2025年1月28日、エストニア政府機関であるエンタープライズ・エストニア(Enterprise Estonia)が、行政サービスの100%電子化を達成したことを発表した。この実績により、エストニアは世界のデジタルトランスフォーメーション(DX)のリーダーとして、さらなる注目を集めている。
“電子国家”エストニアの実績
エストニア共和国は、人口約136万人、国土面積4.5万㎡と小規模ながらも、デジタル国家としての地位を確立してきた。これまで99%の行政サービスが電子化されていたが、2024年12月の離婚届電子化により、ついに100%電子化を実現した。申請や処理にかかる労力と時間を大幅に削減する取り組みは、国内外から高く評価されている。
特筆すべきは、出生登録サービスのオンライン利用率が85%、婚姻届が56%、離婚届が53%といった高い利用率である。国民IDカードと連携した簡素な手続きや、利用者目線で設計されたツールが普及の鍵となっている。
行政サービス電子化の背景
エストニアが行政サービスの電子化を進めた背景には、地理的要因が挙げられる。エストニアは2,000以上の島々に囲まれ、国民が各地域に点在しているため、インターネットを活用したサービスの必要性が高かったのである。1990年代、デジタル社会の構築を目指した政府と民間企業の協力により、この取り組みがスタートした。
前エストニア大統領ケルスティ・カリユライド氏は次のように述べている。
国中のどこからでも行政サービスへのアクセスが可能になりました。多くの政府や機関が困難と考えてきた業務の効率化やサービスの電子化が可能であることも証明できました。エストニアはデジタルガバナンスのロールモデル国家として、日本のDXの発展を支援する重要なパートナーの役割を果たせることを確信しています。
離婚届の電子化――利用者に寄り添ったサービス
行政サービスの中でも特に注目されるのが、2024年12月に導入された離婚届の電子化である。離婚申請の大部分がオンラインで完結し、職員との対面は1回のみで済む。また、財産分与ツールや親権の取り決めガイダンスなど、利用者視点に基づいたサービスが整備されている。実際、2024年12月から2025年1月6日のわずか1カ月間で、310件の離婚申請のうち165件が電子申請されるほど、利用が浸透している。
世界への影響と展望
エストニアの行政サービス電子化は、単なる技術革新に留まらず、国際社会へのインパクトも大きいものである。エンタープライズ・エストニア日本支局長の尾崎健二氏は次のようにコメントしている。
エストニアでは、効率化とリソースの最大化を目的として“100%電子化”に取り組みました。小さな国でありながら、明確な競争優位性と世界的なベンチマークを持つデジタル社会を作り上げてきました。シンプルであり、効率化を実現した本取り組みを通して、エストニアのデジタル専門知識が世界中に発信され、他の国や地域がDXを効果的に進めるための一助となることを望んでいます。
この成果は、エストニアが世界的なデジタルガバナンスのリーダーであることを示すだけでなく、他国が採用可能な実践的モデルとしての役割も果たしている。特に日本の地方自治体においても、地域間の格差を埋めるための参考となるであろう。
エストニアの魅力――デジタルだけではない多面的な価値
エストニアはデジタル国家であると同時に、観光地としても大きな魅力を持っている。中世の歴史的建築、豊かな自然、そして活気あふれる現代都市が融合したユニークな国として、多くの旅行者を惹きつけている。
エストニアが提供する先進的なデジタルソリューションや観光資源は、日本を含む各国とのさらなる連携を促進するであろう。エストニアの事例から、日本国内でも地方創生や地域活性化に向けた新たなヒントが得られることが期待される。