群馬県前橋市の産泰神社がグッドデザイン賞を受賞 審査員は「全体設計がとてもよくできている」と絶賛

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今年もグッドデザイン賞の季節になった。さまざまな企業や団体などのサービスや製品がグッドデザイン賞を受賞している。

地方創生や地域活性化などに関連するグッドデザイン賞を受賞したモノもたくさんがるが、そのなかでも産泰神社を取り上げる。

▲ 産泰神社の取り組みのひとつ。社紋に合わせた1:1のプロポーションへ変更。また願意を文字ではなく、願いを込めた紋様として描くことで、人の目を気にすることなく身につけやすいデザインに
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安産・子育ての神様である木花佐久夜毘売命を祀る

産泰神社は群馬県前橋市にある神社だ。各地の産泰神社の総本社である。安産・子育ての神様である木花佐久夜毘売命を祀っていることで有名。

最寄り駅は前橋駅もしくは大胡駅。駅から車・タクシーを使うと、前橋駅からは20分、大胡駅からは10分の距離に位置する。産泰神社には約200台が駐車可能な駐車場が用意されていることからも、アクセスするなら車で行った方がよさそうだ。

神社全体のリブランディングで課題を解決へ

産泰神社が今回取り組んだのは神社全体のリブランディングだ。同神社が課題として抱えていたのは主に以下の2点。

  • 市街地から離れた過疎地にあるという弱点
  • 参拝者数は頭打ちの状況

少子高齢化が進むなか、崇敬者が減り若者の神社離れも著しく、神社の後継者問題も顕著であり、歴史ある神社の存続と保護は大きな課題だ。

産泰神社では、社殿を守るために潜在自然植生を採用し自然本来の姿で鎮守の森を再生させたり、妊婦の方をはじめ誰もが安全で快適にご祈祷を受けられる祈祷殿を新築したり、駐車場を整備して晴着を着た人でも足元が汚れないような工夫をしたりと環境面の整備を尽くしていた。しかし、市街地から離れた過疎地にあるという弱点が克服できずにいたという。

また、お守りや授与品はカタログ品に社名を入れる汎用的なものを頒布していたことで「どの神社も同じ」「どんなご利益かわからない」印象を与えてしまい、参拝者にわざわざ足を運んでもらうことが難しく、参拝者数は頭打ちの状況だったそうだ。

「安産祈願」と「祈祷」を戦略の軸に、売上は昨対比114%を達成

そこで最初に取り組んだのが持続的な神社経営と文化継承を目的とした経営戦略の策定だ。主祭神である木花佐久夜毘売命のご利益を活かす「安産祈願」と、神社の本義である「ご祈祷」のふたつを戦略の軸とした。

安産祈願を受ける20から30代女性とその家族を対象に、ご祈祷に何度も訪れるきっかけとなるように社紋や授与品、WEBなどをデザインした。

また、主祭神を表現する社紋と共に「産」の字をかたどった「安産祈願紋」もデザインし、産泰神社の軸を作り出した。

▲ 重要な安産祈願の授与品では、「産」の字をかたどった「安産祈願紋」を特別にあしらうことで、産泰神社において特別な祈祷であることを表した

授与品は古くから慣習的に使われてきたものの意味を継承しながらも、オリジナルプロダクトとしてリデザイン。WEBサイトでは神職にしか書けない知識を一般向けにひらくコンテンツを制作。神社文化を広く啓蒙し、遠方からの集客のきっかけにもなった。

リデザインの結果、WEBの月間平均閲覧数は2.2万から20万に増加。参拝者も増え、2023年度の売上は昨対比114%を達成したそうだ。

▲ 絵馬をはじめ、産泰神社の社紋や安産祈願紋を授与品にあしらうことで神社全体の統一感をもたせている

審査員は「全体設計がとてもよくできている」とコメント

グッドデザイン賞の受賞にあたって審査委員からは次のコメントが寄せられている。

「神社が減り、日本の人口も減少し、神社離れが進むなか、神社のリブランディングの事例が増えている。そのなかでこの産泰神社は全体設計がとてもよくできている。妊婦や女性のために細部まで考えられた、お守りなどの授与品は、何度も通って集めたくなる。神社の価値として不変なところと、今のユーザーにあわせて変えるべきところを深く検討して、細部まで丁寧につくられたデザインである」

▲ 安産と子育てを見守るはりこ戌のデザインは、伝統的なはりこの型を用いながらも、産泰神社独自の印象的な絵付けを施した

また、グッドデザイン賞のうち、賞審査委員セレクション「私が選んだ一品」において、建築史家の倉方 俊輔氏にも選出された。同氏のコメントは以下のとおり。

「手にすることで、ご利益がある。そう感じさせるのは、言葉を超えた、デザインの力だ。そんな私たちの歴史と身体に受け継がれてきたエッセンスを整理することで、持っていたくなるものが生まれている。良いものは、頭を介さず、心に響き、身体のリズムを内側から整えるに違いない」

歴史を継承していくためのリブランディング。一筋縄ではいかないことだが、売上等の実績を着実に積み重ねた。産泰神社の取り組みはまさに成功事例だ。

筆者個人的にも「遠いけど行ってみたい神社だ」と思わされた。


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