バス事業会社をはじめ、公共交通機関が依然として苦しい状況に立たされています。
新型コロナウイルス感染症による外出自粛のあったころから比べて、現在は売上や需要も回復傾向。しかし、人件費や物価高によるエネルギー燃料資源の高騰が痛手となり、不採算路線の廃止や事業縮小などをせざるを得ない事業社があります。
交通インフラの縮小は、その地域の住民にとっては非常に大きな問題で、生活のしづらさに直結する話です。また、高齢化が進んでいる状況で交通インフラが縮小すると、いわゆる“買い物弱者”と呼ばれる、生活に必要なものを手に入れられない、手に入れる手段がない人が増える可能性もあります。
このような現状に対し、自治体で取り組みが進んでいるのが「デマンド型交通(デマンド交通)」です。この記事では、デマンド交通について紹介します。
デマンド交通とは
デマンド交通は新たな輸送の形です。利用者は事前に使う日時と乗降場所を選択すると、利用者に合わせて運行サービスを提供するものが最も一般的な例です。
定期路線を運行するバスと大きく異なるのは、利用者の予約がないと運行せず、ルートも一定ではない点です。また、タクシーと異なるのは基本的に乗り降りする場所はいくつかの選択肢からしか選べない(※)という点です。つまり、路線バスとタクシーのハイブリッドと言えるのがデマンド交通です。
※ドア トゥ ドア方式のデマンド交通など一部例外あり
運行バスは利用者がゼロ人でも決められた経由地を運行するため、輸送やエネルギー資源を無駄にしてしまうデメリットが存在していました。タクシーは自由度の高い輸送手段ではあるものの、運行バスに比べて運賃が高くなりやすい欠点が存在しています。一部自治体においては高齢者向けのタクシー料金助成制度が設けられているものの、75歳以上など年齢制限があったり、世帯状況によるものであったりと条件がある自治体がほとんどです。そのため、住民全員に対してベストな対応ができるかと言われると難しい面もありました。
公共交通機関は事業者側の意向と、利用者側の希望がなかなかマッチしない部分もあり、すべての希望を叶えることは難しいとされています。ただ、そのなかで“いいとこどり”をしようと生まれたのがデマンド交通です。
ちなみに、デマンド交通ではセダン型やワゴン型の自動車が使われます。
デマンド交通の種類
デマンド交通には、先に述べた「利用者の予約に応じて、乗降ポイントにて運行する」といった方式以外にもさまざまな形で取り組みが進められています。
自由経路ミーティングポイント型
先にも紹介した、利用者の予約に応じて、各地に点在する条項ポイント同士を結ぶ方法です。
定路線型
路線バスやコミュニティバスのように、決められたルートを運行しバス停留所で乗降します。路線バスなどと異なるのは、予約がない際は運行しないことです。
迂回ルート・エリアデマンド型
定期路線型と似ていますが、予約状況に応じて所定のバス停などまで迂回させて運行する方式です。バス停まで遠い地域を迂回ルートとして設定することで、交通インフラを隅々まで提供できます。
自由経路ドア トゥ ドア型
タクシーと同じように、エリア内であればどこでも自由に乗り降りできる方法です。
デマンド交通の課題
一見すると、利用者の需要に合わせて運行するため、需要を満たしつつ、事業者側の燃料費や人材確保といった課題も解消できるのがデマンド型交通のように思えます。しかし、デマンド型交通自体にも課題があるため、「えいや!」で導入するのはまだ早い状態です。主な理由は以下とされています。
・ひとりあたりの輸送コストがあがる可能性
・思わぬ需要によって自治体や事業者側のコストが増加する可能性
・利用者(住民)が「予約」に慣れない、使わない可能性
・「利用されていないこと」が顕在化しない可能性
需要増加によって自治体や事業者側のコストが増すのはある意味うれしい悲鳴ではあるものの、利用者が予約になじめない、その結果利用されておらず実際の課題が顕在化しない恐れもあります。
多くの自治体のデマンド交通を利用するには、事前の申し込み登録が必要です。登録後に、予約ページなどで予約期間(例:利用したい日時の2週間前から30分前まで)に予約申し込みをします。予約の方法はオンラインで受け付けている自治体もあれば、電話をしなければいけないものまでさまざまです。
さらに、利用者としても通常の運行バスよりも運賃が高くなることがある点も注意が必要です。デマンド交通は一回の利用におおむね300円程度かかります。
くわえて、デマンド交通は行政側の施策であるため、既存の交通インフラに携わるバス会社やタクシー会社との調整も必要です。バスやタクシーとともにデマンド交通も共存もしくは補完しあうことが住民にとっての最善の選択なので、導入までは協議を進める必要があります。
スマートシティにおけるモビリティの取り組み
デマンド交通以外にも、地域活性化や地方創生、スマートシティといった地域全体で社会課題を解決する取り組みではモビリティの領域は大いに注目を集めています。
たとえば、自動運転にはさまざまな企業が取り組みに参画しています。自動運転技術が発達すれば、既存の交通インフラを一変させる可能性すらあります。買い物弱者(買い物難民)が減るだけでなく、「運転をする」という行動すらもなくなるかもしれません。
自動運転にはレベル0~5まで設定されている。レベル0は運転自動がなく、レベル5はシステムが完全に運転を自動化してくれる
ただ、完全自動運転までの道のりはまだ遠く、目先の交通インフラの変革も真っ最中です。
いずれにしても、住む地域によって交通インフラ状況も大きく異なり、それによって買い物などの生活満足度も変わってしまう状況です。
つなぎの一手としてデマンド交通を取り入れる自治体は増えそうです。高齢者人口の多い場所、住居からスーパーや病院などが遠い場所など、スポットによっては圧倒的な需要を得られ、住民からの満足度も急上昇させる可能性を秘めています。
モビリティ領域をはじめ、交通インフラは生活のしやすさに直結する取り組みなので、地域ごとに適した方法を模索していくことが住民のためになるはずです。