自治体は生成AIを調達業務に活用するべき理由 作業工数大幅削減で住民が得することを目指す「調達インフォ」キーマンに聞く

株式会社うるる
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私たちの生活を豊かにする、行政によるさまざまなサービスや施策。これらが提供されるまでにかかる時間を短縮できるかもしれない。

既報のとおり株式会社うるるが提供している「調達インフォ」という自治体等の公的機関向けのサービスが、生成AIによる支援機能を搭載するなど、全面リニューアルした。このリニューアルによって公的機関の調達業務における「仕様書作成」が大幅に効率化できると期待がかかっている。仕様書作成が効率化されれば、最終的なエンドユーザーである私たち市民に対してより早く、そして質の高いサービスが提供される可能性がある。

公的機関における仕様書とは、調達する物品やサービスの品質、数量、納期など、具体的な条件を詳細に記述した文書だ。作成する仕様書のボリュームは実施する内容によってピンキリだが、2〜3日程度かかると言われている。今回の調達インフォのリニューアルによって、この仕様書作成業務を最大8割程度も削減できるというのだ。

目次

公的機関における「調達」「入札」「仕様書」とは

まず調達とは、公的機関において、必要な物品やサービスを適正な価格で入手することを指す。予算内で最適な条件で調達することが最大の目的だ。

当然ながら公的機関、たとえば自治体などは税金を使って物品やサービスなどを入手する。そのため、公正かつ透明性の高い手続きが重要視される。この公正かつ透明性を保つために多くの調達において利用するのが「入札」だ。

入札とは、民間企業などに協力を求めて事業を委託する仕組みのこと。入札に参加した企業のうち、最低価格で提示してきた企業を落札者とする「一般競争入札」が公的機関の入札では最も一般的だ。なお、一般競争入札では価格だけでなく“総合評価落札方式”もあり、こちらは入札価格と技術提案の両方が評価される。

入札の際、公的機関は企業側に仕様書を提示する。先に記載のとおり、仕様書には案件の目的や満たすべき要件などが記載されている。この仕様書の内容をもとに、入札を考えている企業側が見積もりを出す。そのため、企業による入札金額がこの仕様書によって決まる。

つまり公的機関にとって、仕様書の作成は非常に重要な業務だ。なぜなら、仕様書の内容が最終的に住民が受けるサービスの質を大きく左右するからだ。詳細かつ正確な仕様書を作成することで、無駄な費用を削減し、住民に満足のいくサービスを提供できるのである。

参考出典
入札リサーチセンター (https://research.njss.info/
調達
入札
仕様書

調達業務の仕様書作成に時間がかかる理由

「仕様書を作成する業務に時間がかかる理由はいくつかあります。
ひとつは、提供したいモノやサービスに関する情報収集に時間がかかること。たとえば過去の事例を参考にしたいのに、なかなか見つからないなどです。また、新しい技術やサービスを導入する場合、類似の事例が少なく、市場調査に時間がかかることが多く見られます。

くわえて、部署異動などにより、その分野の経験が浅い担当者が業務を担当する場合、専門知識の習得に時間がかかり、仕様書作成に遅れが生じることもあります。さらに、技術革新のスピードが速い現代においては、常に新しい知識を習得する必要性があり、担当者の負担が増大しています。
そして仕様書に関するルールが山積みになっている点。様式などや決定するべき仕様の量など、守らないといけない“決まり”がたくさんあるためです」

こう話すのは、株式会社うるる 安蘇 透氏だ。

▲ 株式会社うるる Govtech事業本部 調達インフォ サービス販売責任者 安蘇 透氏

自治体などにおいては、一般の市民には見えづらい苦労がある。もちろん変えるべき仕組み、変わるべき習慣などがあるのも事実。ただ、職員らは常に使命感をもって働いていることを、私たちは理解しなければいけない。

「調達するモノのなかには、刻々と進化を重ねているものがあります。たとえばDX推進に資するサービスは、新しい技術や使い方が日々更新されていますよね。つまり、提供開始するタイミングになったとき、さらに新しく、より良いサービスが登場する可能性もあります。そうなると、提供予定だったものが過去のモノになってしまう。

常に良いサービスを住民等に提供したいと考えているのが公的機関の職員の方たちです。

そのため、職員の方は日々新しいサービス等について調査され、ものすごい量の知識を蓄えられています。すべてはそこの地域で暮らす住民のためにです。そして、税金を使用する業務なので、住民に満足してもらうことが第一だからです」(安蘇氏)

冒頭に記載したように、仕様書は住民のために要件をまとめ、それを協力してくれる企業に伝えるために作成する。当然、量も相当なもので、仕様書は50ページ、100ページと枚数が積み重なることも多い。

仕様書作成に時間がかかるのは、こうした理由がいくつもいくつも入っているためだ。

▲ 「自治体 仕様書」でGoogle検索すると、書き方や作り方といったワードが提案されることから、調べながら作成している人が一定数いることが推測される

「仕様書作成が未経験の方でもドラフト版がすぐに作れます」

自治体の職員が過去の調達事例を探す際、ひと昔前は「紙書類で保管されているバインダー等から探す」「ほかの自治体の知り合い等に連絡して聞く」などだった。一般企業同士の取り組みと異なり、公的機関の事例は現在ほど公開されておらず、参考にする方法は限られていた。

そうした公的機関の課題に対して作られたのが「調達インフォ」だ。同社の北澤 雄太氏は、調達インフォの生い立ちについて次のように紹介した。

▲ 株式会社うるる NJSS事業本部 カスタマーサクセス部 部長/Govtech事業本部 調達インフォ事業部 部長 北澤 雄太氏

「うるるでは、民間企業向けに入札情報などをまとめている『NJSS(エヌジェス)』を以前より運営しています。これは、自治体をはじめ、公的機関などが発表した入札・落札情報(調達情報)をまとめ、情報を探しやすくしたサービスです。

実はこのNJSSは公的機関の方も登録いただいていることがわかりました。登録している職員の方にヒアリングしてみたら『ほかの役所が出している案件の仕様書を確認したかったから』『自分たちが発注しようとしている企業の過去実績を見たかったから』などの理由を話されました。つまり、公的機関の方たちは、事例などを探すためにNJSSを活用されていたのです。

このニーズを受けて制作したのが『調達インフォ』です。調達インフォは、完全に公的機関の方に特化したサービスで、過去の事例はもちろん、仕様書の内容、案件の系統や自治体の所在地など、さまざまなフィルターをかけて検索・閲覧できます」

業務削減
▲ うるるが実施した調査によって、「調達インフォ」の導入により、これまで調達業務に費やしていた時間が1案件あたり平均約10時間も削減できていることがわかった(画像出典:うるる ※2023年7~8月「調達インフォ」を利用する公的機関を対象にアンケート調査を実施。回答数187、各項目での先着有効回答数50で算出(うるる調べ、チェンジHD集計))

もともと、サービス開始当初の調達インフォの裏側は、NJSSと同じものだったそうだ。公的機関の方が求めているのは「過去の情報」のため、UIやUX部分などを既存のNJSSから公的機関の方が満足するサービスへとブラッシュアップ。このように新たに作り変え、現在の調達インフォが誕生した。

▲ 調査インフォでは、「他機関の仕様書」や「落札・応札企業の情報検索・閲覧」など調達業務に特化した機能を厳選している

そして調達インフォがこの度リニューアル。目玉機能は「生成AIによる仕様書作成支援」だ。この機能について安蘇氏は次のように説明した。

「仕様書作成の支援で目指しているのは『仕様書作成が未経験の方でも、さまざまな仕様書のドラフト版がすぐに作れます』というサービスです。

調達インフォでは、公的機関の過去の案件情報と、その案件に付随している仕様書などをすぐに検索できます。たとえば自分の自治体で似たような調達情報があれば、該当する案件情報をベースに、生成AIが仕様書を作成します。

もちろん、生成AIが作るのはあくまでもドラフト版の位置づけなので、生成された仕様書をもとに、自分の自治体(機関)の規則等に合わせた仕様に編集・修正する作業は発生します。ただ、ゼロから仕様書を作成するよりも圧倒的に工数を削減できます。また、過去の案件をベースにしており、『この部分は要検討の項目』などの検討するべきポイントを提案する機能も実装しているため、その案件やドメイン知識が不十分だと感じる担当者の不安をできる限り取り除くようにしました」(安蘇氏)

▲ 仕様書作成支援する生成AI機能を活用することで、従来数日かかることも多いとされる仕様書の作成時間を、案件によっては最大で8割ほど削減することも可能になるという

作業時間の短縮だけではなく“良い調達”を実現させる

調達インフォを提供する株式会社うるるは、「労働力不足を解決し 人と企業を豊かに」をビジョンに掲げる。いま、うるるが立ち向かうのは「2040年に69兆円もの労働力が不足する」と言われている不安が募る未来だ。労働力不足や生産性の向上のために、NJSSや今回の調達インフォなどを提供している。

今回の取材に対応いただいた安蘇氏と北澤氏に、調達インフォなどを通じて、公的機関やエンドユーザーである市民にどのように貢献していきたいかを聞いた。

「住民の方に対して、直接的に何か貢献できるサービスではないですが、調達インフォによって最終的に住民の方が豊かな生活を送れるようにしたいと考えています。

公的機関の職員の方は日々さまざまなルールやしがらみに左右されながら業務に取り掛かっています。仕様書にフォーカスすれば、せっかく何日も何時間も苦労して用意したのに、残念な結果になってしまう。この理由は、たまたま手元に情報がなかったり、部署異動等の理由で経験が不足してしまったりなど。つまり、解決するべき課題は山積みです。

調達インフォを活用してもらうことで、自分たちの仕事のレベルを上げてもらい、結果的にその機関内の業務効率も向上し、最終的に住民にもメリットがあるようなサービスにもっていければいいなと思っています。

うるるとしては社会に属する企業である以上、もちろん利益を創出しながらという前提はありますが、公的機関と企業の中間にいる企業なので、社会的意義をもって取り組んでいます」(安蘇氏)

「まずは公的機関の職員の方が抱える課題を解決していきたいです。そのなかで、これまで作業負荷が高かった仕様書作成の業務効率化を目指しています。

効率化というのは、単純に作業時間を短縮することだけではありません。良い調達ができるようになる、というのが絶対条件です。

私はNJSSのカスタマーサクセスにも所属しているため、企業の方から『自分たちに合う案件情報が見つからない』という相談をいただくことが多々あります。スタートアップをはじめ、革新的な技術を提供する企業はたくさんあるにもかかわらず、なかなか入札しづらい状況になっていることもあります。

一方で自治体様からも『案件を出しても参加企業がいない』など、入札いただく企業数が足りない状況が発生することがあるのも事実です。

このように、企業と公的機関の間でミスマッチが起きることも少なくありません。そのため、たとえば仕様書で記載している『要件』や『仕様』を縛り過ぎず、少しだけ条件を緩くするなど、ほかの事例を参考にして仕様書を工夫・改善するだけで、企業が入札しやすくなり、公的機関側も良い入札を待てる状況ができるかもしれません。

“うまくいく調達”を調達インフォを通じて実現させていくことで、公的機関も企業も喜べますし、サービスを受ける住民もうれしい状態を作れると思います。私たちは公的機関、企業、そして住民の三方良しを作りたいのです」(北澤氏)

無償から有償化 それでも公的機関からの契約数が100件を超える

最後に、調達インフォの重要性が公的機関からも大いに理解されている話を紹介したい。

調達インフォはもともとはすべて無料だったが、機能や提供サービス内容拡充のために2023年7月から有料版の提供をスタートしている。今回の生成AIによる仕様書作成支援は、機能拡充における最たる例だ。

ことし10月には、2024年9月末時点で有料版契約数が100を超えたと発表があった(※)
※調達インフォの協業パートナーであるジチタイワークス、チェンジホールディングスからもリリースを発表

仕様書の説明時に記載したように、公的機関では限られた財源(税金)を有効活用しなければいけない。つまり、何かを購入したら、何かを諦めなければいけなくなる取捨選択が常につきまとう。

なぜ、有料化したにもかかわらず、多くの公的機関が調達インフォを導入しているのか。

その理由について安蘇氏は「調達業務に負荷がかかっていることは、多くの公的機関で理解している。ただ、住民により良いサービス等を提供するには調達は必要不可欠。だからその業務を効率化させられる調達インフォは選ばれているのでは」と話した。

事実、うるるに対する公的機関の問い合わせ(累計1,080件)のうち、およそ7割が仕様書作成に関する課題だったそうだ。また、調達インフォを利用する調達業務の担当者のほとんどから「仕様書を簡単に作成できるサービスを期待する」と回答があった。

そのため、仕様書作成業務の効率化が調達業務の大きな改善につながるとうるるは判断し、生成AIを活用する本機能の開発に至った。

安蘇氏と北澤氏が話すように、調達業務を効率化することで、最終的には住民である我々が“得をする”。もちろん、調達インフォや調達業務はあくまでも手段であり、同じように、調達という行為自体は目的ではない。ゴールにあるのは豊かな生活だ。

本稿冒頭で記載したように私たちの生活を豊かにするさまざまなサービスや施策が提供されるまでにかかる時間が、調達インフォによって短縮できるかもしれない。その可能性を調達インフォが秘めているのはたしかだ。

調達インフォは単なるツールではなく、公的機関が抱える課題を解決するための重要なパートナーだ。

北澤 雄太
株式会社うるる NJSS事業本部 カスタマーサクセス部 部長/Govtech事業本部 調達インフォ事業部 部長
2015年1月うるるに入社、NJSS事業のセールス業務を経験した後、2020年10月にカスタマーサクセスに異動。
2023年10月からカスタマーサクセス部の部長を務める。
2024年4月からは調達インフォ事業部の部長も兼務。

安蘇 透
株式会社うるる Govtech事業本部 調達インフォ サービス販売責任者
2016年株式会社うるるに入社。 うるるBPO、各種新規事業の立上げに携わった後、2019年から調達インフォ事業を担当し、公的機関の調達業の課題解決に注力。

株式会社うるる

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