渋谷と同じようなスタートアップ聖地を目指すよりも、地域がまず考えるべきこと:GRIC 2024レポート

写真左から、渋谷区・瀬野氏、シブヤスタートアップス・渡部氏、東急・田中氏、東急不動産ホールディングス・佐藤氏
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フォースタートアップス株式会社は11月12日(火)から14日(木)の3日間、成長産業に特化した国内最大規模のカンファレンス「GRIC2024」を開催した。

14日(木)はオフラインDAYとして、渋谷ヒカリエにて展示やピッチイベント、セッションが実施された。本稿では実施されたセッションのなかから「渋谷から始まるグローカルゲームチェンジ:都市×スタートアップの新たな挑戦」のレポートをお届けする。

登壇したのは、東急株式会社フューチャー・デザイン・ラボ マネージャーの田中 浩之氏、東急不動産ホールディングス株式会社 CXイノベーション推進部 グループリーダーの佐藤 文昭氏、渋谷区役所 グローバル拠点都市推進課 係長の瀬野 小枝子氏、シブヤスタートアップス株式会社 CEOの渡部 志保氏の4名。

セッションでは、渋谷区におけるスタートアップ企業との取り組み、そのなかでもグローバルな取り組みなどについて取り上げられた。

目次

シリコンバレーのような環境を目指す

佐藤氏からはじめに、東急不動産の渋谷における取り組みについて説明された。

国道246号線沿いに保有するビル群を活用し、スタートアップやVCが集まる拠点を整備している。VCとその出資先スタートアップのためのコミュニティ「ギルド」にくわえ、ミートアップスペースやディープテック向けのドライラボ・ウェットラボなどを増設し、シリコンバレーのような環境を目指していると紹介された。

田中氏からは東急株式会社の取り組みについて説明があった。

渋谷スクランブルスクエアのSHIBUYA QWS、宮益坂のSOIL(渋谷オープンイノベーションラボ)など、スタートアップとVCの交流の場を提供している。また、2015年から鉄道業界初の取り組みとして東急アクセラレートプログラムを開始し、現在は東急アライアンスプラットフォームとして、東急グループの多様なアセットや顧客接点を活用したスタートアップとの事業共創プログラムを運営中。参加事業者は29社で、東急不動産も参加している。同氏は「東急グループの幅広い事業展開により、多様なスタートアップのサービスを試せる場を提供している」と述べた。同プログラムのサイトでは、ニーズがホームページ上で公開されており、マッチング精度向上に努めているという。

東急アライアンスプラットフォームの直近の事例として、AI画像解析の株式会社アジラ、株式会社Luupとの資本業務提携が紹介された。株式会社アジラとは東急歌舞伎町タワーに導入されたAI画像解析の実証実験を実施し、導入。株式会社Luupとは沿線での回遊促進を目的とした協業を行っている。

続いて渡部氏から、シブヤスタートアップス株式会社の取り組みについて説明があった。

同社は渋谷に国際的なスタートアップコミュニティを構築するために設立され、スタートアップ向けのプログラムを運営している。支援対象は、高齢化社会や少子化にともなう課題に対してAIやロボティクス、ブロックチェーンなどのテクノロジーを活用して取り組むスタートアップ、またアニメやVチューバーなどのエンタメ分野のスタートアップだ。支援対象のスタートアップはアーリーステージの企業が多く、創業2ヵ月目の企業も参加しているそうだ。

現在支援している30数社のうち、日本に拠点を置いているのは3~4社のみ。そのほかは世界中に分散しているものの、3ヵ月に1回、2週間程度の出張やバーチャルな形でプログラムに参加してもらっている。また、世界のVチューバーの73%が日本在住というデータから、日本のエンタメ分野の潜在力に着目し、世界からファウンダーを集め、産業プロデューサーのような役割を担うことで、新たな産業創出も目指している。

佐藤氏は、アーリーステージへの投資の難しさに触れ、シブヤスタートアップスのような存在の重要性を強調した。

実証実験の場として渋谷を使える

渋谷区役所の瀬野氏からは、渋谷区の取り組みについて説明された。

SHIBUYA STARTUP SUPPORT」というプログラム名で、スタートアップフレンドリーな街づくりに向けた「環境整備」、スタートアップのサービスやテクノロジーの「実証実験の場の提供」、国内外からのスタートアップ企業や人材の誘致のための「グローバル化」の3つの分野を支援しているそうだ。

環境整備においては、行政だけでは限界があるため、官民チームを結成し、東急、東急不動産、GMOと共に渡部氏が代表を務めるシブヤスタートアップス株式会社を設立した。官民チームでは、国内外の起業家や企業、ファウンダーとの連携を図り、海外からの視察時にはネットワーキングイベントを開催し、各国のスタートアップ紹介などを行っている。

実証実験の場の提供では、区民モニターの登録によるLINEを通じた募集、国内外からの応募受付というふたつのユニークなポイントがある。区民向けのサービスの実証実験に活用できるほか、海外スタートアップが日本市場でのビジネス展開の可能性を検証する場としても機能しているようだ。また、カンファレンス開催中に、シンガポールのスタートアップによるAIを活用した会話分析ツールの実証実験が行われていたとも明かされた。

そしてグローバル化支援では、海外スタートアップ向けに1年間の起業準備のためのスタートアップビザを発行し、コワーキングスペースの無料利用、ビジネスサポート、ネットワーキング機会を提供している。毎週水曜日に開催されるネットワーキングイベント「Weekly Snack & CONNECT」は、起業家だけでなくサポーターや海外からの参加者も歓迎しているそうだ。

2024年2月に渋谷駅周辺で開催予定のアート×テクノロジーイベントの告知もあった。東急、東急不動産、シブヤスタートアップスが支援するスタートアップも参加予定だ。

スクランブル交差点がボーダレスの象徴

ここからは、グローバル化の取り組みと課題について話していった。

まず佐藤氏は、本田圭佑氏らが率いるKSK Angel Fundへの出資、MITと共同開発中の国際的なディープテックアクセラレータープログラムなど、グローバル化に向けた取り組みを紹介した。言語の壁、日本の受け入れ態勢の課題などを挙げ、渡部氏のようなグローバルな視点と、渋谷区(行政)の支援の必要性を強調した。

渡部氏は、グローバル化の中で価値観の重要性が増していることを指摘し、Vチューバーのような事例を挙げ、価値観を共有する人々のコラボレーションの可能性を示唆した。あわせて、国境や言語の壁を超えた「ボーダレスなコミュニティ形成」の重要性を訴えた。

瀬野氏は、スクランブル交差点がボーダレスの象徴だと話した。見ただけで渋谷だとわかるシンボルだ。また、渋谷区のスローガン「ちがいを ちからに 変える街」と合致していると述べた。続けて、韓国や台湾、イタリアなど海外からの視察増加を好機と捉え、さらなる活性化を目指している様子だ。

田中氏は、以前はスクランブル交差点をひとめ見てほかの地域に行く観光客が多かったが、スクランブルスクウェアの展望台がインバウンド客の滞留に貢献していると話す。これは、見下ろした渋谷から新たな渋谷を再発見してもらうきっかけになったと述べた。

瀬野氏は、海外スタートアップによる渋谷駅周辺から原宿、笹塚などの商店街への送客促進の取り組みを紹介し、アイデアを活かした街の活性化、課題解決への意欲を示した。

そして佐藤氏は、東急グループ全体での連携の重要性を強調し、今回のイベント協賛における東急との協力についても触れた。シブヤスタートアップス、渋谷区との連携による相乗効果で、大きな成果を目指している。

また田中氏は、ボーダレスの重要性を改めて強調し、東急グループ内での連携強化の必要性を訴えた。グループ社内で実現が難しいことは、アーリーステージのスタートアップ支援に取り組むなどで課題解決を目指す姿勢を示した。

重要なのはその街の「らしさ」

渡部氏は、スタートアップ支援におけるソーシング、セレクション、サポートの「3S」の重要性を挙げ、シブヤスタートアップスとして今後はサポートに注力していく方針だそうだ。一方で、渋谷らしさを考慮した支援の必要性を訴え、テクノロジーの進化と人々の生活の不変性とのバランスを重視する姿勢も示した。具体的には、トレンドやテクノロジーは速く進むが、渋谷区の人々にとって「変わらないもの」との調和をどうするかが大事であり、海外スタートアップを招く際にもうまくフィットさせなければいけないと言う。

瀬野氏は、「支援」という言葉ではなく、スタートアップとともに「渋谷民」(区民以外にも渋谷にいる人を含めた言葉)にとって良い街を作っていくという意識で取り組んでいることを強調し、協力を呼びかけた。これは区として引き続き各種「支援」はするが、支援という言葉が“上からっぽさ”があっておこがましいように感じる、という意図である。

佐藤氏は、スタートアップのサービスや技術と既存企業の基盤が重なり合うことで新しいものが生まれる可能性を示唆し、支援される側という意識で接することの重要性を述べた。

最後に、聴講者から「渋谷区の取り組みは、ほかの地域でも再現できるか」と質問があった。

この質問に対し渡部氏は、「渋谷区の取り組みは他の地域でも可能であるものの、重要なのは街の『らしさ』」と回答した。たとえば、シリコンバレーは街の名前というよりもコンセプト化しつつある。つまり、街全体でのマーケティングやキャラ付けなどが重要。渋谷とまったく同じということではなく、街の個性を明確にすることで、独自のエコシステムを構築できると述べた。

続けて佐藤氏は「渋谷とまったく同じ」ではなく、考え方を真似したり参考にしたりすることがいいと話した。重要なのは、その地域の“強いポイント”をとがらせることだと述べ、セッションを締めた。

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