福井県が実施した「観光業の実態」を把握する方法 観光客の満足度向上につなげる取り組み

講演_佐竹さん
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2024年3月、福井県に北陸新幹線が開通した。開通した福井県敦賀駅には、東京から乗り換え不要で3時間余りで到着する。

福井県としても「北陸新幹線開業は100年に1度のチャンス」と考えており、県では観光ビジョンが掲げられた。

自治体公共Week2024では、この福井県の観光事業の仕掛け人とも言える福井県観光連盟 観光地域づくりマネージャー 佐竹 正範氏による講演が実施された。この講演の内容は、多くの自治体や行政における観光にかかわる人たちに届けたいものだったため、本稿にてレポートする。

目次

集客ポイントにキャッシュポイントを設置する

福井県の観光全体ではいわゆるKGIに「観光消費額」が設定されている。つまりは、観光で訪れる人にいかにお金を使ってもらい、観光業に携わる人たちが潤うかどうかを重要指標としている。

まず、観光にかかわる要素を4つ並べると以下になる。

  1. 宿泊
  2. 食事
  3. 体験
  4. 自然・歴史

この順番が意味しているのは、「1」になればなるほど消費額、つまり地域にお金が落ちるポイント。一方で「4」に近づくと集客できる要素だ。

つまり、集客できる要素の周辺に、キャッシュポイントを用意すれば、観光が潤いやすくなるのではないか。これが観光業における“勝利の方程式”でもあり、福井県としても取り組んでいることだ。具体的に言えば、行政はたとえば博物館を整備したり、警備員を配置したりなど、いわばハードを用意する。そこに民間企業がお金を稼ぐという仕組みを用意する、ということだ。

そこで、佐竹氏は民間企業を支援するために、たとえばデータを収集したり分析したりといったことを進めている。

しかし、佐竹氏は観光業での重大な課題について次のように話した。

「観光って実態把握がまったくできていないんです。電車に乗っている人のうち、誰が地元の人間で、誰が観光客なのか。飲食店にいる人のなかでも、誰が観光客なのか。

そして、福井県に観光に来る人は、たとえば何歳くらいの人が多くて、何を目的に来ているのか。

実態が不明な要素が多すぎて、マーケティングのやりようがなかったんです」

やったことは「アンケート」 データをもとに改善の判断等に活用

観光客に関する詳細なデータ、とくに横ぐしで県全体として使えるものがなかった。データがなければデータを集めればいい。

福井県が実施したのは、県内の90エリアに二次元コードを設置し、観光客向けにアンケートを実施した。2022年度からアンケートを開始し、現在では5万件弱の回答があるそうだ。

アンケートの結果からわかったことは膨大だ。

  • どこの都道府県から観光に来ているのか
  • その人はどの観光地に行ったのか
  • その観光地の満足度はどうだったのか
  • どれくらいの人が、訪れた観光地に再度来たいと思ったか

などがデータとして取れるようになった。当然、ゴールデンウイークの時期は人が増える、新幹線開業による効果はたしかに大きかったなど、季節やイベント要因による効果も正確に取れるようになった。

そして、満足度が高い観光地は、同県の観光ポータルサイト「ふくいドットコム」のトップページなどで押し出す等の判断にも使っているという。

また、満足度が“低い”観光スポットに対しては、改善施策を提案し実行してもらうといったことを進めているそうだ。これによって、県全体で「満足度が高い観光地」という状態にもっていこうとしている。

実際、北陸新幹線が福井県に開通したことで訪れる人が増えたものの、満足度はなんと“上がった”という。一般に、訪れる人が増え、アンケートの回答者も増えると、満足度は減りやすい傾向がある。にもかかわらず満足度が上がったということは、県全体で“おもてなし”などの精神が非常に養われている証拠だ。

「税金でやっているので」データはオープンソースとしてできる限り公開

福井県での観光に関する取り組みの最大のポイントは、取得した各種データをオープンソースとして公開していることだ。

同県の観光データ分析システム「FTAS」では、

  • ふくいドットコムのアクセスデータ
  • 観光来訪者数のダッシュボード
  • 観光客から取得したアンケートデータ
  • 県内エリアごとの宿泊予約状況

などを公開している。

公開した理由について「税金で作ったホームページやアンケート。決して県だけのものではない。データをオープンにすることで、みんながたくさん活用できる」と佐竹氏は話した。

とはいえ、データを公開したからといって観光にかかわる人がすぐに使いこなせるわけではない。要するに、戦略や施策立案のフェーズに誰もがもっていけるとは限らないのだ。言うまでもなく、多くの人が日々忙しいからだと佐竹氏は話す。

そこでデータをもとに現状分析と戦略立案の支援として、県内のデータ分析に強みを持つIT企業らとともに地域の事業者向けにサポート活動をしている。

そのほかにも、オープンなデータという特性を利用し、シビックテックハッカソンを実施したり、地域の大学と連携して研究したりといった活動も進めている。

福井県の観光業全体が目指すのは、「ひとつの目標に向かってみんなができる力を持ち寄って、それぞれが主体的に活動する『自律分散型相互運用』」と佐竹氏は話した。

福井県が始めたのは、アンケートを取るといったどこでもだれでも実施できることだ。この結果をもとに、観光に関するデータを集め、可視化し、それをもとに戦略を立案し、県全体で満足度を向上させている。

最初は実態を把握すること。観光DXのスタートは、まずはここからすべては始まる。

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シクチョーソンでは、デジタル庁 河野太郎大臣の講演をはじめ、「自治体・公共Week2024」で実施された各種セミナーや出展ブースのレポートなどを公開中。気になる取り組み、参考にしたいサービスなどを紹介しているのであわせてチェックしてください。

自治体・公共Week2024 レポート記事一覧

展示会概要
展示会名自治体・公共Week2024
会期:2024年6月26日(水)~2024年6月28日(金)
会場:東京ビッグサイト 西展示棟
※本展は業界関係者のための商談展です。一般の方はご入場できません。

講演_佐竹さん

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