株式会社うるるが10月31日に発表した「スタートアップ企業の公共入札に関する実態調査」がとても興味深い。これは、スタートアップ企業(対象は後述)に対して公的機関が実施する「入札」について率直な感想等を求めたもので、大手企業や上場企業ではない会社の視点が詰まっている。
現在、日本国内ではさまざまな社会課題に直面しており、解決するためにも政府としては、先進的な技術知識や革新的なアイデアを豊富にそろえるスタートアップ企業にも公的機関と積極的に取り組みを推進してほしいという狙いがある。ただ、スタートアップ企業との認識の差などから、そこにはミゾがあるように思える。裏を返せば、このミゾを埋めることで解決できる課題が出てくるように感じる。
本稿では、うるるが発表したレポートの内容をそのままお届けする。
調査概要
調査名:NJSS スタートアップ企業の公共入札に関する実態調査
※本調査におけるスタートアップ企業の定義:設立20年以下/従業員数200人以下/未上場企業
調査手法:インターネット調査
調査対象:スタートアップ企業に所属する課長以上の役職者
調査期間:2024年10月11日~10月13日
サンプル数:443名
調査サマリー
- 入札の仕組みに関して「まあまあ理解している」が4割(41.6%)を占める中、「よく理解している」は2割(20.4%)にとどまる<結果2>
- 7割以上(72.2%)のスタートアップが入札に参加したことが「ない」と回答<結果4>
- 入札に参加しない理由は「自社と無縁と思っている」が半数(54.4%)を超える。次いで、「どうやって参加すればいいかわからない」(26.9%)という結果に<結果8>
- 政府がスタートアップの入札参加機会の拡大を促進していることを「よく知っている」と答えた人は1割にも満たず(7.0%)、7割近く(69.5%)が「あまり知らない」「全く知らない」と回答<結果9>
- 今後の入札参加意向は「全く検討していない・参加しない」と回答した人が42.9% と最も多く、入札未経験者が9割以上(96.3%)を占める。一方で入札に関する知識や仕組み・制度について興味関心が「ある」と回答した人は6割以上(64.8%)<結果10,11>
- より入札市場について興味を持つために求められている情報は「政府によるスタートアップ向け入札機会拡大の施策の詳細」(49.7%)が最も多い結果に<結果12>
結果1:「入札」という言葉の認知度
官公庁(国・自治体)における「入札」という言葉を聞いたことがあるか質問したところ、7割以上(76.5%)が「聞いたことがある」と回答しました。
結果2:入札への理解度
官公庁(国・自治体)における「入札」という言葉を知っている方に、その仕組みに関する理解度について聞いたところ、「まあまあ理解している」が4割(41.6%)を占める中、「よく理解している」と回答した人は2割(20.4%)にとどまり、「よく理解していない」・「全く理解していない」、あるいは「聞いたことがない」の合計は4割近く(38.1%)にのぼりました。
結果3:入札へのイメージ
官公庁(国・自治体)における「入札」という言葉を知っている方にそのイメージについて聞いたところ、「公的機関との取引実績ができ会社の信用性が高まる」が35.4%と最も多く、次いで「長期的なビジネスチャンスにつながる」が33.9%という結果になりました。一方で「出来レースのイメージがある」といったネガティブな回答も3割を超えています(31.0%)。
結果4:入札参加経験
所属する企業において、「入札」に参加したことがあるか質問をしたところ、7割以上(72.2%)が「ない」と回答しました。
結果5:入札実施回数
官公庁(国・自治体)の「入札」に参加したことがあると回答した方に、これまで何回入札に参加したことがあるか聞いたところ、「1~5回」が7割近く(69.1%)を占める結果となりました。
また実際に入札に参加してみて感じたことについて自由記述式で質問したところ、以下の声がよせられました。
ポジティブなコメント
- スタートアップ企業にもチャンスがあると感じた
- 行政との関係が深くなった
- 書類関係が多かったが、それでも落札した時にはうれしかった
- 会社の信用度が上がって手間が軽減した
ネガティブなコメント
- 実績のない官公庁の案件は落札が難しい
- 価格設定に時間がかかりすぎた
- 想像以上に書類作成の手間がかかって大変だった
- とても緊張する。出来レース感がある
- 近年落札価格の低下が激しい
- 大手企業には敵わない
- 仕様書の内容が細かく期日ギリギリまで対応した
- 仕様書がわかりにくい
- ルールが複雑である
結果6:落札経験
官公庁(国・自治体)の「入札」に参加したことがあると回答した方に、その結果について聞いたところ「案件によっては落札できた」という回答が6割(60.2%)と最も多い結果となりました。「参加した案件、全て落札できた」(24.4%)を含めると、落札できたと回答した割合は8割を超えます。
結果7:落札回数
官公庁(国・自治体)の「入札」に参加し落札できたと回答した方にその回数を聞いたところ、「1~5回」が78.2%と圧倒的に多い結果となりました。
結果8:入札に参加しない企業の理由
官公庁(国・自治体)の「入札」という言葉を知っている方が所属する企業における入札参加経験が「ない」と回答した方に、参加しない理由について質問したところ、「自社とは無縁と思っている」が半数以上(54.4%)にのぼりました。次いで「どうやって参加すればいいかわからない」が26.9%という結果になりました。
結果9:政府によるスタートアップ企業向け入札促進施策の認知度
「入札参加資格の特例」 「トライアル発注制度」など、政府がスタートアップの入札参加機会の拡大を促進していることについて「よく知っている」と回答した人は1割に満たず(7.0%)、「あまり知らない」「全く知らない」と回答した人の合計は約7割(69.5%)という結果になりました。
結果10:今後の官公庁の入札への参加意向
今後の官公庁(国・自治体)の「入札」への参加意向について聞いたところ、「全く検討していない・参加しない」と回答した人が42.9%と最も多く、その回答者の内訳としては入札未経験者が9割以上を占めています。一方で「可能性があればどんな案件でも積極的に参加したい」と回答した人のうち7割は入札経験者という結果になりました。
またそれぞれの回答を選択した理由について自由記述式で質問をしたところ、以下の声が寄せられました。
可能性があればどんな案件でも/事業と親和性が高ければ/リソースが確保できれば 参加したい
- 事業拡大のチャンスだから
- よりよい案件の獲得や、事業の安定化が期待できるから
- 落札できれば、回収(入金)の不安は無いし、会社としての信用度も高くなる
- 自社の強みが生かされるなら参加したい
- 資金確保のため
- 社会貢献に繋がるチャンスでもあるため
- 売上を伸ばしたいから
全く検討していない・参加しない
- リソース不足
- 良くわからない
- 同業他社が強力すぎる
- 自社には必要ない
- 縁がない
- 必要性を感じない
結果11:入札の仕組みや制度への興味関心度
入札に関する知識や仕組み・制度についての興味関心度について質問したところ、「関心がある」と回答した人の合計が6割以上(64.8%)を占める結果となりました。
結果12:入札に関してどのような情報がほしいか
より入札市場について興味を持つためにどんな情報が知りたいかについて聞いたところ、半数近く(49.7%)が「政府によるスタートアップ向け入札機会拡大施策の詳細」と回答しました。次いで「スタートアップが入札に参加して成功した事例」も4割超え(44.7%)という結果になりました。
結果13:入札に参加したくなるには?
- 手続きの簡素化
- 補助金制度の拡充や申請をしやすくしてほしい
- 入金を早めてほしい
- 初心者への優遇制度
- 不要な紙での提出
- 事業者登録をしていれば、自動的に入札をしてくれるシステムが有れば良い
- 取り組み方を教えてほしい
うるるによる考察「入札に対する認識変容が必要」
今回の調査を受け、株式会社うるる 取締役 NJSS事業およびGovtech事業管掌役員 渡邉 貴彦氏は次のように考察を述べている。
今回の調査では、約6割(62.0%)が公共入札の仕組みを「理解している」と回答した一方で入札に参加したことのある企業は2割台(27.8%)にとどまることが明らかになりました。また政府がスタートアップの入札参加機会の拡大を促進していることについては約7割(69.5%)が「知らない」と回答しており、このことから、入札に関する仕組みはおおよそ理解しているものの、スタートアップの入札参加機会はまだまだ拡大の余地があることが分かります。
また入札参加経験がないと回答した方にその理由を聞いたところ、「自社とは無縁と思っている」という回答が半数以上(54.4%)でした。この結果から、スタートアップの入札参加機会拡大のためには、そもそも入札に対する認識変容が必要であるといえます。
うるるは、約15年にわたり収集してきた約2,300万件の入札情報を活用し、入札に参加する企業の業務効率化や応札・落札に向けたサポートを行ってきた企業として、政府やさまざまな自治体がスタートアップとの取り組みや支援を強化していることを踏まえ、公共入札参加実績のある企業のみならず、「これから官公庁との取り組みを強化したい」と考えているスタートアップ企業の支えとなることや、またそういった興味関心を促す役割を果たす必要があると感じています。
今回の調査結果から見えてきた課題を真摯に受け止め、入札事業およびGovtech事業運営に活用し、スタートアップの公共入札を積極的に推進してまいります。
引き続き「NJSS」は、「入札に関するあらゆる困りごと」の解決を通じて、中小企業やスタートアップをはじめ、多くの企業の入札マーケットへの参入を後押しし、透明性・競争性・公平性が確保された入札の実施への貢献に努めてまいります。