自治体職員が覚えておくべき被災時対応「職員も被災者のひとり」

自治体職員が知っておくべき被災時対応
地域防災支援協会 代表理事 三平洵氏(左)、NPO法人 Hand Over Japan 佐藤純氏(右)
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大きな災害が発生すると、被災地から避難を希望する方が集う避難所が用意される。市の体育館や福祉センターなど、公共施設が主な場所だ。この避難所のあり方や運営方法、そして避難所運営において自治体職員はどのように動くべきか――。

2024年6月26日から28日まで自治体・公共Week2024が開催された。この期間中には、「自治体職員が知っておくべき被災時対応」と題した講演が実施された。講演には、ことし1月に発生した能登半島地震の被災地にも入り、避難所を支えたHand Over Japanの佐藤純氏と、地域防災支援協会 代表理事 三平洵氏が登壇した。

この記事では、佐藤氏の話を中心にレポートしていく。

目次

避難所に集まった人たちの次の行き先 高齢者はどうする

発災直後、まず用意されるのが「一次避難所」だ。住居などが損壊したり使用できなくなったりした被災者に対して、宿泊や食事、救援救護を実施するための施設のことを指す。
編注:たとえば東京都足立区では、一次避難所には区立小学校、中学校、都立高校、そのほか大学などが指定されている(東京都足立区 ホームページ より)

そして、一次避難所では生活が困難な方向けに用意されるのが「二次避難所」だ。主に高齢者や障がいをもつ方、妊婦などが対象となる。

能登半島地震では県主導で一次避難所から受け入れ先となる二次避難所が見つかるまでの間、対象の住民が滞在する場所として用意されたのが「1.5次避難所」だ。1.5次避難所は橋渡し役のような存在を目指した取り組みだ。しかし、佐藤氏は次のような“実際”を話した。

「1.5次避難所には、“要配慮者”に一旦来ていただこうという方針でした。高齢者の方はもちろん、妊婦さんや乳幼児の方々にも来ていただきました。

ただ、高齢者の方たちが次に行くべき二次避難所がスムーズに見つからなかったのです。そして次第に1.5次避難所は『福祉避難所』のような形になっていきました」

佐藤氏が訪れたのはいしかわ総合スポーツセンターで、あらかじめ避難所としても想定されていた場所だったという。そのため、個室空間を用意するテントや救護所、リハビリ介護設備などもあったそうだ。「日本全国で高齢化率は上がっていくことが予想される。そのときに福祉避難所としての整備・設備、そして避難所に集めたあとにどうするのかはしっかりと想定しておくべき」と同氏は話した。

「住民の気持ち」を汲み取る避難所の統廃合

そして避難所の運営において主に自治体職員らが考えなければいけないのが「統廃合」だ。

自治体などでは災害発生に備えたマニュアルや、動き方などが練られている。ただ、佐藤氏は「『避難所の統廃合』も非常に難しい問題。意識してやらないとスムーズに進まない」と警鐘を鳴らす。

発災後、徐々にライフラインが回復してきたら避難所の統廃合が進められる。これは避難者の自立した生活を促すためにも必要なことだ。

しかし、今回の能登半島地震においては「仮設住宅を建設できる土地がない」などの問題も浮上した。そのため、県外への避難を提案するものの住民からは「県外に避難したくない」といった声も上がっていたと佐藤氏は話す。

また、避難所を統合すると、避難元からの移動距離が遠くなるなど、個別の課題も発生する。避難所の統廃合は、地域のコミュニティなども含めて、コミュニケーションを取りながらいかに自立した生活に戻ってもらうかが重要なポイントだ。

避難所の運営は住民主体が基本 それを支えるのが自治体の職員

さて、避難所自体の運営についての話に移る。

避難所の運営は、避難者である住民が中心となるケースが多い。これは過去の例からも、住民主体のほうがそれぞれの生活への復帰、自立支援なども含めて“スムーズ”だからといわれている。

ただ、そうなってくると、自治体職員は避難所で何をするのか。佐藤氏は避難所の運営について「自治体の職員さんにも伝えていることだが、『住民が主体です。はい、やってください』ではいけない」と話す。

「避難所において自治体の職員たちは、避難者が自立した生活に戻れるためにも、避難所をいち早く閉めることが目標です。

そのため、自治体の職員は奥まった会議室に閉じこもるのではなく、避難所に出て、避難者が避難所に滞在しなければいけない理由、何が困っているのかなどを聞き、どこに問題があるのかを避難所運営の主体となって動いている住民の方と相談し考えていく必要があります」(佐藤氏)

あくまでも主となるのが住民ではあるものの、たとえば施設管理などは職員もいっしょになって考えていく必要がある。避難所運営や避難所生活は「まちづくり」と同じようなものだ、と佐藤氏は述べた。

実際、この避難所運営にかかわる自治体の職員の動きについて、現場でも話すと“ハッと”されることが多いそうだ。わかっていても、実際に震災が起こると判断がつかなくなってしまうこともあるだろう。

なぜなら、自治体の職員も「住民」であり「被災者」だからだ。

自治体職員も「住民」であり「被災者」である

佐藤氏は被災地に入り痛烈に感じたことについて次のように話した。

「自治体の職員さんが『給水所に自分の分の水を取りに行けない』と話されていたことです。

自分の生活がままならないなかで業務に従事されていて、しかも通常の業務も止めない。通常の業務にくわえて災害への対応に奔走し、それらの基盤のうえにようやく自分の生活が入っているんです」

こういった話は、能登半島地震に限らず、これまでの災害――それこそ2011年の東日本大震災が起きたときにも同様のことがあったという。

このような被災した職員を助けるのが「応援職員」だ。応援職員とは、被災地以外の行政区から集められる職員を指す。佐藤氏は自治体職員の方に向けて「誰もが被災地の職員になる可能性もあり、応援職員になる可能性もある。重要なのは、自分が置かれた立場でできることをやること」という。

応援職員は「避難所」「家屋調査」「罹災証明書の発行」「そのほか相談窓口」に配置されることが多いそうだ。平時から配置されるポジションではないため、これらの役割を任命する傾向がある。

自治体職員の方が考えておかないといけないのは、佐藤氏が話したとおり自身が被災地の職員になる可能性も、応援職人になる可能性もあるということ。そして、避難所の運営は住民主体である面もあるものの、行政側の人間としてできることを進めていかないといけないということだ。

もちろんこのような災害時の取り組みは、住民である私たちも理解しておかなければいけない。とくに、自治体職員の方も「被災者のひとり」である点は誰もが忘れてはいけない。

全員がそれぞれできることをやる。そして、前に進んでいく。災害時こそ人と人の協力が求められる。

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シクチョーソンでは、デジタル庁 河野太郎大臣の講演をはじめ、「自治体・公共Week2024」で実施された各種セミナーや出展ブースのレポートなどを公開中。気になる取り組み、参考にしたいサービスなどを紹介しているのであわせてチェックしてください。

自治体・公共Week2024 レポート記事一覧

展示会概要
展示会名自治体・公共Week2024
会期:2024年6月26日(水)~2024年6月28日(金)
会場:東京ビッグサイト 西展示棟
※本展は業界関係者のための商談展です。一般の方はご入場できません。

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