「全国のスポーツチームのなかでも、湘南ベルマーレフットサルクラブは、社会課題の解決や地方創生、地域活性化にとても注力しているクラブだと自負しています」。
こう話すのは、株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブ 代表取締役社長 佐藤伸也氏だ。同社は株式会社パソナJOB HUBと包括連携協定を2024年12月3日(火)に締結した。この包括連携協定が目指すのは、新しい働き方の創造と地域活性化だという。最初は「テレワーク人材の育成講座」や「ローカルベンチャー起業家育成」に取り組むことを明かした。
なぜ、湘南ベルマーレフットサルクラブがこれらの「働き方を通した地域活性化」に取り組むのか。フットサルという競技の枠を超えた狙いがあると、連携協定の締結にあたっての記者会見で明らかになった。
湘南ベルマーレフットサルクラブが事業計画で掲げた「社会性」
株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブは、日本フットサルリーグ(Fリーグ)に加入する「湘南ベルマーレフットサルクラブ」を運営している。その社名およびクラブ名からわかるように、Jリーグに加入している「湘南ベルマーレ」のブランドを冠しており、Jリーグにも所属する唯一のFリーグクラブだ。活動地域は、神奈川県小田原市を中心とした西湘地域3市8町(小田原市、南足柄市、秦野市、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町、箱根町、真鶴町、湯河原町)。
同社は2022年に事業戦略5ヵ年計画を発表している。そこでは「競技性」「事業性」「社会性」の3つを柱として掲げた。競技性はアジアチャンピオンを目指し、事業性は年間のホームゲームの総来場者数3万人が目標だ。そして今回、パソナJOB HUBと包括連携協定を締結したような、地域活性化などの取り組み指標が「社会性」だ。
同クラブではこれまでも、地域や市民、まちづくり、社会課題の解決に向けて多種多様な取り組みに携わってきた。たとえば、フットサル教室を開催したり、児童養護施設でクラブ所属選手と地域企業を交えたワークショップを実施したりなど、挙げたらキリがないほど豊富な内容の取り組み実績をもつ。また、企業や自治体、行政、教育機関などとの連携数も多い。2024年12月時点でもこうした社会貢献等に関する取り組みは34プロジェクトが動いていると、佐藤氏は話した。
「ことし2024年のなかでとりわけホットな話題は、経済産業省のローカル・ゼブラ企業推進事業に採択されたことです。ゼブラ企業とは、経済成長と社会貢献の二面性を持って地域創生を推進する企業のこと。ひとり勝ちではなく、群れをなして共存共栄を目指します。全国で20のグループが選定されましたが、関東では唯一、そしてスポーツ団体としても唯一、我々(※)が選ばれました。
※ミリョクリエ、湘南ベルマーレフットサルクラブ、湘南ケーブルネットワーク、報徳仕法、みらいワークス、クラブツーリズムの6 社による連合
ベルマーレフットサルクラブはローカル・ゼブラ企業として、社会性と経済成長の両立を追求していきます。今回の連携協定により、この関係性がより強固なものになると考えています」(佐藤氏)
ひとり親家庭向けにフットサル教室等を両社で実施
次に、湘南ベルマーレフットサルクラブと包括連携協定を結んだパソナJOB HUBについて紹介する。
同社はプロフェッショナル人材を活かした経営課題解決支援や、地域企業と複業人材のマッチングをする事業の推進など、地域における新しい働き方の創造や地域活性化に取り組んでいる。そのため、人材という領域において、育成からマッチング、それも専門性の高い人材に特に強みをもつ企業だ。
実は湘南ベルマーレフットサルクラブとパソナグループは包括連携協定を結ぶ以前から関わりをもっていた。直近では、2024年11月に、ひとり親家庭を対象に、親子でできるフットサル教室やトークイベントを実施する「スポーツ選手の夢キャリア教室」を開催した。
このイベントでは、湘南ベルマーレフットサルクラブに在籍する選手と、パソナに所属するアスリートが子どもたち向けにフットサル教室などを開いたのと同時に、保護者の方向けにパソナグループのキャリアコンサルタントによるキャリア相談会を実施した。
家庭状況等による習い事をはじめとする「体験格差」という社会課題の解決と、ひとり親家庭に向けた働き方の支援を、湘南ベルマーレフットサルクラブとパソナJOB HUBで担ったのである。
パソナJOB HUBの代表取締役社長 髙木 元義氏は今回の包括連携協定の締結にあたって次のようにコメントした。
「湘南ベルマーレフットサルクラブの活躍と活動内容は大変すばらしい。今回ご縁があり、ともに活動できることを大変うれしく思います。両社の思いが重なり、小田原をはじめとした県西地域から社会課題を解決していく取り組みとして、加速度的に発展していくことを期待しています」(髙木氏)
包括連携協定について
同クラブとパソナJOB HUBとの包括連携協定の内容をここで紹介する。締結時の2024年12月3日時点では、協定に関する4つの内容と、第1弾の取り組みが発表された。
包括連携協定の内容
- スポーツを通じたまちづくりに関する事項
- 新しい働き方の創造に関する事項
- 地域活性化に関する事項
- その他上記目的達成の為に必要な事項
第1弾での取り組み
- テレワーク人材育成を通した新しい働き方の創造と就業機会の創出
- テレワーク人材の育成講座の実施
- テレワーク人材とテレワーク推進企業とのマッチング交流会の開催
- 自治体との連携による地域課題解決型テレワークの推進 など
- ローカルベンチャー起業家育成を通した地域活性化と社会課題解決
- 起業家育成講座の実施
- ローカルベンチャー起業家と地域企業とのマッチング交流会の開催
- 自治体との連携によるローカルベンチャー推進 など
テレワーク人材の育成をとおして、多様な働き方および就業機会の創出を図る。また、地域資源や魅力等を最大限に活かしたローカルベンチャーの起業家育成等を推進することで、地域や社会の未来を創る「人材育成」に取り組んでいく。これらふたつの取り組みによって、自治体や地域内外の企業、団体との連携も強化し、新たな働き方を実現したいすべての方々が活躍できる環境を整えるとともに、社会課題に積極的に向き合う次世代リーダーを育成する基盤を築いていく。それが今回の包括連携協定で取り組む内容だ。
なぜ「テレワーク支援」なのか
両社の包括連携協定の内容が発表されたものの、とりわけ気になったのは「なぜ、テレワーク支援をするのか」だ。それも、どうして湘南ベルマーレフットサルクラブがテレワーク等を支援するのか。この質問について最初にパソナJOB HUB 加藤遼氏は次のように答えた。
「第1弾の取り組みとして、テレワークを選んだ理由は、働きたいけど働けない方々を支援させていただくことで、地域の活性化につなげられると考えているからです。たとえば、子育てや介護をしているご家庭でも『在宅なら働ける』など、時間や場所にとらわれない働き方を実現するために、まずはテレワークを支援することを選びました」(加藤氏)
実はこのテレワークを選んだ理由は、パソナJOB HUBと湘南ベルマーレフットサルクラブが実施した、ひとり親家庭向けのフットサル教室も大きなきっかけになっていると、佐藤氏が話した。
「ひとり親家庭向けのフットサル教室等のイベントをパソナJOB HUB様と開催した際、お母さんの参加率がどちらかと言えば高かった。シングルマザーやひとり親家庭向けのキャリア支援の必要性などを改めて目の当たりにしたこともあり、その解決策のひとつとして『テレワーク』を支援することにしました」(佐藤氏)
パソナJOB HUBの代表取締役社長 髙木氏からは、この先の展望について語られた。
「たとえば、テレワークを支援することで、家族の時間や自分の時間などをこれまで以上に確保しやすくなるかもしれません。こういったことは、地域や社会貢献につながるひとつになると思っています。もちろん、ひとり親家庭だけでなく、さまざまな方に対し、いろんな働き方やさまざまなスキル、経験を積めるような機会を提供できるようになれば、地域活性化に向けたすばらしい機会になるのではないかと思っています」(髙木氏)
地域課題や社会課題に取り組むこと自体がクラブの成長につながる
最後に、湘南ベルマーレフットサルクラブの佐藤氏が目指す、今回の包括連携協定を通じたビジョンについて語られた。
「いま、スポーツビジネス自体が大きな変革の時期を迎えています。以前のように、広告協賛だけでお金を集めて活動資金に充てるのではなくなってきています。僕ら(スポーツ団体)がいくら盛り上げて、チームが強くて、人を集められたとしても、地域自体が厳しい状況だと全体をとおして盛り上がることが難しい。このような状況のなかで、スポーツビジネスは、地域課題や社会課題に取り組むこと自体がクラブの成長にもつながると感じています。
また、日本だけでなく海外においても、ただ利益を生むだけの企業よりも、道徳性や社会性も高い企業が求められるようになっています。
湘南ベルマーレフットサルクラブも、スポーツビジネスをソーシャルビジネスに変化させている真っ最中です。
今回、パソナJOB HUB様と包括連携協定を締結したことで、パソナJOB HUB様がもつ圧倒的な知見とノウハウによって、僕ら(湘南ベルマーレフットサルクラブ)としてもソーシャルビジネスに関する質が高くなっていくと思います。
パソナJOB HUB様と湘南ベルマーレフットサルクラブが今回の包括連携協定で目指すのは、この小田原市をはじめとする県西地域における“ハブ”になることです。地域内で何か課題に直面したとき、パソナJOB HUBと湘南ベルマーレフットサルクラブにその課題を投げ込んでいただければ、その都度必要な人材や企業、ステークホルダーを集結させて、その解決プロジェクトの旗揚げ役になることを目標にしています」(佐藤氏)