昨今のデジタル技術の発達や、生成AIをはじめとする人工知能などのテクノロジーの進化によって、さまざまな企業や商品、サービスだけでなく、我々の生活も大きく変化しつつあります。
日本国内では、2016年(平成28年)の第5期科学技術基本計画において「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」としてSociety 5.0(ソサエティー 5.0)が提唱されました。
このSociety 5.0の先行的な実現の場として官公庁や企業、団体たちが一丸となり、各都市や地域における「スマートシティ」の実現へと取り組んでいます。
この記事では、スマートシティとは何なのか、スマートシティが実現するとどうなるのか、スマートシティの事例などをわかりやすく紹介します。
スマートシティとは スーパーシティとの違いは?
スマートシティとは、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などの最先端技術の利活用による最適化された都市運営のことです。
スマートシティの目的は、生活する人々を豊かにする街をつくることです。たとえば、防災や防犯、交通渋滞の対策、子育て支援、介護、高齢者へのケアといった生活に直結することから、エネルギーや環境問題に至るまで、生活や暮らしをより良くすることが目的とされています。
バスの運転手不足を解消するための自動運転バスや、防犯カメラとIoT機器の組み合わせによる見守り機能、混雑予報や混雑状況を可視化して“密”を抑制するサービスなど、スマートシティの実現に向けた取り組みは各所で始まっています。
スマートシティと似た言葉に、「スーパーシティ」があります。スーパーシティは、「未来都市」を創ることを目的としていて、幅広い生活分野に対して先端技術を用いて課題を解決するというものです。
スマートシティとスーパーシティのどちらが優れているという話ではなく、いずれもSociety 5.0を達成するためのものであり、我々生活する人にとって「暮らしやすい街を作る」という点は同じです。ただ、スマートシティは、現状の課題を起点に解決のためのソリューションを作っていくのに対し、スーパーシティは、都市のあるべき姿や理想とする未来に向けて必要な技術やテクノロジーを使って街づくりをするという「アプローチ」において大きな違いがあります。
スマートシティはフォアキャスティング、スーパーシティはバックキャスティングと言われることもあります。
また、スーパーシティは特定の自治体を“特区”として設定し、国内スーパーシティの先行事例を用意する先駆者モデルを作ろうとしています。さらに、スーパーシティについては「スーパーシティ法案」が決められているなど、スマートシティとはいくつか違いがあります。
いずれにしても、スマートシティもスーパーシティも目指すべき最終ゴールである「住みやすい街づくり」は同じです。
現状の課題とスマートシティが注目されている理由
課題先進国と称される日本は、諸外国に先んじて人口減少、高齢化などが進んでいます。さらに、東京都をはじめとする都市部への人口一極集中、自然災害の増加、大型地震の発生、各種インフラの老朽化など、近年ではさまざまな課題が顕在化しています。
これらの課題を解決し、持続可能な社会を実現するために、住みやすい・暮らしやすい都市や街づくりを目的としたスマートシティが推進されています。
日本としては、課題先進国として各種課題に対する解決策となるソリューションを確立し、新たな価値を創出するとともに、世界に向けてスマートシティを広めていく立場になることを目指しています。
スマートシティの実現のためには、官公庁だけでなく企業や団体、そして生活する人々全員の協力、集合知が必要です。つまり、日本という国全体として取り組む壮大なプロジェクトであるため、多くの人から注目を集めているのです。
スマートシティを実現するために必要なコトやモノ、テクノロジー
スマートシティを実現するには、大きく分けて4つの要素が重要となります。
1.IoTやAI、ビッグデータなどの最新技術
あらゆるモノをインターネットに接続し通信するIoT技術やAI(人工知能)技術、そしてこれらのデータを収集し価値創造をするビッグデータなどの最新技術は、スマートシティを実現するために必要な代表的なものです。
たとえば、防犯カメラをIoT技術によってインターネットに接続し、映し出された内容に対してAIが自動でトラブル対応の判断をする。そして蓄積されたトラブルなどのデータ(=ビッグデータ)をもとに、トラブル解決策や新たなサービスや価値を創造できる、というわけです。
現状の課題解決だけでなく、新しくより効果的な価値を生み出すためにも使われる最新技術群です。
2.個人情報の取り扱い方法
IoT機器などから暮らしている人のデータが集められるため、個人情報の取り扱いには細心の注意が必要です。
生活する人々の利便性を向上させるためのスマートシティであるものの、住民にはあたかも監視されているかのような印象を与えてしまう可能性もあります。
そのため、データは個人を特定しない範囲で正しく利用することや、個人を特定させて利用する際には特別な恩恵を受けられるなど、自治体、企業や団体から生活する人々に対して、何をするのか、何ができるようになるのか伝えることが求められます。
また、データを扱う性質上、情報漏えいなどのトラブルは避けなければいけません。
3.デジタル化のためのインフラ整備
課題を解決するための新しい技術やサービスなどを導入するには、当然ながら導入できる環境やインフラも必要です。これは技術的な話だけでなく、物理的に設置・配置できるのかといった話も含まれます。
また、インフラ整備を含めて新たな技術を取り入れることになると、思わぬ費用が発生し、費用対効果が見合わないといった事象に陥ることも考えられます。
導入する際は、自治体と企業や団体の双方向が実現可能もしくは実現すべきと納得することが重要です。
4.自治体・企業および団体・住民の3方向の共通理解と協力
地域をより良くするためには、自治体が抱える課題とその課題を解決するソリューションを持つ企業や団体、そして住民のそれぞれの理解や協力が必要不可欠です。
自治体と企業が満足するものを創れたとしても、生活する人々の理解や喜びを得られなければ意味がありません。
また、ひとくくりに住民といっても、老若男女それぞれ考え方、求めるものが異なります。革新的なソリューションを用意できたとしても、受け入れられない人や使いこなせない人、恩恵を受けられない人が現れては意味がなくなってしまいます。
このためにも、生活する人々それぞれが抱える課題と、その課題に対して住民が満足できる解決方法を実現することが重要です。
日本国内のスマートシティ自治体成功事例
スマートシティの取り組みがここ5年10年における話なので、成功していると判断するのは時期尚早です。ただ、国内ではさまざまな先行事例がすでにあり、現時点では「成功」と言えるものもいくつもあります。
ここでは、日本国内におけるスマートシティの取り組みで代表的なものを4つ紹介します。
1.千葉県柏市
千葉県柏市では、柏の葉スマートシティ実行計画の取り組みのひとつとして、脱炭素社会実現に向けた環境に優しい暮らしとしてエネルギー領域での取り組みを推進しています。
柏市の柏の葉スマートシティでは、カーボンゼロに向けたエネルギー領域での取り組みとして以下の3つのテーマを掲げています。
- 創エネ
- 電力安定化
- グリーン電力
2014年から柏の葉AEMSという独自のエリアエネルギー管理システムを運用しています。太陽光発電、電気自動車の実証実験など、脱炭素に向けたさまざまな取り組みが行われています。
2.福島県会津若松市
福島県会津若松市は、ICTや環境技術を多様な分野に活用し、持続可能で力強い地域社会と快適なまちづくりを推進しています。
会津若松市では住民の理解を得ることにも力を入れているのが特長です。そのため、生活する人々(=実際に使う人)に“体験”してもらうことを第一に考えているそうです。
主な取り組みには、手数料の負担減少や即日現金化なども可能な地域独自のデジタル通貨(≒地域Pay)や出張旅行者や視察者(tips:会津若松市にはスマートシティの視察で訪れる人が数多い)向けに地域観光などをシームレスにつなげた観光DXなどがあります。
3. 群馬県前橋市
いち早く自動運転バスに取り組み始めたのは、群馬県前橋市でした。2025年度までの実用化を目指しています。
目的は、少子高齢化によるバス運転手の担い手不足の解消です。くわえて、高齢者に対しての移動手段の提供の側面もあります。
2018年度から実証実験が開始され、2023年10月には自動運転実証実験計画として国に採択されました。
4.東京都渋谷区
若者の街・東京の渋谷でもスマートシティが推進されています。
まず挙げるのは高齢者デジタルデバイドの解消。デジタルデバイドとは情報格差のこと。高齢者に対してデジタル機器の無招貸与や、使用をサポートする講習会の実施などで、デジタルデバイドの解消を目指しています。
また、2021年からは支援ロボットを活用した、未就学児向けの発達状況を日常的に観測することも始めています。“発達あそび”をして、子どもの発達状況を観測。観測されたデータをもとに、子どもの発達に関する早期発見や発達状況に合わせた支援をサポートします。
海外のスマートシティ成功事例
日本国内におけるスマートシティへの取り組みが盛んになったのはここ数年の話ですが、海外に目を向けるとすでに多くの諸外国およびその都市でスマートシティが推進されています。
1.オランダ・アムステルダム
オランダ・アムステルダムでのスマートシティプロジェクトの歴史は2009年から始まっています。
アムステルダムでは「アムステルダム・スマートシティ・プログラム」が2009年に立ち上がり、モビリティや公共空間などをテーマに、持続可能性とエコロジカルな生活、そして経済成長を目指しています。
たとえば、一般家庭に「スマートメーター」を取付、エネルギー使用量を可視化することで、生活者が自身でどれだけエネルギーを消費・使用しているのかを理解させ、改善に取り組ますようにしています。
そのほかでは、昨今日本でも導入が進んでいる行政における各種手続きの簡素化やデジタル化。街中の駐車場の空き状況をリアルタイムで発信することで、ドライバーはスムーズに駐車スペースを見つけられるようにするなどの取り組みも進んでいます。この駐車場の空き状況の情報発信によって、駐車場を探す時間、そして燃料消費を減らすことにつながっています。
2.アメリカ・ニューヨーク
ニューヨークでも多くのスマートシティに関する取り組みがあるものの、既存の公衆電話をWi-Fiスポットに変える「LinkNYC」というプロジェクトが有名です。使用頻度が下がった公衆電話の再利用という点で注目を集めました。
Wi-Fiスポットを用意することで、利用者データの分析なども進みやすくなり、収集したビッグデータからさらなる事業の創出にもつながります。
3.中国・浙江省杭州市
中国の杭州市は2016年にアリババグループと手を組み、スマートシティが急速に進んでいます。
中国では都市部における交通渋滞が問題視されていました。杭州市はアリババグループの「ET City Brain」と呼ばれるAI技術を活用したシステムを導入することで、交通渋滞や速やかに事故を検出し、“信号”を最適化させることで都市部の渋滞緩和に貢献しています。
さらには、緊急時には警察や緊急車両を優先的に走行できるような信号調整にも対応しているとのことです。
スマートシティの失敗事例
1.カナダ・トロント
トロントでは2017年に「Sidewalk Labs」と提携し、未来都市の開発を計画していました。しかし、2020年5月にプロジェクトは中止になりました。
理由は、公には資金不足となっているものの、実際は個人情報の取り扱いについて住民からの同意が取り切れなかったため、とされています。
Sidewalk LabsはGoogle(アルファベット)傘下の会社です。一見すると、「Googleだからすごそう」と考えるかもしれませんが、広告等などにも住民データが使われるのではないか、という不信感から中止になったのではという見解が多くされています。
2.日本・某自治体
日本国内における各スマートシティプロジェクトにおいて、現時点で「失敗」と判断するのは時期尚早かとは思いつつも、中止になったものも存在しています。
某自治体では、大手企業が取り組んでいる街づくり構想と連携し、未来都市の創造を描いていました。しかし、某自治体は高齢者も多く、先進的な技術を住民・市民の生活につなげることの難しさから、実装まで思うように進まず中止となりました。
スマートシティのポイント
スマートシティに関する取り組みは、国を挙げた壮大なプロジェクトでもあります。持続可能な社会を実現するには、すべての自治体が取り組むべき事案でもあります。
しかし、「スマートシティを実現するために必要なコトやモノ、テクノロジー」や「スマートシティの失敗事例」でもあるように、データの扱い方とテクノロジーの見せ方・使わせ方は常にユーザーである市民住民の目線で考えなければいけません。
とくに、現状の課題を起点として考えるスマートシティにおいては、課題の捉え方と解決方法を正しく見極める必要があるのです。
とはいえ、今日の日本国内においては日々さまざまなスマートシティ/スーパーシティに関するプロジェクトが動いているため、事例なども日々増えていっています。真似しやすい部分は真似をしつつ、自身の自治体にカスタマイズし、生活者がもっとも恩恵を受けられるような取り組みが増えると、うれしい未来が待っているはずです。