日本大学危機管理学部は、NPO法人減災教育普及協会、神奈川歯科大学、一般社団法人AR防災と協力し、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などの最新技術を活用した避難訓練プログラムの開発と普及を目指す協定を締結した。1月14日に東京都内で行われた記者会見では、4者が連携の意義や今後の展望、従来の避難訓練が抱える課題について述べた。
机の下にもぐるだけでは不十分? 災害のリアリティを欠く訓練の実態
近年の災害多発を受け、防災教育、特に避難訓練の在り方が改めて問われている。従来の避難訓練は、「机の下に隠れる」「廊下に整列する」といった画一的な行動に重点を置きがちで、具体的な災害状況を十分に想定していないケースが多い。例えば、震度7の地震が発生した場合、廊下に整列すること自体が危険な場合もある。また、「お・は・し・も(お・か・し・も)」などの標語や「だんごむし」ポーズのように、火災発生時を想定したものが地震発生時の避難訓練にも用いられるなど、災害の種類や発生状況に応じた適切な指導がなされていない現状がある。
避難訓練の目的は、子供たちを管理することではなく、災害発生時に適切な行動をとれるようにすることである。しかし現状では、訓練の内容と災害発生時の被害状況の間に大きな乖離があり、いざという時に役立つ知識・行動が身についているとは言い難い。
3つの課題
会見では、こうした現状を踏まえ、避難訓練の課題として以下の3点が挙げられた。
- 防災訓練が優先されず、参加率が低い
- 訓練参加者に「やらされている」という感覚があり、主体的な意識が低い
- 防災に対する当事者意識が不足している
特に、学校以外の防災訓練への参加経験について、全体の65%が「一度もない」と回答しており、若い世代ほど低い参加率となっている。また、大地震への備えとして懐中電灯や食料・水を備蓄する人は多い一方、命を守るために家具を固定している人は全体の約36%にとどまっている。こうした現状は、防災意識の低さを浮き彫りにしていると言えるだろう。
AR/VRで災害を「我が事」に
この課題を解決するため、4者はAR/VR技術を活用し、災害をリアルに体験できる避難訓練プログラムの開発と普及に取り組んでいる。具体的には、ARで浸水や火災の煙を再現したり、VRで地震発生時の揺れを体験できるアプリなどを活用することで、災害のリアリティを体感させ、参加者の想像力、当事者意識を高め、主体的な行動変容を促す。
地域防災計画との連携も視野に
江夏理事長は、避難訓練する際には、地域防災計画との連携が重要だと指摘する。地域防災計画には、想定される災害の種類や規模、それに応じた避難場所や避難経路などが記載されている。しかし現状では、教育現場と行政機関の間で十分な情報共有されておらず、地域の実情に即した避難訓練が実施されていないケースも多い。4者は今後、地域防災計画の情報もプログラムに取り入れ、より実践的な避難訓練の開発を目指す。
連携の意義と今後の展望
4者の連携により、以下のメリットが期待される。
- 開発した教材の効果検証のためのエビデンス蓄積
- 日本大学が持つ教育現場とのネットワークを活かした全国展開
- 長期的な効果測定
2025年度には、日本大学認定こども園および佐野日本大学付属小学校をモデル校として、プログラムの効果を検証する計画である。
参加者の声も紹介
会見では、プログラムを体験した子供たちの声も紹介された。小学校5年生からは「災害の怖さを実感した」「家族と防災について話し合いたいと思った」という感想が、高校2年生からは「何のために訓練をするのかが理解できた」という声が寄せられた。これらの声は、リアルな災害体験が、子供たちの防災意識の向上に大きく貢献することを示唆している。
また、記者会見の終了後には、日本大学危機管理学部の学生に向けた体験会も実施された。
新たな防災教育のかたちへ
4者の取り組みは、従来の避難訓練の課題を解決し、防災教育の質を向上させるための重要な一歩となるだろう。最新のテクノロジーを駆使することで、災害を「自分ごと」として捉え、主体的に行動できる人材を育成する新たな防災教育のスタイルが確立されることが期待される。