日本は課題先進国とも言われています。
課題先進国とは、諸外国が今後直面する可能性のある「人口減少」「少子高齢化」「自然災害」「都市部への人口の集中」などの課題を抱えていて、その解決に向かおうとしている国を指します。まさに現在の日本です。
抱えている課題を解決するため、日本では「地方創生」というキーワードをもとに、さまざまな取り組みを進めています。この記事では、地方創生についてわかりやすく解説します。
地方創生とは
地方創生とは通称で、もとは2014年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」です。現在は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」という名称になっています。本稿では地方創生というワードで置き換えて紹介します。
地方創生には人口減少を克服し、将来にわたって成長力を確保し、活力ある日本社会を維持するために、以下の4つの基本目標と、ふたつの横断的な目標に向けた政策が進められています。
<基本目標>
- 稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
- 地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
- 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
- ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
<横断的な目標>
- 多様な人材の活躍を推進する
- 新しい時代の流れを力にする
地方創生の目的は、各地域がそれぞれ特長を生かした自律的で持続的な社会を創生することです。
地方創生の3つの視点にもとづく具体的な取り組み
- ヒューマン(地方へのひとの流れの創出、人材支援)
- デジタル(地方創生に資するDXの推進)
- グリーン(地方が牽引する脱炭素社会の実現)
なぜ地方創生が必要なのか
2019年に公表された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)」によれば、日本の人口は2008年をピークに減少局面に入っています。当時の推計では、2020年代初めは毎年50万人程度の減少であるものの、2040年代ごろには毎年90万人程度の減少スピードにまで加速するとしています。
90万人というと、和歌山県の人口がおよそ94万人なので、毎年和歌山県の人口の数だけ減っていく、というわけです。
また、2060年の総人口は9,300万人にまで減少するという推計もあります。いずれにしても、日本の人口減少は長年の課題であり、活力ある日本社会を維持するためにも解決が求められています。
さらに、人口は減るだけでなく、東京圏への転入による一極集中が今もなお進んでいます。地方創生の取り組みが始まった2014年以来、2018年まででも東京都への転入者は増えている状況で、これは国としても解決すべき課題であると大きく謳っています。
このまま人口減少と東京圏への一極集中が進むと、地域社会の担い手が減少し、地域経済が縮小し、更なる人口減少に拍車をかける可能性があります。また、地域の活力も損なわれ、生活品質・サービスの維持が困難になる恐れも出ています。さらに、首都直下地震など巨大な災害があった際には、人口が一極集中の影響で被害が甚大になるとも言われています。
そのため、これらの想定される“負”の未来を正すため、地方創生というプロジェクトが立ち上がり、国や自治体、さらには企業各社が取り組みを進めているのです。
まとめると、地方創生は
- 活力のある地域社会の実現
- 東京圏への一極集中の是正
この2点を目指すための取り組みです。
地方創生における4つの基本目標に対する戦略とは
冒頭で述べたとおり、地方創生には4つの基本目標が敷かれています。目標それぞれに対して、施策の方向性などを国が発表しているので、以下で紹介していきます。
1.稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
地域の特性に応じた、生産性が高く、稼ぐ地域の実現
施策の方向性:
地域資源・産業を活かした地域の競争力強化
専門人材の確保・育成
安心して働ける環境の実現
施策の方向性:
働きやすい魅力的な就業環境と担い手の確保
2.地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
地方への移住・定着の推進
施策の方向性:
地位包囲中の推進
若者の修学・就業による地方への定着の推進
地方とのつながりの構築
施策の方向性:
関係人口の創出・拡大
地方への資金の流れの創出・拡大
3.結婚・出産・子育ての希望をかなえる
結婚・出産・子育てしやすい環境の整備
施策の方向性:
結婚・出産・子育ての支援
仕事と子育ての両立
地域の実情に応じた取組の推進
4.ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
活力を生み、安心な生活を実現する環境の確保
施策の方向性:
質の高い暮らしのためのまちの機能の充実
地域資源を活かした個性あふれる地域の形成
安心して暮らすことができるまちづくり
創生でつまずきやすいこと、成功に導くためのポイント
地方創生は短期的な話ではなく、長期にわたる課題です。これは、人の人生に寄り添い、地域の経済の発展につなげるためです。
課題自体が長期的な話である以上、地方創生に取り組むプロジェクトも長期的なものになります。そのため、短期的な成果も見えづらく、場合によっては現場(実行者)のモチベーションなどが低下する可能性もあります。
言い換えれば、わかりやすい結果がすぐに出ないため、地方創生を推進するのには根気が必要です。これは自治体、企業、そして地域住民すべてを意味します。
また、地方創生は地域への集客ではなく、そこに経済を根付かせることを目的としている点も難易度が高い部分です。大々的なイベントを打つことで短期的に人を集められたとしても、“暮らし”を提供しなければ地方創生にはなかなかつながりません。
書籍などでも地方創生の成功に導くポイントは紹介されていますが、多くの書籍で共通しているのは以下の2点です。
- 学校を作る、もしくは招致する
- 会社を作る(雇用創出)
生活に必須のインフラ(買い物できる場所、病院など)を整えている前提はあるものの、上記が人を定着させる最低条件だと言われています。
そのうえで基本目標でも記されている「稼ぐ地域をつくる」「多様な人材の活躍を推進する」の2点はとくに着目していくべきです。