「地域の人材不足をどう解決するか?」— いま、各地でこの問いに直面している。
そんな課題に取り組むため、2025年2月19日、関東経済産業局主催の「地域の人事部」共創会議の第2弾が開催された。企業、自治体、金融機関などの関係者が一堂に会し、実践的な議論を交わした本イベント。東京都内で開催されたイベントにもかかわらず、福岡県や香川県、山口県、富山県などからの参加者もいた。本記事ではこの熱気あふれる現場をレポートする。
シクチョーソンでは第1回の共創会議のレポート記事も公開しているので、あわせて読んでほしい。

地域の人事部とは
地域の人事部とは、地域の企業が抱える人材確保・育成の課題に対して、商工会、商工会議所、地域金融機関など地域の支援機関、自治体、民間企業等が連携し、包括的な支援を提供する仕組みである。
中小企業、なかでも地方の中小企業では「人材を募集しても応募がない状況」だ。さらには、人材育成にも課題がある。これは、人事専任の人材がいなかったり、育成スキルが不足していたりすることが要因だ。こうした人材に関する課題を解決するために、関東経済産業局では、関東圏の8地域をモデルとした実証事業を進めており、これまでの成果や課題を踏まえて、より実効性の高い取り組みを模索している。
トークセッション:「企業の人材投資の理解を深める」

第2回の共創会議では最初に、地域の人材確保・育成に関する現状や課題、解決策について、企業・金融機関・自治体の視点からトークセッションが行われた。燕市、三島市、三条市の具体的な事例を交えながら、「若年層の流出」「複業・兼業人材の活用」「企業の人材投資の意識改革」といったテーマが掘り下げられた。
登壇者
- 山後 春信 氏(株式会社つばめいと 代表取締役/新潟県燕市)
- 齊藤 陽大 氏(三島信用金庫 元気創造部/静岡県三島市)
- 大森 裕一 氏(三条市 経済部 部主幹/新潟県三条市)
- ファシリテーター:加藤 遼 氏(株式会社パソナJOB HUB ソーシャルイノベーション部長)
地域課題と取り組み
加藤氏: まず、皆さんが取り組んでいる地域の人事部の活動についてお話しいただきたいと思います。それぞれの地域で直面している課題と、具体的な取り組みについて教えてください。
山後氏: 燕市では製造業が盛んなのですが、多くの企業が小規模であり、人材確保が難しい状況です。特に若い世代が都市部へ流出し、地元に定着しないことが問題でした。そこで、地域全体で企業を支える仕組みが必要と考え、大学生のインターンシップ受け入れから始めました。しかし、それだけでは即効性がなく、次のステップとして複業・兼業人材の活用を進めています。
齊藤氏: 三島市では、企業の人材不足が深刻で、特にデジタル人材や専門技術を持つ人の確保が課題です。そのため、三島信用金庫として、複業・兼業人材のマッチングを積極的に支援する「複活」というプログラムを展開しました。また、大企業のシニア社員向けにリスキリングプログラムを実施し、社外での挑戦の後押しや地域企業への支援につなげています。
大森氏: 私がいる三条市は、人口減少が進み、特に20代女性の流出が顕著です。市内の企業は4,500社以上あるようですが、体感としては従業員5人以下の企業が3,000社以上あるのではないかと思われ、個別の人材投資が難しいのが現状です。そこで、市としてはまず意識醸成を進めることが重要だと考え、地域の関係者が集まる場を作り、ネットワーキングを強化しています。
地域の人事部の今後の展望
加藤氏: 皆さんの地域での活動を伺うと、それぞれ特色がありながらも共通の課題も多いですね。今後、地域の人事部がどのように発展していくべきか、皆さんの考えをお聞かせください。
山後氏: やはり、企業が人材投資の重要性を理解し、実際のアクションにつなげることが不可欠です。そのためには、成功事例を積極的に発信し、企業の経営者同士が学び合う場を作ることが重要だと考えています。
齊藤氏: 私たちの取り組みでは、地域内だけでなく、都市部の専門人材ともつながることが重要です。特に複業・兼業人材の活用は、地域企業の競争力を高める手段の一つになります。今後は、より多くの企業が参加しやすい仕組みを作っていきたいです。
大森氏: 三条市では、地域の人事部を今後どのように誕生させるか、まさに模索している段階です。まずは地域全体の意識醸成を進めつつ、あらゆる主体が参加できる三条版の地域の人事部誕生を目指していきたいと思っています。
加藤氏: ありがとうございました。どの地域も共通の課題を持ちながらも、それぞれの強みを活かした活動を展開していることが分かりました。今後もお互いの事例を共有しながら、より実効性の高い取り組みへと発展していくことを期待しています。
グループディスカッションでは各地で抱える課題や解決方法が議論

「この課題、どう解決する?」—— 参加者たちは真剣な表情で模造紙を囲んだ。
トークセッションの後、参加者は関心の近いテーマごとにグループが編成され、それぞれの直面する課題と解決策をぶつけ合うディスカッションが始まった。付箋が次々と貼られ、意見が交差する。「それ、うちの地域でも試せそうだ!」「この方法なら、企業の賛同を得やすいかも」—— 現場はまさに白熱の議論に包まれた。
各地域での課題や取り組み内容を共有&ディスカッション
グループディスカッションは、以下のテーマに沿って進められた。

- 地域の人事部の現状と課題整理
- 参加者が各地域で直面している人材確保・育成等の課題を模造紙に書き出す。
- 成功事例の共有
- すでに地域の人事部を運営している地域の参加者が、成功事例や課題克服の方法を紹介。
- 新しいアイデアの提案
- これまでの議論を基に、各グループで今後の取り組みのアイデアを提案し、発表した。


グループディスカッションでの学びと気づき
参加者同士の議論を通じて、以下のような学びや気づきが得られた。
- 地域ごとの課題は異なるものの、共通するテーマ(人材確保・定着、複業人材の活用など)がある。
- 成功事例の共有を通じて、新たな施策のヒントを得ることができる。
- 金融機関や行政が積極的に関与することで、企業の人材投資を促進できる可能性がある。
- 短期的な支援策だけでなく、長期的な視点で持続可能な仕組みを構築する必要がある。
限りなく「白熱した会議」に近いイベントだった
取材者として参加した筆者の視点からも、本イベントの熱量の高さを感じた。特にグループディスカッションでは、座って静かに意見を交わすというより、立ち上がって活発に意見を交わす光景が多く見られた。

そしてなにより、具体的な課題が本当に多く挙げられていたことも印象的だった。各地から参加者が集まっているため、その数だけ異なる課題も多かったようにうかがえる。いくつか話を聞いていて、「なるほど……」と思った課題等を紹介したい。
- 中長期的に人材育成に取り組めるほどの、体力がない企業が多い
- 物価高騰等の影響もあり、人材獲得への予算捻出が難しい
- 学校を卒業した学生の都市部への流出が止められない
- 人事部としての活動をしていても、企業側がなかなか関心をもってくれない
- 行政からの支援に頼らない、地域の人事部自走化モデルを作ることが難しい
- 企業はSNSを使って人材獲得に向けた発信をしているが、うまく使い切れていない
- 人手不足によってビジネスチャンスを逃す瞬間を目の当たりにした
しかし、このイベントでは単に課題を共有するだけでなく、「それなら●●の施策が使えるのでは?」「広域連携で取り組めないか?」といった具体的なアクションへとつなげる動きが見られた。
各地域での実装を進めていく本格フェーズに
人材難・人手不足は、日本が抱える数ある社会課題のうちの大きなトピックのひとつだ。少子高齢化が進み、労働人口が減るなかで、どのように持続可能な社会を築いていくかは常に考えなければならない。
第1回の地域の人事部 共創会議では、関東経済産業局 産業人材政策課長 石原 優氏が「さまざまな主体組織がつながり、新たなイノベーションが生まれる可能性が高まる」と話していた。その取り組みのひとつが「地域内だけでなく、地域外との連携」で、広域連携とも呼ばれるものだ。連携の内容はさまざまだが、たとえば「人材のシェア」のような取り組みは各地で進み始めている。
2025年3月には、関東経済産業局による地域の人事部活動開始から3年間の報告会が予定されている。
今後は、実証事業で得られた成果を踏まえながら、各地域での実装を進めていく本格フェーズに突入していく。持続可能な財源確保、企業の意識改革、そして実効性のある仕組み作りを進めることで、地域の人材確保・育成の課題に対する解決策を見出していく。
