東京圏への人口一極集中問題は社会課題のひとつであるものの、東京都心から近郊へと転居をする人たちも増えています。
とくに新型コロナウイルス感染症の流行以降は、リモートワークを推進する企業が増えたことで、都内の企業に勤める人でも近郊・そのほかの場所から仕事をするようになりました。
その結果発生しつつあるのが「ドーナツ化現象」です。人口一極集中問題などを語るうえで外せないトピックのひとつです。この記事ではドーナツ化現象について解説します・
ドーナツ化現象とは
ドーナツ化現象とは、都市の中心部の居住人口が減少し、周囲の地域(郊外)の居住人口が増加することを指します。都心を中心とした人口分布を、お菓子のドーナツのように表した場合、都心部分に穴が開いたように人口が少なくなることからこの名前がつけられました。
ドーナツ化現象が発生する背景には主に3つの要因があるとされます。
1.都心の土地価格の高騰
商業的に発展しやすい土地では、店舗やオフィスなどで金銭的利益が見込みやすく、地価が必然的に上がっていきます。地価の高騰は商業施設やオフィスビルにとどまらず、住宅の価格にも影響するため土地全体での価格が上がります。
ご存じのとおり、東京都心の地価は非常に高いです。
不動産情報サイトのホームメイトのサイト上で確認できる家賃相場では、間取り1Rから1DKの家賃相場の上位5地区とその価格は以下でした。
東京都
千代田区:11.42万円
港区:11.07万円
目黒区:10.4万円
中央区:10.07万円
新宿区:9.83万円
栃木県
宇都宮市:5.26万円
小山市:4.83万円
栃木市:4.24万円
足利市:4.2万円
鹿沼市:4.19万円
大阪府
大阪市西区:7.24万円
大阪市中央区:7.18万円
大阪市北区:7.14万円
大阪市浪速区:7.06万円
大阪市福島区:6.98万円
東京都23区内で絞ると、家賃相場の最安値は足立区で5.82万円です。つまり、栃木県で最も高い宇都宮市よりも、23区内で最も安い足立区のほうが相場は上回っています。ちなみに、大阪市西区と同等な23区内の家賃相場の場所は、日暮里や町屋などがある荒川区(7.25万円)です。
高騰する都心部の家賃相場からわかるように、同じ間取りに住むのであればできる限り安価な都心近郊に移り住もうと考える人が多くなり、周囲の場所へと転出していくのです。
求める住まい環境の変化
住居価格の高騰だけでなく、周辺環境に求めるものが変化し、都内ではなく周囲の土地へと転居するケースがあります。
都心部分は商業施設やオフィスも立ち並んでいるため、買い物に行ったり仕事に行ったりするのには便利です。しかし、そのぶん騒音や大気汚染、自然環境の少なさなどから、住まい周辺の環境が起因となり、転居する例があります。
郊外にある住まい環境の改善
都内に通勤できる距離にある場所であれば、都心近郊の土地が一斉に整備されベッドタウン(寝るための場所)として発展しました。都心へのアクセスも良好で、住宅の近隣には大型商業施設があったり、学校や病院が建てられたりします。また、都心よりも家賃などを安く抑えられ、自然環境もあるというのがメリットです。
実際、東京と近郊で見ても、働く場所は都内であるものの、住む場所は都内近郊(神奈川県、埼玉県、千葉県)を選ぶ人は少なくありません。
ドーナツ化現象は何が課題なのか
一見すると、ドーナツ化現象は地域ごとの役割分担の意味があるように思えますが、問題とされるのには理由があります。
まず、夜間のゴーストタウン化です。日中やビジネスタイムは人口が急増するものの、夜間になるととたんに人が減ります。すると、夜間の治安が問題になります。同時に、暮らす人たちが減るため、学校や病院などの施設も徐々に減っていき、果ては衰退の一途をたどる可能性があります。
そして現在でもすでに発生している通勤・通学に使う道路や電車の混雑問題です。ベッドタウンは都心へのアクセスが良く、高度経済成長期以降、人気なため住む人も多いです。そのため、近郊から都内へ通うために利用する電車は毎日満員電車状態です。移動時の不満は大きなストレスにつながりやすいとされています。
3つ目はドーナツ化現象と同時に発生する「スプロール現象」です。英語で「sprawl」と言い、意味は無計画・無秩序です。基本的に住まい環境は各種インフラが整備されてから整えられます。しかし、ドーナツ化現象が発生すると、地域ごとに独立して(無作為に)発展するため、生活や交通インフラが整い切らない、住居しかない空間が作られるなどの減少が発生します。
スプロール現象はとくに大きな課題で、たとえば交通インフラが整っていなければ、マイカーをもっている人ともっていない人で生活レベルに差が生まれることもあります。本来であれば都心から計画的に開発を進め、近郊なども発展していくのがベストではあるものの、急速に近郊への転居が進むとスプロール現象が起きやすいのです。
ドーナツ化・スプロール現象の対策としてのコンパクトシティ
都心近郊に沿った話ではあるものの、ドーナツ化現象やスプロール現象の解決には、コンパクトシティという考え方が重要とされています。
コンパクトシティとは、住宅や公共サービス、買い物ができる商業施設などをまとめた都市開発のこと。徒歩圏内でさまざまな施設を利用できるのを目的としています。
とくに、高齢化が進む日本では車の運転をしない/できない高齢者も多いため、そういった方々も不自由なく暮らせるまちづくりが求められています。また、自家用車は公共交通機関を使わないまちづくりをすることで、CO2の削減によって環境良化につながるのです。
国内では、青森県青森市の事例が成功例として話題に挙がります。
郊外に広がる都市機能を中心市街地に集める取り組みが1996年からスタート。当時は市街地拡大の影響で、郊外のインフラ整備や除排雪による支出などが急速にかさんだことが背景にありました。
住む場所や住まい周辺に求める環境などは三者三葉であるため一概に「どうすればベストなのか」という結論には至れないものの、暮らしやすい街は誰しもが理想とするため、それぞれの地域で、地域にあった特徴を伸ばし、「〇〇があるから、そこに住んでいる」のような動きを実現できる状態になれば地域格差なども埋められると考えています。