川崎市の路線バス自動運転レベル4に向けた実験、2025年1月に2つのルートで走行予定「一刻も早く実装する」

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川崎市役所でプレス発表会が開催された。車両は現行モデル(筆者撮影)
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運転手の人手不足問題に終止符を打つときがたしかに近づいてきた。

川崎市は8月2日、同市をはじめとするエリアでの「自動運転技術を活用した路線バス」の実証実験に関する概要を明らかにした。テスト走行は2025年1月に実施予定。1月の実証実験の際には一般の人も乗車できるとしている。この実験での自動運転レベルは2で実施する。最終的な目標は2027年度に自動運転レベル4の路線バスの正式実装だ。

※レベル2:自動運転化レベルの定義において、システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行するもの
※レベル4:自動運転化レベルの定義において、システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行するもの

目次

川崎市と東京都・大田区を結ぶルート 自動運転レベル4では全国初

実証実験ではふたつのルートでバスが運行する。

ひとつは、川崎市の大師橋駅と大田区の天空橋駅を結ぶルート。片道はおよそ2.2km。多摩川スカイブリッジを走行するこのルートは神奈川県(川崎市)と東京都(大田区)をまたぐ。自動運転レベル4実装に向けた取り組みにおいて、ふたつの自治体や警察が所管するエリアをまたぐ路線バスルートとしては全国で初だという。

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▲ 川崎と東京・大田区をまたぐルート

もうひとつのルートでは、川崎駅から市立川崎病院を結ぶ。いわゆる「川崎駅前エリア」を巡回するバスで、全長(1周)はおよそ1.3km。川崎駅前は1日に30万人が利用するため、多くの人に利用・注目されるルートになりそうだ。

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▲ 川崎駅と市立川崎病院を巡回するルート

川崎市の人口は年々増加傾向にある。2024年4月には155万人を超えた。しかし、路線バスは減少傾向にある。平成30年度(2018年度)は1日あたり約1万2,400便あった本数が、令和5年度(2022年度)には1万400便程度まで減少した。この背景には運転手の人手不足などの問題が関係する。

公共交通機関が減ると、移動や買い物“難民”といわれる人が続出する可能性があり、その行きつく先は“暮らしづらい街”だ。こうした課題を解決し、地域交通を存続させるためにも、川崎市は自動運転レベル4の路線バスの実装に向けて取り組みを進めている。

市長は「川崎市は道しるべになりたいと思っています」と期待を寄せる

自動運転技術を活用した路線バスの実証実験や実装について、川崎市 市長 福田紀彦氏は次のようにコメントし、期待を寄せた。

「運転手不足は大きな課題。地域の交通の存続が危ぶまれています。この大きな課題の解決に向かうのが自動運転です。とくに、自動運転レベル4は一刻も早く実装することが大事だと思っています。川崎のような都市部において、自動運転レベル4(に関する実証実験や実装)ができるのは、全国的にも大いに注目を集めています。パートナー企業のみなさまと成功させて、これを全国展開していく。川崎市はその道しるべになりたいと思っています」

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▲ 川崎市 市長 福田紀彦氏(筆者撮影)

ちなみに、福田氏の公式サイトに記載のマニフェストでは以前から「地域の足を守る、つくる」とMaaSなど新しい技術の活用に向けた取り組みを進めるとしていた。今回の路線バスにおける自動運転技術はこのマニフェストにまさに沿う内容だ。

また、今回のバスを扱う川崎鶴見臨港バス株式会社の取締役社長 野村正人氏はバス会社の目線からの自動運転技術について次のように話す。

「運転手不足は、私どもバス事業者が直面している大きな課題です。バスの路線廃止や減便などで、地域の皆様には大変なご迷惑をおかけしています。ただ、路線バスは、通勤通学に使われる方にはもちろん、お子様からご高齢者の方まですべての方になくてはならない乗り物だと私どもは考えています。

これまでも自動運転技術を活用した路線バスの実装に向けた取り組みは重ねていますが、これを実験で終わわせるのではなく、一刻も早く実装するように進めてまいりたいと思います」

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▲ 川崎鶴見臨港バス株式会社 取締役社長 野村正人氏(筆者撮影)

川崎市が目指すのは市内や周辺エリアへの自動運転技術を使った路線バスの実装ではあるが、その先にある「川崎モデル」の構築も見据えている。これは、自動運転技術の活用と、さまざまな企業等との連携により、全国的な課題となっている運転手不足への有効な対策として、ほかの地域へも横展開するためのモデルだ。

自動運転技術を使った路線バス等は、いわゆる“地方”のほうが求められている。それこそ、病院や買い物でバスなどを利用する際は、自治体をまたぐ可能性も考えられるため、今回の川崎市における実証実験は良い参考例になりそうだ。

今後の実証実験などを経て細部まで決めていく 見据える「川崎モデル」構築

本発表にあたってプレス向け説明会が実施された。以下では説明会後の担当者への囲み取材で明らかになったことをいくつかまとめていく。なお、いずれも“現時点”での内容で、今後の計画や実証実験によって各種調整や変更する可能性がある。

まず今回の実証実験で導入するのは株式会社ティアフォーの最新型EV車両(ティアフォー製Minibus v2.0)だ。本稿掲載の車体は現行モデルである点は注意したい。車体価格は9,900万円(税込)。国の補助金を活用して導入したという。また本取り組みは市としても5,000万円の予算を立てており、合計で本年度1億5,000万円のプロジェクトだという。実証実験で導入するバスは1台。

実証実験時はバスに運転手が搭乗する。計画段階レベルではあるものの、本実装の際は運転手という立ち位置ではなく、保安員を車内に配置することも検討しているそうだ。ちなみに、乗車できる客数は現行のバスよりも減る。これは座って乗車することが前提にあるからだ。

自動運転を公道で走らせるにあたって、道路自体に何らかの改良を施す可能性があるともいう。「自動運転レーン」のように、自動運転車が通ることを明示するような記載などをするかもしれないそうだ。

また、自動運転バス自体のデザインなどは現在は未定。道路と同じく、自動運転していることが他の通行車両や歩行者などにわかるようにするべきかなど、現在各種検討中とのこと。くわえて、自動運転時に何らかの事故・トラブルが発生した際の責任の行方なども含め、細部に至るまでこちらも検討している。

なお、2025年に予定している自動運転レベル2の実証実験では、一般の方も乗車できるものの、どういったように乗車できるかなども今後の情報発信によって発表予定。おそらくは抽選などになるのではないかとされている。

最後に、一連の取り組みにかかわる関係企業を紹介する。

名称主な役割
川崎市事業主体
川崎鶴見臨港バス株式会社自動運転車両の運行
アイサンテクノロジー株式会社車両・システム総合調整
3D地図の提供
A-Drive株式会社実証実験統括
自動運転車両販売
株式会社ティアフォー自動運転車両および自動運転システムの開発
損害保険ジャパン株式会社自動運転専用保険の提供
緊急時体制構築支援
KDDI株式会社自動運転ルート及び遠隔監視室の通信調査・通信提供
株式会社京三製作所信号連携機器に関する調整
LocaliST株式会社社会受容性に関する 企画運営

川崎市では、今後の綿密な計画と幾度となく実施するテストによって、全体で何がベストなのかを模索していく。おそらく、多くの人が気になるのは「事故が起きたらどうするのか」といった点だろう。

もちろん事故を起きないようにする、事故が起きた場合はどうするかという話はとてつもなく重要であるが、それ以上に「暮らしに必要な移動手段を確保できる」という点に強く着目していきたい。

先述のとおり、川崎市でのプロジェクトの目的のひとつには「川崎モデル」の構築がある。ほかの地域、それこそ川崎市以上に移動手段に困っている地域に向けて、その参考例を作ることは大変有意義だ。

2027年の正式実装を目指すということで、移動手段に関する社会課題の解決はもうすぐだ。

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▲ 自動運転技術を活用するバスにはいたるところにセンサーが取り付けられている(筆者撮影)

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▲ バスの運転席。各種モニターが取り付けられている(筆者撮影)

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▲ 運転席の真後ろにも周囲を示したモニターがあった(筆者撮影)

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