ゲヒルン株式会社は9月9日、「特務機関NERV《ネルフ》防災」アプリをアップデートし、アプリ初のユーザー投稿型コンテンツ「クライシスマッピングレイヤー」機能を実装した。ネルフは災害や事故情報を即時共有してくれるX(旧Twitter)でおなじみ。アプリ版は2019年から提供開始。
今回のアップデートで追加したクライシスマッピングレイヤーは災害時の生活支援情報を地図上に可視化し、ユーザー間で共有するための機能だ。このレイヤーでは、避難所や給水所の位置、トイレの設備、道路の通行状況、災害ごみの収集場所、入浴支援の情報、罹災証明書の申請場所、救援物資の配布地点など、被災者の生活再建に直結する多様な情報を収集・提供する。
信頼性の高い情報収集を可能に
ネルフに追加されたユーザー投稿機能において気になるのは情報の信頼性だ。公的機関ではなくユーザー投稿となると信頼性の担保が重要。とくに事故や災害等においてはデマが命取りになる可能性もある。
そこでネルフはユーザー投稿の権限を月額250円から加入できるサポーター会員に限定することで信頼性を担保するという。
サポーターは現在地から10km圏内の情報を投稿でき、詳細説明の追加も可能。誤った情報や古い情報は、ゲヒルンがレビューするとともに、サポーター同士でも修正や削除可能だ。
また、日本語で投稿された情報は英語に、英語で投稿された情報は日本語に自動翻訳される。双方向の翻訳システムは、言語の壁を超えた情報共有を実現し、国際的な災害支援や外国人居住者・訪日外国人等の安全確保にも役立つとゲヒルンは考えている。
ゲヒルンがサポーター会員に向けて以下のコメントを残している。原文そのままお届けする。
クライシスマッピングは始まったばかりで、ほとんどの情報が未記入の状態です。高品質な情報を作るには、ユーザーネットワークが非常に大切です。ぜひお近くのトイレや公園、公共施設等を日頃からマッピングしていただけたらと思います。特にトイレ情報は、バリアフリー対応やオストメイト(ストーマ=腹部に造設された排泄口/人工肛門・人工膀胱を使用している方)対応かどうか、必要としている人にはとても重要な情報です。
アプリがこの5年間、進化を続けてきたように、これから何年かかけて未成熟のクライシスマッピングレイヤーを私たちと一緒に育てていただけましたら幸いです。
ゲヒルンは、今後も防災情報配信のさらなる強化に取り組んでまいります。
「被災者が生活を取り戻すための情報」を届けられていなかった
ゲヒルンではこれまで、緊急地震速報やキキクル(大雨危険度)、河川水位情報など、防災気象情報を中心に「判断材料となるための情報」を迅速に届けようと、防災の観点からアプリを開発してきた。
しかし、「被災者が生活を取り戻すための情報」については十分に届けられていなかったとプレスリリースでは述べられている。
生活に関わる情報には、日頃から使用できる施設の情報もあれば、刻一刻と更新される情報もある。そのため、「私たちだけでは膨大な情報を収集・整理しきれませんが、これまで支援を続けてくださっているサポーターの力を借りて、みんなで被災した方々を支援できる仕組みにしたい」という想いからクライシスマッピングレイヤーの開発・実装に至ったそうだ。
SNSで情報収集の流れ 課題は情報の正しさ
東日本大震災を契機に、インターネットやソーシャルメディアは新しい情報伝達手段として注目を集めた。スマートフォンの普及とともに災害が多発する日本において、多くの公的機関や報道機関がSNSで災害情報を提供するようになり、SNSを活用して災害情報を収集する人も多くなった。
しかし、プラットフォームの変化によって、インプレッションや収益化を目的とした書き込みが爆発的に増え、情報空間が汚染されており、SNSで正しい情報を探し出すことが難しくなっているとゲヒルンはいう。また、公的機関が発信する情報についても、データ形式や品質、運用体制等に課題があり、データを入手できたとしても機械的に処理することが難しく、十分に利活用できていない背景もあったそうだ。
そこで、NERV防災アプリでは、災害や支援に特化したデータフォーマットを作成し、クライシスマッピングによって情報を収集する試みに挑戦する。
同社のプレスリリースでは「このプロジェクトが社会にどのような影響を与え、どのように役立つのか、価値があるのか、私たちにとっても未知であり、実験的な側面もあります。もしかしたらうまく機能しないということも十分に考えられますが、ただ、私たちは、ユーザー同士のネットワークによって情報伝達のあり方を変えられるのでないか」と今後の活用や動きへの期待をもつコメントが記載されている。