるとされている。
足場の需要においては興味深いことに「工事現場だけでなく、学校行事や芸術大学での催事等に利用する相談も受ける機会が増えている」と阿南氏は話した。
足場は保有するよりも借りることが定番に
足場の需要が増すのと同時に、足場自体の価格も高騰している。これは主に人件費や鋼材価格の高騰が理由になっている。
そのため、足場の需要は増しているものの、足場施工業者のなかには、足場の保有数が十分ではないという企業もある。では、足場施工業者はどうしているのか。
「直近では落ち着いているものの、足場価格が高騰していることにくわえ、新型コロナウイルス感染症が拡大した以降、VUCA(※)がささやかれる世の中で、足場を所有すること自体にリスクを感じる事業者様も多数います。
こうした背景があり、足場施工業者のなかでは、足場は購入して自社で保有するよりも、レンタルして必要なときに使う、という傾向が強くなっています」
※VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字を取った言葉で、現代社会が非常に変化が激しく、予測が難しい状況を表す
足場施工業者にとって、足場の保有数は売上に直結するそうだ。つまり、足場が足りなければ工事を受注できず、事業を足止めする可能性がある。事業者側の課題を解決するためにも、ASNOVAが提供する足場レンタルサービスが求められているのだ。
「工事現場の話だけでなく、仮に災害が発生した際、復旧・復興をしなければいけないのに、足場施工業者が保有している足場の数だけでは足りない。その影響で、復旧や復興が遅れてしまう。こういったときでも、当社ASNOVAの足場レンタルサービスを活用いただくことで、災害等にも迅速に対応できるようになります」
レンタルは全国展開 雇用も生み出す事業
今回ASNOVAに取材した最大の理由は、足場を全国各地でレンタルできるように多拠点展開しているからだ。
冒頭でも触れたように、建物の老朽化や自然災害による建物への被害は、全国各地で起こる可能性がある。そのため、必要なのは特定の地域だけに根ざすのではなく、可能な限り全国をカバーすることだ。
「ASNOVAのレンタルサービスは、主要都市を中心に展開する『直営機材センター』が23拠点、地方都市を中心に展開するパートナー拠点が16拠点あります。
拠点によって保有している足場の数は異なるものの、全拠点の合計足場保有額は154億円(2024年6月末時点)。ASNOVAでは安全性が高く、ほかの足場と比べて組み立てが容易で、作業効率が良い“くさび式足場”をレンタルとして提供しています。このくさび式足場においては、レンタルサービスに特化した事業者のなかでも保有量・拠点数とともに全国ナンバーワンです」
ASNOVAが拠点を各地に作っていても、まだまだ万全とは言えない。ただ、これを補うように取り組むのが「ASNOVA STATION」という事業だ。
「主要都市・地方都市以外の地域では主に『ASNOVA STATION』という事業を弊社では展開しています。これは、その地域の企業様とパートナーになり、足場機材やレンタルノウハウなどをASNOVAが提供し、パートナー企業様は地域の施工会社様をメインとするエンドユーザーに機材レンタルをしてもらいます。
パートナー企業様は施工会社様に機材レンタルをした分だけ弊社に支払いが発生するので、パートナー様自体の運用負担も少ないです。
ASNOVA STATIONでも、地域における老朽化マンションの修繕工事やリフォーム工事、災害時の迅速な復旧支援など、さまざまな社会課題の解決を目指しています」
ASNOVA STATIONはフランチャイズに近いイメージだ。資材の用意など事前の初期費用等はかからず、地域企業がパートナーとして参画しやすいモデルにしている。毎月固定で発生する費用はわずか3万円。この費用には、PC貸与やASNOVA社員の訪問によるサポート体制が含まれる。そのほかの毎月ロイヤリティーなどの支払いもなく、足場等がレンタルされた分だけ支払う。いわば従量課金制だ。
ASNOVAではこの取り組みは手が届ききっていないエリアにおける建物老朽化や災害発生時などの社会課題を解決するため、としているが、それだけでなく、地域の活性化や雇用創出にもつながっている取り組みであることは間違いない。
ASNOVAが目指す「循環型社会への貢献」とは
ASNOVA 阿南氏への取材で、同氏がたびたび口にしていたのが「ASNOVAは循環型社会への貢献を目指している」ということだ。
「従来のビジネスモデルでは、資源の大量消費や大量生産、大量廃棄による環境負荷が大きな課題でした。モノをシェアするビジネスモデルを構築することで、足場をとおした循環型社会への貢献を目指しています」
取材で最も筆者が驚いたのは「足場の管理ノウハウ」だ。
足場のレンタルをする以上、足場を紛失するなどはもってのほか。定期的に棚卸しをして在庫数等を確認しているが、ASNOVAにおける棚卸し時の差異率はわずか0.002%だという。
これはレンタル先の企業側にとっても安心して機材を借りられる“材料”のひとつだ。営業上の強いメリットであるのと同時に、機材を無駄にしていないという同社が目指す循環型社会にも大きく貢献している。
管理ノウハウの詳細については明かされなかったものの、各拠点の責任者が検品し、拠点を地域ごとに管理するエリア長が再度確認するなど、日々の積み重ねが高い精度を実現している。
さらに「足場機材は20~30年以上利用可能にしている」とも阿南氏は話していた。保有数だけでなくその品質も損なわないように努力しているのだ。
▶ 参考:ASNOVA機材センターで行っている業務改善をご紹介いたします!
循環型社会へ貢献する取り組みのなかで、ASNOVAでは「ASNOVA市場」という仮設機材の販売・買取サイトも運営している。新品から中古品の販売はもちろん、足場の買取もすることで、足場を無駄にしない取り組みだ。
つまりASNOVAは「足場」という機材を軸にしつつ、レンタルや販売買取という事業で、社会課題をさまざまな角度から解決しようと目指しているのである。
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足場自体を提供する企業、足場レンタルサービスを提供する企業はASNOVAのほかにもある。ただ、そういったなかでも、ASNOVAは循環型社会への貢献と社会課題の解決を強く目指している。
足場は「工事のときに使う機材」という認識でしかなかったが、ものの見事に意識を変えさせられた。
とくに災害発生時における復旧・復興は、社会生活への再復帰を早めるかどうかのカギを握る。
地域活性化などの話は都心は都心、地方は地方とまったく別の視点で物事を考える必要があるが、この足場の重要度は全国共通だ。