大雨による被害が後を絶たない。ここ数か月に目を向けても、日本列島を襲った台風10号はもちろん、9月下旬には石川県・能登半島に線状降水帯が発生し、能登半島地震から復興途中だった地域に大きな被害を与えた。
大雨による被害は、雨がやんだ後も、道路の冠水や河川の氾濫、土砂崩れ、家屋の浸水など、さまざまな形で地域に爪跡を残す。
このような水害を防ぐために、各地域では雨水貯留槽が設置されている。雨水貯留槽は、降った雨水を一時的に貯めることで、河川への負荷を軽減し、氾濫を防ぐ役割を果たす。しかし、この雨水貯留槽を適切に管理できていない地域も少なくないという。
雨による水害を未然に防ぐ雨水貯留槽
雨水貯留槽とは、雨水を一時的に貯めることで河川や下水道に水があふれるのを防ぐための設備だ。主に学校の校庭や公園、公共施設の地下に設置されており、雨水を一時的にとどめる役割を担う。とどめた雨水は、河川や下水道が溢れないように放流する。いわば「ダム」のような役割だ。
本来、雨水は地面に降り注がれたら、地中に浸透し、それが川から海へと流れていく。要するに自然環境のなかで循環してくれている。ところが、自然が減り、地面はアスファルトで作られるようになったため循環が機能しづらくなった。こうした背景があったため、雨水貯留槽が各地域で設置されている。
とくに都市部など、自然が比較的少ない土地ほど雨水貯留槽の重要性・必要性は高まる。大雨の際に人工的に作られた下水管等のキャパシティをオーバーし雨水氾濫被害が発生するなどの都市型水害を防ぐためだ。
雨水貯留槽が抱える「目詰まり」問題
「雨水貯留槽は各地に設置されていますが、メンテナンスの必要性が問われています。
雨水貯留槽に流れ込むのは雨水だけでなく、レジ袋や枯れ葉などのゴミも多く入ってきます。これらの流入を防ぐために『バースクリーン』がフィルターの機能として、貯留槽への異物の流入を防いでいます。
しかし、バースクリーンに大量のゴミ等が押し寄せると、目詰まりが発生してしまい、貯留槽に雨水が入らず、結果的に道路が冠水するなどの被害が発生する恐れがあります」
こう話すのは、ベルテクス株式会社 生産本部 特任部長 石田孝太郎氏だ。
貯留槽のなかにゴミが混入すると貯留槽の内部に人が入って清掃をしなければいけない。それを防ぐためにバースクリーンでゴミをせき止めている。だが、バースクリーンが目詰まりを起こすことで、貯留槽に雨水が入りづらくなる。結果的に、雨が降ると、本来貯留槽に入るはずだった雨水が道路などにあふれてしまう。本末転倒……というほどではないが、機能不全なのは間違いない。
雨水貯留槽を生かすには、定期的なメンテナンスが必要だ。ただ、メンテナンスには人も費用も時間もかかる。しかし、雨が降るたびにメンテナンスをしなければいけない。住民の生活を守るためにも。
石田氏は「雨水貯留槽における目詰まりへの課題を抱えている自治体は意外と多いのではないか」と警鐘を鳴らす。
バースクリーンの課題を解消するユニフィルター
雨水貯留槽が抱える目詰まり問題を解決するために、ベルテクスが提供しているのが「ユニフィルター」だ。
ユニフィルターは、従来のバースクリーンに代わる製品で、ゴミをはじめとする夾雑物(きょうざつぶつ)を除去する装置だ。
下水道と貯留槽の間に設置することで、レジ袋や枯れ葉、土砂などが貯留槽に入るのを防ぐ役割をもつ。
ユニフィルターは、装置内部で水と夾雑物を仕分けする。仕分けは旋回流を内部で発生させることで、比重の小さい夾雑物は旋回し、比重の大きい夾雑物は装置の下部へ、そして雨水は左右のスクリーンを通っていく。
旋回流は流水エネルギーのみを活用している。つまり、流れ込んでくる水の勢いのみを使う仕様なので電力等は不要だ。
そして、ユニフィルターで仕分けされたゴミ等はバキュームで吸い込むようにして回収できる。
つまり、ユニフィルターは「スクリーンの目詰まり」「電力消費」「メンテナンス」の3つの部分で、従来のバースクリーンと比べて優位性を備えている。
ユニフィルターの使用用途は雨水貯留槽だけでなく、そのほかの“仕分け”にも活用されている。たとえば工場における水と油の分離だ。過去にはトヨタ自動車とともに油水分離の実験、評価に取り組んでいた。
自治体側も課題には気づいているが……
ベルテクス株式会社 コンクリート事業部 執行役員事業部長 村田勝彦氏は「雨が降ったとき、道路が冠水していたら貯留槽がうまく機能していない可能性がある。とくに“普通の雨”のあとでさえも道路が冠水しているなら、役所等に連絡したほうがいい」と言う。
役所の方たちは住民の生活を守るため、大雨による被害を常に警戒している。ただ、貯留槽の状況をすべて完璧に把握できるのかというとそうでもない。
「たとえば、ユニフィルターを導入した埼玉県吉川市では、貯留槽においてメンテナンスやバースクリーンの目詰まり等の課題が明確になっていました。
同様の課題を抱えている自治体はあるとは思いますが、次の一手で何をすればいいかが見つかっていない可能性はあります。そのとき、頼りになるのは住民の声や気づきだと思います」(村田氏)
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電力も何も必要としない装置が、テクノロジーが急発達している現在を支える。それも、自然災害という不確定要素の多いものに対してなのは、実に興味深い。
ちなみに、多くの貯留槽で使われているバースクリーンなどが苦手なもののひとつに、髪の毛や藻などがあるという。フィルターをすり抜けるように細く、ほかのモノに巻き付くものは、スクリーン部分で塊を形成し、大きくなることもあるそうだ。
このような細長いものでも、ユニフィルターであれば旋回流によってスクリーンの目詰まりがしづらいという。