地方自治体の「スタートアップ支援」企業数は少ないのに支援数は多い“いびつ”な現状 成功させるには? フォースタートアップスに聞く

フォースタートアップス株式会社
フォースタートアップス株式会社 小田 健博氏(筆者撮影)
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地域活性化や地方創生に向けた取り組みは、大小さまざまな内容で多くの自治体が進めている。そのなかでも「県内のスタートアップ企業を支援します!」といった報道発表を頻繁に見かけている。

ただ、このような自治体らの取り組みに関して「なぜスタートアップ企業を支援するのか。支援した先に“何”を求めているのか。全体のロードマップや出口戦略は練られているのか」と話す人がいる。フォースタートアップス株式会社の小田 健博氏だ。

フォースタートアップスはスタートアップ企業を支援する会社だ。起業支援や人材支援、オープンイノベーション等を手がける。小田氏は同社でさまざまな自治体におけるスタートアップ支援の伴走をしている。そこで、自治体がスタートアップ支援事業を進めるうえでのポイントや注意点を小田氏に聞いた。

目次

うまくいかない原因は「手段を目的化」してしまっていること

「どの自治体も何かをやらなきゃいけないとは思っています。スタートアップ支援を例に出せば、『なぜ支援するのか』『支援した先にどういった未来があるのか』を明確に描けている自治体は少ないと感じます。要するに、スタートアップを支援しよう、という施策だけが先行してしまい、結局何のために支援をするのかが具体化されていないケースがあるんです」

小田氏が危惧するのは「手段の目的化」だ。スタートアップ支援では、スタートアップ企業の支援自体を目的としてしまうケースだ。しかし、本来の目的はその先にある地域貢献や産業の創出、経済の循環などのはず。手段を目的化してしまうと、施策を実行することだけに重きを置いてしまい、何のために実施するのかが不明瞭になる。結果的に“何の成果も得られない”状況に陥る可能性がある。

そのため、小田氏は「まずは地域として、5年後、10年後にどうなっていたいかのビジョンを明確にし、そのためのロードマップを用意したり、中期経営計画に盛り込んだりすることが必要」と話した。

スタートアップ企業がどれだけあるのか把握できているのか

次に、自治体らがスタートアップ支援を始めた後、もしくは実施を決定した際に発生しやすい事象について話を聞いた。

「地方においては、都市部、とくに東京近辺と比べると、スタートアップで働こうとか、起業しようという考えをもつ人は少ないと思います。にもかかわらず、自治体がスタートアップを支援する施策を進めている、若干“いびつ”な構造であるのが現状です。対象とする自治体や行政区内で『そもそもスタートアップ企業がいない』状態さえあります。スタートアップが盛んになりつつある県でも以前はそうでした」

なんでも、スタートアップ企業向けのビジネスピッチイベントを自治体やその地域に根付いた企業・団体が開催しても、毎回同じようなメンバーやスタートアップしか参加してくれないケースもあるそうだ。

要するに、必要なのはこうした支援やイベントを“とりあえず”実施することではなく、まずその地域にどれだけのスタートアップ企業が存在するのか把握することだ。

日本全体においてもスタートアップとして起業する母数は増えているが、東京都での起業数が全体の2/3を占めている。2022年末時点でのデータでは、東京都でのスタートアップ企業設立数は10,395社。次に多いのは大阪府で810社だ。大阪でさえもこの数値なので、ほかの県でどれだけスタートアップ企業を支援しようと思っても、想定ほどの企業数がいない、という状態は容易に考えられる。
▶ 参考記事:STARTUPS JOURNAL 「東京以外」のスタートアップが伸びている。大阪、京都、名古屋、福岡…「東京一極集中」に変化の兆し【独自調査】

もし、スタートアップ企業を創出したいのであれば、「学生たちに対して、起業に興味をもってもらうような教育や啓蒙活動をするのもアリなのでは」と小田氏は言う。起業数において都市部と地方で大きな差が生まれるのには、人口や産業等の数だけでなく「起業に対するマインドの違い」もあるのではないかと小田氏は言った。

「みんなが知っている王道(地元で有名な企業など)ではないところにも道はある。そっち側でおもしろいことがたくさん起きていて、成果を出している人もたくさんいるんだよ、というようにイノベーションを身近に感じることはすごく重要です。
それに加えて、“失敗”に寛容な社会になることが日本全体で必要だと思います。挑戦する人や企業が増えれば自ずと失敗も増えます。もちろん『失敗したらどうしよう』と考えることは大事です。なので、挑戦して失敗してしまった人に何かあったときのために、自治体などはもちろんですけど、国や政府らがセーフティネットみたいな取り組みも同時に作っておけば、挑戦しやすい土壌が作れるのではないでしょうか」

企業誘致するなら「誘致先がその土地で働き続ける理由」が必要

ところで、スタートアップ支援といっても中身はさまざまだ。先行事例を出している自治体を覗いてみると、事業を伴走したり、県内企業とマッチングさせたりすることなど非常に多岐にわたる。いくつかある支援例のなかで「企業誘致」について小田氏は次のように自身の見解を述べた。

「いろんな自治体で企業誘致をしていますが、他県から来てもらうことを考えつつも、元の場所に帰ってしまうリスクも考えないといけないんですよね。誘致にあたって補助金を出すだけ出したものの、誘致から2、3年で元の場所に戻るケースです。
誘致した企業が元の土地に帰るリスクを排除するために、『一定年数はその地域で事業をやってくださいね』のような縛りを設けるケースもありますが、そうすると今度は誘致に応じる企業が減るんです。
重要なのは、その土地に誘致先の企業が拠点を置く意味を見出すことです。これは誘致する企業の規模(スタートアップや中小だけでなく大企業)に限らない話だと思います」

たとえば、「わが県ではAIなどを扱うIT企業が非常に活気づいているので、AI関連の事業を進めている企業は来てください。活気があふれていて働きやすいです」という文言を掲示したとしても、「別にAIであればどこでやってもいいよね」という話である。

「誘致では頻繁に『物価・賃料が都市部よりも安い』と謳うことがあります。ただ、最近のスタートアップ企業は特にですけど、シェアオフィスやリモートで働いている人たちが多いんですよね。都内で起業したとしても、企業運営にかかわるコストを抑える方法はいくらでもあるんです」

では、具体的にどのような意味づけがあるのだろうか。小田氏は次のように説明した。

「結局はその地域にマーケットがあるかどうかです。企業が拠点をどこかに作るときは、そこに市場的に価値があるから作るんです。わかりやすいのは、地域に根付いている産業の存在です。
たとえば地方では都市部よりも製造業が盛んですよね。そうした業種はある程度のリソースや資金力、体力もあり、地域経済を回す実力があります。このような“地域の産業を支える企業”などを誘致するのであれば、誘致される企業側にも大きな意味があるのではないでしょうか。なので、誘致される企業がその土地に居座ってくれる意味や理由をまず考えないといけないんですよ」

人口や産業の数が多い東京都にスタートアップ企業が多いのは当たり前のこと。それであれば、東京都以外で起業する意味、事業拠点を設ける必然性を企業誘致には求められるのだ。

自治体が成功させるためにやるべきこと、考えるべきこと

小田氏がここまで話した“注意点”を踏まえたうえで、大筋のロードマップを描けた自治体。いざスタートアップの支援に乗り出すとき、担当者はまず何をすべきか。

「まずは『フォースタートアップスに相談』をおすすめしています(笑)。弊社のように自治体とのスタートアップ支援事業をさまざまな地域でやってきた企業に相談することはとても重要です。さまざまなスタートアップ事例をもっていますし、提案もできます。さらには先行事例をもっている自治体の担当者の紹介もできます。同じような環境や課題を抱えていた別の事例の話を聞くことが何よりも重要だと思うんです」

また自治体らが地方創生や地域活性化に取り組む際に、ほかの自治体で実施した事例を“そのまま横展開”すればうまく課題を解決できるのかと聞くと、「そんなことはないのでは」と小田氏は私見をもとに回答した。

「極端な例を出しますね。
Aという地域は人口減少によって過疎になったので自動運転バスを運行しました。結果バスの本数が減っていたエリアも交通の便がよくなりました、という話があったとして、この座組を別のBという地域でも同様に実装すれば課題を解決できるかと言うと、そんなことはないのではと思います。
たとえば環境的な問題。田んぼなど平坦な道が多い場所であれば、バスは運行しやすいですが、舗装されきっていない山間部では運行が難しい可能性が高いです。さらには土地柄の話をクリアしたとしても、そもそも地域住民がバス(移動手段)を求めているかどうかも違うわけです」

小田氏は、自治体や行政が地域を活性化するためにやるべきことを最後に話した。

「現状の一部の自治体ではユーザーである住民の意見やフィードバックを正しく聞けているのかなと思う部分もあります。
当然、意見を聞くためには、対外的に情報や実施内容等をよりオープンにする必要があります。もったいないのは、住民たちが“うちの行政が勝手に何かやっている”という感情を持ってしまい、行政と住民との間にギャップが生まれることです。自治体に興味をもってもらうための活動はもっともっと必要になるんだろうと思っています」

フォースタートアップス株式会社

小田 健博
フォースタートアップス株式会社
オープンイノベーション本部 パブリックアフェアーズディビジョン マネージャー

早稲田大学第二文学部卒。Web制作会社、映画会社、広告代理店の営業・プロデューサーとして日本や上海でコンテンツ企画制作や広告プロモーションを担当。2016年、creww株式会社に参加後はアクセラレータープログラムのディレクターとしてスタートアップと大手企業の新規事業創出やマッチング機会の創出やコワーキングスペースの事業責任者として様々な面からスタートアップ支援を行う。また愛知県、神戸市、埼玉県、浜松市、関東経済産業局などの自治体オープンイノベーションプログラムを多数担当して、自治体×地元企業×スタートアップの事業開発や事業共創を数多く手掛けたきた。2021年4月よりフォースタートアップスにジョイン。東京都、愛知県、広島県、山梨県、浜松市、京都市、福岡市、北九州市など、行政や自治体、事業会社とスタートアップ支援、起業支援、オープンイノベーション推進に取り組む。

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