岐阜県飛騨市は2025年3月22日、県内では2番目となる「オーガニックビレッジ宣言」を発表した。地球温暖化や異常気象の影響で農業リスクが高まるなか、地域の自然と暮らしを守るため、有機農業の推進を核としたまちづくりに踏み出す。
この宣言は、環境に配慮した農業の普及と地域活性化の両立を目的とし、「次世代に豊かな自然と農の営みを引き継ぐ」ための具体的な目標と施策が盛り込まれている。
地域一体で取り組む「飛騨市有機農業実施計画」
飛騨市は今回の宣言とともに、有機農業の導入・拡大を具体化する「飛騨市有機農業実施計画」も策定した。この計画では、農業者や生産者団体、市・関係機関が連携し、以下のような多面的な取り組みを推進する。
- 栽培技術の向上と省力化
- 多様な担い手の育成
- 有機農産物を活用した保育園・小中学校での給食提供
- 地域住民への理解促進と意識醸成
環境負荷を抑えつつ持続可能な農業を実現するため、地域ぐるみで農と食の循環型モデルを構築していく。
市民参加で育てる「種を蒔くプロジェクト」
飛騨市が進める象徴的な取り組みが「種を蒔くプロジェクト」だ。これは、飛騨市有機農業推進協議会(通称:V9)を中心に、有機農業分野での人材育成、生産体制の構築、販路の拡大、認知度の向上を目指すもの。
単なる農産物の生産にとどまらず、「地域の雰囲気づくり」まで含めた持続可能なまちづくりの第一歩として、“未来に向けた種”を蒔く活動である。
多彩なライフスタイルを支える飛騨の農業モデル
飛騨市の有機農業推進協議会には、9名の個性豊かなメンバーが在籍。それぞれが有機農法にこだわりながら、和紙職人、料理人、パティシエなど別の仕事も持ち、季節ごとのライフスタイルを柔軟に組み立てている。
雪に閉ざされる冬の数か月は他の職に就き、春から秋にかけて農業に集中する――そんな多様な働き方を実現できるのも、飛騨の自然と暮らしが調和しているからこそだ。
「顔の見える農業」で地域の信頼を育む
飛騨市が掲げるオーガニックビレッジは、単に農法を有機に転換するというだけではない。地域住民と生産者がつながり、自然の恵みに感謝しながら安心・安全な食を共有する“顔の見える農業”を育む場でもある。
市では今後、さらなる担い手の確保と有機農産物の地域内外への発信を強化し、環境と調和した農業を地域の柱に育てていく方針だ。
持続可能な未来を見据え、飛騨市が描く“農ある暮らし”のモデルは、他地域にとっても大きなヒントとなりそうだ。