国内のスマートシティの代表格・千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」が新しい取り組みを始める。先行事例都市という側面をもつ同スマートシティの取り組みは、他地域へのお手本になるものが多く、この取り組みへの期待もかかる。
三井不動産株式会社は11月21日、柏の葉スマートシティがこれまで進めてきた「実証の場の提供」「街の多様なプレイヤーとの共創」という、ふたつの価値をパッケージ化し、共成長ビジネスプログラム「CO-GROWTH」として提供開始することを発表した。これは「街で『新商品開発』、『サービス実証』および『サービス実装・情報発信』できる」これまでにない取り組みだ。
R&DからPoC、実装・発信までをワンストップ
「CO-GROWTH」は、柏の葉スマートシティのさまざまな機能を活用しながら、社会課題の解決を目指すビジネスソリューションだ。ビジネスのR&D(研究開発)フェーズから、PoC(実証・社会受容性検証)、実装・発信までを、各参画企業に合わせてワンストップでプログラムをカスタマイズして提供される。
目的は、イノベーションの創出・新産業の創造を加速させることだ。また、柏の葉スマートシティは、「CO-GROWTH」の取り組みにより、社会課題解決を見据え、参画企業と街が共に成長する未来を目指すという。
ちなみに、柏の葉スマートシティの街づくりを推進するのは一般社団法人UDCKタウンマネジメントで、三井不動産株式会社はその一員である。
CO-GROWTHの提供内容
CO-GROWTHが提供するビジネスソリューションは以下のとおりだ。
研究・開発 ― RESEARCH & DEVELOPMENT
研究や技術実証、アカデミアや企業との連携による共同研究・技術開発。
例)まちの健康研究所あ・し・た会員3,700名を対象にアカデミアなどと連携し、健康データ収集および解析が可能。
実証実験 ― PROOF OF CONCEPT
サービス実証・社会受容性検証・柏の葉の街に新サービスや商品のテスト導入。
例)自社プロダクトを期間限定で実際に街(公共空間やららぽーと柏の葉など商業施設)にテスト導入し、利用者からのリアルなフィードバックを得ることが可能。テスト導入を通して、社会受容性なども検証可能。
実装・発信 ―SOCIAL IMPLEMENTATION
市場や産業を創造し、住民の暮らしから変革することで街から社会を変えていく。
例)自社プロダクトを街に実装。UDCKタウンマネジメントがサポートすることで、街の生活者への周知および理解促進を進める。また柏の葉スマートシティHPでの記事化やメディアへの露出を通して、プロダクトの対外発信を進めることが可能。
柏の葉スマートシティが持つエコシステム
柏の葉スマートシティには、街で暮らす人や働く人(PEOPLE)、街のアカデミアや企業(PLAYER)、スマートシティ・インフラ(PLATFORM)が有機的に関わりあう生態系(エコシステム)が形成されている。CO-GROWTHではこれらのエコシステムとの連携を促進していくのも狙いのひとつだ。
暮らす人&働く人 ― PEOPLE
柏の葉スマートシティでは暮らす人や働く人による、多様なコミュニティが形成されている。街の生活者と企業をつなぎ、サービスや商品にその声を取り込むことで、イノベーションを加速させていく。
アカデミア&企業 ― PLAYER
街には共創に積極的な大学・研究機関・民間企業などが立地・活動している。本プログラムでは、柏の葉スマートシティに参画することを通じてパートナーとの連携・協業を促進していく。
柏の葉スマートシティを拠点とするアカデミアでは、東京大学や千葉大学、AIST Solutions、国立がん研究センター東病院/国立がん研究センター先端医療開発センターなどが名を連ねる。
スマートシティ・インフラ ― PLATFORM
柏の葉スマートシティでは、ビジネスの実装を支援する、ソフト・ハードのインフラが整備されており、積極的に実証実験やサービス・商品開発の受け入れられる土壌が形成されている。
柏の葉スマートシティの取り組みとは
おそらく、スマートシティや地方創生、地域活性化に興味がある人なら柏の葉スマートシティについて見聞きしたことがあるはず。釈迦に説法かもしれないが、改めてこの取り組みについても触れておく。
柏の葉スマートシティとは、「世界の未来像をつくる街」を目指した、柏の葉キャンパス駅を中心としたエリアだ。公(千葉県・柏市)・民(住民・民間企業)・学(大学)の連携で「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」の3本柱で街づくりを推進している。
都心から約30分とアクセスも優れており、先に紹介したアカデミア……東京大学や千葉大学、国立がん研究センター東病院、産総研柏センターをはじめとする研究機関が柏の葉キャンパス駅から半径2km圏内に集まる知の集積地でもある。
さらに、住宅、商業施設、オフィス、ホテル、病院、大学、公園など、街のあらゆる機能が凝縮した「ミクストユース型」の街づくりを進めており、駅周辺に便利な生活環境と豊かな自然が広がっているのも特長のひとつ。
新産業創造に向けては「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」を中心に、大企業からスタートアップまでさまざまな企業の成長を後押しする環境づくりに取り組んでおり、コラボレーションを生み出すコミュニティや、街をベースとした実証フィールド、ロボットやドローンなどの開発をサポートするテストサーキット、ライフサイエンス領域における産学医連携を促す場やコミュニティの形成、人や街のデータから豊かな生活を実現するためのデータプラットフォーム、国際的なイノベーションアワードなど、オープンイノベーションを促進するさまざまな仕組みがある。
柏の葉スマートシティでの取り組みを、ほかの地域がすべて真似をすることは立地や環境、これまでのスマートシティへの歴史などの観点を踏まえると難しい。だが、部分的な参考になる要素が非常に多く、また情報発信にも積極的であるため、国内スマートシティのトレンドを作り出してくれているのは事実だ。
今回発表した「CO-GROWTH」は、新たなチャレンジの実装までを一気に加速させられる取り組み。稚拙な表現で恐縮だが、すごく楽しみだ。とくに、PoCの部分における「社会受容性」を柏の葉スマートシティという先端を歩む地域で検証できるのは、企業にとって興味がわくポイントではないだろうか。