「社会課題を解決したい!」
そう考えて事業を進める企業は数多い。とくにスタートアップ企業では、さまざまな角度や視点から、日本国内で発生するあらゆる課題の解決に挑戦している。
ただ、大きな問題がある。スタートアップ企業や中小企業の存在や事業が自治体側に認知されづらいという話だ。では、どうすれば認知してもらえるのだろうか。フォースタートアップス株式会社で地方自治体に伴走してスタートアップ企業を支援する小田 健博氏に話を聞いた。
自治体と取り組むことで得られる「ブランド価値」
まず、自治体ら行政と組んだり、何かの実証実験をしたりすることによって、企業は何が得られるのだろうか。
「ひとつは自治体と組むことで『ブランド価値』を上げられますよね。いわゆる権威性というか、企業価値の向上にはつながると思います。とくにスタートアップ企業に関しては、こうした取り組み実績というのは大きなメリットになります」
企業においてブランド価値は非常に重要だ。将来的な企業の行き先にもよるものの、行政と何かしら実施した結果は大きな経験にもつながる。ただ、同時に小田氏は懸念すべきことも話した。
「対行政に特化したビジネスモデルや自治体と組むこと自体を何らかのゴールに置いていないのであれば、そこに焦点を向け続けるのは、リスクがあることを理解しておいた方が良いです。
自治体と関係を結ぶと、それ相応にコミュニケーションコストや求められるものも増えてしまいます。極端な話、思ったように自社で推進したい事業に取り組み切れなくなる場合もあるわけです」
いくつか考えるべきことはあるが、たとえば自治体と何か取り組んで売上を伸ばす算段は控えたほうがいい。というのも、自治体が主となる大きなプロジェクトであれば予算がつく場合があるが、「企業のサポートはできるけど、大きな金額は出せません」ということが多々あるからだ。
これは考え方の一例だが、目的に応じて使い分けをしたほうがよさそうだ。
スタートアップ企業が自治体と繋がるためのイベント
では、ここからが本題だ。企業……とくにスタートアップ企業が自治体にどのように存在を気付いてもらうか。その方法を小田氏に聞いた。特定の地域の行政と手を組みたい、その行政内で活動しているスタートアップ企業のケースだ。
「地域(市区町村や県含む)のスタートアップ企業支援事業などがあれば、それに参加することが最も効率的です。スタートアップ企業向けのプログラムやイベントを開催している地域であれば、行政の人も来ている場合が多いので、そこでつながりを作るんです。
もし、自分たちの会社がある地域でこのようなプログラムやイベントがなければ、実施している近場(近隣の県や自治体など)の催しに参加するのもおすすめです。
自治体の人たちも、実のところ『管轄内のスタートアップ企業』を探しているんです。なので、そういう場所に行くことが最初の一歩でしょう」
いまでは多くの都道府県や市区町村でスタートアップ支援プログラムを実施している。フォースタートアップスでも県らとタッグを組み、さまざまなポイントから地域のスタートアップを支援している。シクチョーソンでもいくつかスタートアップ支援に関する記事を取り上げているほどだ。
また、支援事業などを実施していない地域だったとしても、スタートアップ企業同士のコミュニティなどがあれば、それに参加するのも有効だと小田氏は話していた。自治体の人たちも情報収集を目的に参加するケースもあるそうだ。
では、所在地を置いていない地域に自社の存在を知ってもらうにはどうすればいいのだろうか。たとえば、会社の場所は東京にあるものの、自身は宮崎県出身で、自社事業を宮崎県で活用したい、と考えているケースなどだ。
「地域外に所在地を置く企業だとしても、その地域が実施しているイベントに参加できるケースはあります。自治体の人たちも参加してほしいんですよね、多くの企業に。それでいて、その地域に何かしら縁(出身など)があれば何らかの形でつながりを生み出せる可能性もあるはずです」
その地域出身であれば、地域の環境面等はもちろん、地域課題の理解もスムーズになる場合もあるだろう。風土や文化も加味したうえで、スタートアップなりの視点による考え方は地域にとっても有益なものになる場合もあるという。
スタートアップの優位性は「ゼロやイチを10にすること」
地方創生や地域活性化は自治体とさまざまな企業が手を取り合って進めている。そのなかでも国が推進する「スマートシティ」「スーパーシティ」などはいわゆる大企業や大手コンサル企業が担っている。
こうした現状において、そもそもスタートアップ企業はどういったことを考えて、地方創生や地域活性化に取り組むべきなのだろうか。小田氏の考えは以下だ。
「スタートアップならではの小回りの良さなどは、地方創生等の面でも大きなアドバンテージであると思います。また、これは私のイメージも含めてですが、スタートアップ企業は地域が抱える負(マイナス)をゼロにするよりも、ゼロやイチを10にする取り組みのほうが得意だと思っています。
その際には、プラスを伸ばすこと、伸ばせたことをしっかり発信する必要があります。これをやらないと、なかなか事業に結び付かないので。社会課題を解決するための事業って、収益にすぐに直結しないことがほとんどです。なので、スタートアップ企業側としても、『どこをPRする部分にして』『どこで収益を伸ばしていくのか』、スキームなどをしっかり練る必要はあります」
ちなみに、企業規模によらず、人気のある会社はさまざまな自治体等で実施されるビジネスイベントやコンテストから参加要請がくることもあるそうだ。うまく自社をPRできているかという点は、自治体との関わりはもちろん、その後の企業運営にも大きな影響を与える。おそらく、イベント等に頻繁に呼ばれるスタートアップ企業は、PRの部分がとくに“うまい”のだろう。
挑戦者が増える未来 生産力は上げられる
フォースタートアップスの支援などもあり、全国各地でスタートアップ企業が立ち上がっている。その数はまだまだ東京都に一極集中している状態ではあるものの、起業数が全国的に増えている。
社会課題に立ち向かう企業が増えればどのような日本になっていくのだろうか。小田氏による展望を聞いた。「チャレンジする数が増えれば、当然成功の数も増えていくはずです。要するに、起業をする人たちが増えれば、新しいものもどんどん生まれてくると思っています。また、成功までの確率も上がるのではないでしょうか。
フォースタートアップスで携わっている各地のスタートアップ企業の支援などももっと盛んになってくれば、いろんな地域での企業が活発になっていき、地域経済も好循環が生まれてくるはずです。
人口減少や過疎などの社会課題を解決することはとても難しいです。ただ、生産性や生産力、それに付随する確率というのはスタートアップ企業の力で一気に上げることはできるのではないでしょうか。そういった日本になることを期待しています」
小田 健博
フォースタートアップス株式会社
オープンイノベーション本部 パブリックアフェアーズディビジョン マネージャー
早稲田大学第二文学部卒。Web制作会社、映画会社、広告代理店の営業・プロデューサーとして日本や上海でコンテンツ企画制作や広告プロモーションを担当。2016年、creww株式会社に参加後はアクセラレータープログラムのディレクターとしてスタートアップと大手企業の新規事業創出やマッチング機会の創出やコワーキングスペースの事業責任者として様々な面からスタートアップ支援を行う。また愛知県、神戸市、埼玉県、浜松市、関東経済産業局などの自治体オープンイノベーションプログラムを多数担当して、自治体×地元企業×スタートアップの事業開発や事業共創を数多く手掛けたきた。2021年4月よりフォースタートアップスにジョイン。東京都、愛知県、広島県、山梨県、浜松市、京都市、福岡市、北九州市など、行政や自治体、事業会社とスタートアップ支援、起業支援、オープンイノベーション推進に取り組む。
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