SDGs(持続可能な開発目標)が提唱されたこともあり、多くの人が環境や社会問題に関心を持つようになりました。
これは一般の人々にとどまらず、行政や企業などもSDGsへの活動を進めています。とくにここ数年で「SDGsに関する取り組み」として公表する企業が増えてきたように感じます。
このSDGsと合わせて、企業等が取り組みつつあるのが「ESG」というものです。主にESG経営などと言われるこの用語。本記事ではESGについて紹介します。
ESGとは
ESGとは、環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の3つの要素の頭文字を取った言葉で、これらのESGを重視する経営方法として「ESG経営」という言葉が生まれました。
ESGという言葉自体は2006年に当時の国連事務総長が金融業界に向けて提唱した「PRI」という原則の中で登場しています。PRIとは、Principles for Responsible Investmentの略称で、投資の際に従来は財務情報から意思決定をしていたところに、ESG要素を組み入れることを定めました。
すでに国内企業でもESG経営に取り組む会社が増えており、たとえば以下の企業などが挙げられます。
- 日本郵政株式会社
- キヤノン株式会社
- オムロン株式会社
- 花王株式会社
- トヨタ自動車株式会社
- SOMPOホールディングス株式会社
- 日本電信電話株式会社
- 株式会社キーエンス
- KDDI株式会社
- 富士フイルムホールディングス株式会社 などなど
環境問題などはほとんどの会社が取り組んでいることのため、企業の規模にかかわらず軒並みESGを推進していると言っても過言ではありません。ある意味で、企業推進において不可欠な要素になってきているともされます。
ESG経営が求められる理由・背景
新型コロナウイルス感染症が世界で流行したときのように、まったく予想できなかった事象が世界中で起きる可能性があります。国内においても、円安の進行やそれにともなう物価高など、刻一刻と状況が変化し、先行きを予測できない時代とも言われています。
この先行き不透明な時代を下記の4つの単語の頭文字から「VUCA」や「VUCA時代」と呼びます。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
VUCA時代である現状では、企業としても従来のような財務情報のみを投資家に開示し、投資してもらうといった経営方法だけでは不十分と言われるようになりました。その結果、企業としても持続可能性……つまり、長期経営を可能にするためにESGの領域に注力するようになったのです。
外的要因が不確定要素すぎるこの時代なので、持続可能な社会を構築することで安定した利益の確保を目指しているのがESG経営の根底にある部分のひとつです。裏を返せば、昨今の経営戦略のなかでは、目先の利益や旧来の体制による経営手法ではリスクだと言われるようになってきているのです。
また、人種やジェンダー、そのほか多様性、安全性などに配慮するのは企業としてある意味最低限のステータスにもなってきています。これらの要素は、新卒採用や中途採用における就職活動者・求職者側から求められることが増えています。そのため、労働環境等への取り組み意識が低いと、雇用に問題が生じてしまうようになっているのです。
ESG経営で取り組まれる内容とは
それでは、ESG経営を推進するうえで、実際にどのような取り組みがあるのか簡単に一例を紹介します。
環境
- 再生可能エネルギーの活用
- ペーパーレス化
- オフィスの節電や節水(オフィス機能そのものも含む)
社会
- リモートワークやフレックスタイム制の導入
- 育児や介護の支援
- 業務効率化による労働時間の最適化/短縮
ガバナンス
- 情報漏えいや不正アクセスなどを予防するセキュリティ体制
- 社員および関連する人への各種リテラシーの浸透およびその徹底
- 内部通報が可能な窓口の設置や風通しの良さ
実はESG経営という概念ではなくても、すでに多くの企業が何らかの形で取り組んでいるケースが多いです。
書類は必要最小限のみを紙で保管し、それ以外はペーパーレスにしている企業も少なくありません。また、昨今のたびたび発生する不正アクセス問題から、会社全体がセキュリティへの意識が高くなり、体制を整えなおしている話も頻繁に聞きます。
ESG経営は中長期的に見据えて取り組むもの
ESG経営に取り組むメリットは非常に多く、先述したように企業価値を高め、投資家からも信頼を寄せられ、人手の確保などにも寄与します。
しかし、ESG経営を進めていくのには、中長期的な時間が必要です。とくに、ESG経営を始めたから「これだけの成果が出た!」と定量評価を下しづらいのもネックではあります。当然、ESG経営によって投資家の注目を集め株価が上昇するなど定量評価される要素もあるにはあるものの、成果がすぐに出るかと言われるとそうではないのも事実です。
そのため、ESG経営は中長期的な取り組みであると言えます。同時に、ESG経営は会社・企業におけるスタンダードになると言われている要素であるため、「ESGに取り組んでいない企業は除外される」といった状況になる恐れもあります。
といいつつも、前述した取り組み例からわかるように、大きなコストをかけなくても現場側の運用方法の刷新や方法次第でESG経営を推し進められます。
実際、目先にある小さなことから徐々に変えていき、部分最適化をしながら最終的に全体最適化を目指しているのが多くの企業が現在取り組むESG経営の実態です。
今日もしくは明日からでもすぐに取り組める内容もあるはずです。まずはESG経営があると知り、意識を多少でも寄せた時点で、一歩もしくはそれ以上、ESG経営に対して進んでいます。