株式会社LIFULLは2月19日、2025年4月から始まる東京都の太陽光発電設置義務化に先駆け、太陽光発電の現在の設置状況や販売価格について調査し、その結果をプレスリリースで発表した。本記事では発表内容をそのままお届けする。
集計項目:LIFULL HOME’Sに掲載された太陽光パネル設置物件数と平均賃料/価格
集計地域:全国、東京都、東京23区
集計期間:2021年1月~2025年1月
集計対象:賃貸物件、新築/中古マンション、新築・中古戸建て※いずれも戸数
25年4月より始まる東京都の太陽光発電の設置義務化
SDGsやカーボンニュートラルの取り組みにより、建築分野においても省エネ性能の重要性は年々高まっています。国や自治体の主導で省エネに関するさまざまな政策が打ち出されるなか、大きな注目を集めているのが「太陽光発電設置義務化」の動きです。
東京都では25年4月より「都内における年間供給延床面積が合計2万平米以上の事業者」あるいは「申請により知事から承認を受けた事業者」が都内に新設住宅を建てる場合に太陽光発電の設置が義務付けられます。
そこで、現在の都内の太陽光発電の設置状況と設置有無での価格差異を調べ、LIFULL HOME’S総研チーフアナリスト・中山登志朗の解説とともに発表します。
【太陽光パネル設置状況】賃貸・戸建ては全国で年々増加も、マンションは減少傾向
LIFULL HOME’Sに掲載された物件のうち、「太陽光発電」のワードを含む物件掲載数を全国・東京都・東京23区の3エリアで年毎に調べました。
賃貸物件については全国で2021年から年々増加し、2024年は昨年対比253%と急増しています。東京都においても全国と同様の動きとなっており、2023年から急激な増加を見せています。
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戸建てについて、全国では賃貸同様に増加の一途を辿っています。一方で、東京都では2022年に1万戸を超えたものの、2023年には3,000戸弱にまで減少、2024年は3,000戸強と若干の増加を見せています。
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一方で、マンションについては賃貸・戸建てと異なり全国・東京都・東京23区ともに2024年まで減少傾向となっています。
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アナリスト中山氏の考察「再エネ率100%以上の「ZEH-M」仕様が増加」
太陽光パネルを設置すると維持管理コストもかさむため、ZEH-Mでも再エネ導入によるエネルギー消費削減の定めの必要のない「ZEH-M Oriented」ばかりが増えました。
2025年4月以降は太陽光パネルの設置が義務化されることにより同じZEHマンションでも、再エネ率100%以上の「ZEH-M」仕様が増加するでしょう。
【都内:太陽光パネル設置物件の平均賃料/価格】賃料は0.9万円、マンションは4,968万円もの差
続いて東京都内の太陽光パネル設置物件の平均賃料/価格を物件種別ごとに調査しました。
賃貸物件については全物件の平均賃料(50㎡換算)が156,844円/月だったのに対し、太陽光パネル設置物件は165,886円/月と約0.9万円の差となっています。戸建て(100㎡換算)は全物件平均が5,545万円、太陽光パネル設置物件が7,991万円と2,446万円の差、マンション(70㎡)にいたっては全物件平均が6,520万円、太陽光パネル設置物件が1億1,488万円と4,968万円もの差額が生まれています。
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アナリスト中山の考察「太陽光パネル設置済だと”光熱費込み”の賃料が設定されるケースも」
賃貸物件については太陽光パネル設置済だと”光熱費込み”の賃料が設定されるケースもあり、割安な光熱費分が賃料に加算されている物件が徐々に増加していることがわかります。
一方、太陽光パネルを設置しているマンションは条例制定に備えた新築・築浅マンションが圧倒的に多いため、高値となっています。
太陽光パネル設置による温暖化対策は経済的メリットが大きい反面デメリットも
LIFULL HOME’S総研 チーフアナリスト 中山登志朗氏による解説
東京都は2025年4月から年間延床2万平米以上を供給する新築住宅事業者を対象に、太陽光パネルの設置義務を課す条例を施行します。
太陽光パネルが設置されていれば発電量に応じて電気の購入量が減少しますから、使い方によっては光熱費の大幅な削減に効果があり、売電も可能なので経済的なメリット・効果が享受できます。また同時に施行される「改正建築物省エネ法」によって新築住宅には断熱等級4以上、一次エネルギー消費量等級4以上の省エネ性能への適合が全国で義務化されるため、夏涼しく冬暖かい快適な住宅に住むことができるという生活上の大きなメリットも生まれます。断熱性が高いことは住宅内の温度差を小さくして冬季のヒートショックや結露によるカビの発生などを予防し、夏季の熱中症対策としても有効ですから、健康上のメリットも見逃せません。さらに、賃貸物件では光熱費込みの月額賃料の設定によって“光熱費のサブスク化”にも期待が持てるようになりますから、光熱費が安価に収まる賃貸物件へのニーズも拡大するものと考えられます。
良いことずくめの太陽光パネル設置ですが、いくつか社会的な課題もあり、太陽光パネルの反射による“光害”や、太陽光を電気に変換する“パワーコンディショナーの稼働音”が設置場所によってはトラブルになる可能性が指摘されています。また条例化に際して東京都に寄せられたパブリックコメントの中には、城東など海抜が低い地域で水害が発生した場合や大規模な地震の際に、感電事故が多発するのではないかとの懸念も挙げられています。当然のことながら、設置した太陽光パネルのメンテナンスや交換(パネルの法定耐用年数は17年で実際には20~30年稼働可能とされています)にはコストがかかりますから、太陽光パネルの設置についてはイニシャルコスト(導入費用)とランニングコスト(売電を含めた光熱費の軽減)をトータルで考えることが求められるようになります。
特にイニシャルコストについては、円安による資材価格の高騰に人件費の上昇が加わり、住宅の価格も含めて住設関連のコストがさらに上昇する可能性が高く、住宅購入・賃貸において生活の利便性や快適性とコストを天秤にかけるプロセスを経る必要がありますが、現状は「東京ゼロエミ住宅」「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」などの補助金制度を上手に活用してコストを低減させることが可能な状況です。
併せて、都内で住宅購入することのハードルが極めて高いなかで今回の条例が施行されることにより、住宅価格はさらに上昇しますから、住宅購入予定者が東京から転出して周辺3県および以遠での住宅購入を検討する可能性が高まることはほぼ確実で、条例の制定によって“ファミリー層の郊外化”が一層促進されることになりそうです。