地方創生や地域活性化として、日本では日々スマートシティへの取り組みが進んでいます。
スマートシティはどこの自治体がどのような内容を実施していくのかが重要視されるものの、そもそも“どこでスマートシティを実現するのか”といった点が非常に重要です。
というのも、既に人が住んでいる地域をスマートシティ化する「ブラウンフィールド型」の場合と、居住地域ではない場所をスマートシティ化する動きである「グリーンフィールド型」の2パターンあるためです。
そこで本記事では、ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型についてそれぞれ解説します。
ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型の違い
ブラウンフィールド型もグリーンフィールド型もあまり耳なじみのないキーワードですが、もともとは建築・建設業界のワードです。スマートシティ界隈におけるブラウンフィールド型とグリーンフィールド型はおおむね同じような意味で使われています。
ブラウンフィールド型とは
都市部を上空から見た景色が褐色のような色であることからブラウンフィールド型と呼ばれています。
ブラウンフィールド型とは、既存の街をスマートシティに作り変えることを指します。すでに住んでいる方たちに対してICT技術などを提供し、徐々にスマートシティ化していく取り組みです。
そのため、ゼロから構築するのではなく、既存の施設や設備を改善していくことが多いです。
グリーンフィールド型とは
草木が生い茂っている土地のイメージからグリーンフィールド型と言われています。未開拓の土地を開発するのがグリーンフィールド型です。
未開拓の土地というのは、スマートシティにおいては「人が住んでいない場所」を指します。文字通り草木が生い茂る自然あふれる土地の場合もあれば、工場や施設の跡地などを開発しスマートシティ化する取り組みも含まれています。
ブラウンフィールド型と異なり、ゼロからインフラを含めて“まち”を作るため作業の面からデメリットが多いと思われやすいですが、スマートシティに最適化させてまちづくりをするため、課題や目的に対してスムーズに解決策を実行に移せるメリットがあります。そのため、最先端技術の先行事例としても活用されるケースがあります。
ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型のまちづくり事例
すでに日本国内においてもそれぞれのタイプのスマートシティ化の動きが進んでいます。
ブラウンフィールド型 福島県会津若松市
国内のスマートシティ事例でも数多く取り上げられている福島県会津若松市は、ブラウンフィールド型としても代表的なケースです。
1995年をピークに人口が減少傾向にある同市では、2060年には人口がピーク時の半数以下の約6万6000人程度まで減少する見込みがあります。同時に、65歳以上の比率も2020年は31%程度だったのに対し、2060年には46%まで上昇してしまう計算です。
このまま人口が推移すると、市の税収も減少し、道路などの交通インフラや学校をはじめとする公共施設、ごみ処理、消防、除雪等の公共サービスを満足に提供できなくなる恐れがあります。
そこで会津若松市ではスマートシティを目指すことで、新たな雇用を創出し、農業などはICT技術で効率化を目指し、オンライン診療を提供するなどの取り組みを進めています。
既存の地域課題を解決し、過ごしやすいまちづくりを全国屈指の速度で進めているのが会津若松市です。太陽光発電を利用した「エネルギーの地産地消システム」など、自立した「市」に通じる取り組みも豊富です。
グリーンフィールド型 大阪府大阪市(夢洲)
大沢ベイエリアに位置する夢洲(ゆめしま)は、市内で発生した建設土砂等を利用して作られた約390haの人工島です。2025年に開催する大阪・関西万博の予定地でもある夢洲は、「夢洲まちづくり構想」としてスーパーシティ/スマートシティとしての取り組みが進められています。
土地の開発や整備、各種工事などが万博にあわせて絶賛実施している最中なので、まだ構想段階の要素が多いですが、大阪市スーパーシティ構想では以下の7点を先端的サービスとして取り上げています。
- 空飛ぶ車
- 次世代モビリティ
- 先端国際医療サービス
- 個別最適型の健康増進プログラム
- データ連携等によるサービスの高度化
- 夢洲コンストラクション(ドローン等による建設現場の革新)
- うめきたパークネス(みどり×IoT×健康)
- ピンポイント気象予報
空飛ぶ車や次世代モビリティ(自動運転レベル4)は、既存の土地での最適化はまだまだ難しいため、夢洲のようなグリーンフィールド型のスマートシティならではの取り組みです。
ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型で異なる「ゴール」
既存の街をスマートシティ化するブラウンフィールド型と、ゼロからまちづくりをするグリーンフィールド型では、その開発目的やプロセスの違いだけでなく、ゴールや目標値もまったく異なります。
既存の街をスマートシティ化するブラウンフィールド型では、地域課題の解決を目的とするため、当然ながら地域住民の方による合意や参加が最低条件です。「突然、データを取られだしてなんだか不気味……」というような印象を与えないように、しっかりと事前に各種データ取得やICT機器の詳細な説明と、それらに合意もしくは利用などをした際に住民が受けられるメリットを伝え、理解してもらわないといけません。
もっと言ってしまえば、いくら最先端技術がてんこ盛りなスマートシティを築けたとしても、利用者がゼロ人であれば意味がないのです。
そのため、ブラウンフィールド型では住民の合意や参加、そして各種テクノロジーを駆使したものに対する利用者数や利用率が目標として設定されます。
一方のグリーンフィールド型では、ゼロ状態の土地から作り上げていった後に、その地域に人を定着させる必要があります。グリーンフィールド型の最終的な部分は「不動産業」と言われるくらいです。テクノロジーを駆使した街がいかに快適なもので、そこに住むことでどれだけ幸せになれるかを押し出していき、住民を募るのです。
ブラウンフィールド型と異なり、スマートシティを目当てに人が引っ越したり訪れたりするため、機能を利用するのはある意味前提条件であるため、各種合意や参加する意志は取れているケースがほとんどだと考えられています。
まとめると、それぞれ以下の点がゴールにおける異なるポイントです。
ブラウンフィールド型:既存の住民に理解を得て、実際に各種設備を使ってもらえるかどうか
グリーンフィールド型:スマートシティとしての魅力を周知させ、住民を集められるかどうか
どちらか課題を解決できるかを見定めることが重要
ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型のどちらがいいかという話は、そもそも起きることはほとんどなく、スマートシティは課題を解決するためのものである点を忘れてはいけません。
そのため、その自治体によって何が課題で、今後どのような展開を見据えているか、そして実現するための“場所”はどこにするのかは異なります。
たとえば、住居区域としてすでに確立されている場所は、ブラウンフィールド型のスマートシティ化が進むことが多く、再開発予定地だったり広大な自然があったりする場所はグリーンフィールド型も選択肢に入るというわけです。
重要なのはどちらの型かどうかではなく、どのようなまちづくりをして、そこに住む人や訪れる人が幸せになれるかです。