「ゼロリスクはない。何かあれば柔軟に仕組みを変えればいい」と河野太郎デジタル大臣が自治体職員向けに話した理由

河野さん講演
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新しい取り組みをするにあたって、リスクが存在しないものなどない。ただ、わかっていても失敗という見えない不安からブレーキを踏んでしまう。次第にブレーキを踏むことばかり考えるようになり、いつの間にか周囲から取り残されてしまう……。

これは企業間競争において頻繁に言われることのひとつではあるが、日本国内における各種デジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進においても同様のことが言える。

デジタル庁の大臣である河野太郎氏は、これまでの日本国内におけるデジタル化やDXへの流れ、そしてこれからどのような姿勢で向き合うべきか。2024年6月26日(水)から6月28日(金)まで開催していた「自治体・公共Week2024」での基調講演「デジタル改革の現状と今後の方向性」でその考えを明かした。

河野大臣の講演は本稿が2本め。1本めは下記からご覧ください。

目次

「0.007%の誤りがあった」をリスクとみるか、品質が高いと考えるか

「国会で『マイナンバーカードと保険証の紐づけにおいて、誤りがありました。自治体のみなさまにも総点検させてしまい、大変お世話になりました。紐づけにおける誤りはおよそ8,000件ありました』と言ったら、ずいぶん叱られました。

ところが、海外の方とお話すると『日本のITで何か問題が起きたらしいね。8,000件のミスだって? 母数は1億2,000万!?  うまくいかなかったのが全体の0.007%しかないのは、さすが日本。品質がすごい高いな!』と言われたのです」(河野氏)

河野氏が伝えたいのは、決して8,000件のミスには目をつぶってくださいね、ではない。日本と海外における考え方の違いだけだ。恐れるべきは失敗することでもない。河野氏は「完璧な状態になるまでやってはいけないとなると、いろいろなことに踏み込めなくなる」という状況への危惧を伝えたのだ。

何事も失敗する確率はゼロが理想であり、0.0001%でも失敗の可能性があればそれはリスクがある。とくに人命にかかわるものなど、リスクが許されないものがあることも承知している。くわえて、失敗する可能性を孕んでいることをヨシとしているわけではない。

ただ、うまくいかない場合があったとしても、使い方次第で大きな可能性やメリットを秘めている場合もある。そうして得られた「可能性」「メリット」を求める人もいる。うまくいかないことがあれば、どうすればうまくいくのかを考えたほうが良い――。

河野氏は続けて「自動運転」を例に挙げた。

発生する可能性が著しく低いリスク どこまで加味するべきか

これは河野氏が以前、日本でも使われようとしている自動運転向けの自動車を作る企業の社長と会った時の話だ。

「その社長いわく『この車はあっちの街にも、こっちの街にも出荷している。日本にも出しているけど、日本だけ地上20センチ程度までに存在している物体を認識できる“特殊なセンサー”をつける必要があると言われたんだ。だから日本だけ特殊仕様だし、値段もあがってしまうんだ』と。

センサーをつけないといけない理由を国交省の人に聞いてみたら、『道路に酔っぱらって寝ている人がいたら危ないから』と言われたのです」(河野氏)

「道端で寝転んでいる人がいたら危ない。そういう人を避けられる仕様は重要」としつつも、自動運転を実装させたい目的は過疎地域における移動手段の確保だ。河野氏は「別に新宿の歌舞伎町で自動運転車をすぐに動かすわけではない。過疎化などの影響で路線バス等の公共交通機関が減ってしまっている場所に、移動の代替手段として整備を進めたい」と続けた。

繰り返すが、決して道端で酔っ払って寝ている人を一切考慮しないわけではない。新しい技術・テクノロジーによって生み出された取り組みを本当に必要とする人が大勢いるにもかかわらず、すぐさまブレーキを踏んだり過剰な仕様追加によって実装が遅れたりすることで、求めている人たちに何も届けられない状況への警鐘を鳴らしているだけだ。

「酔っぱらって寝ている人が道端にいたらどうしよう、ではなくて、心配するべきことはほかにもある」(同氏)

事実、自動運転によるモビリティ、そして輸送は過疎が進む地域において需要があることに間違いない。これは買い物弱者や買い物難民と呼ばれる人はこれからも増えていくと考えられているからだ。高齢者が増え、過疎地域も増えるこの状況において、どのように社会課題に向き合っていくべきかは多くの自治体や行政が避けては通れない道となる。

システムを提供するのがデジタル庁 使い倒すのが自治体の役割

さて、ここからはもう少し自治体側での運営にそった話をレポートしていく。この話は、東京都副知事の宮坂氏の話と若干似ている部分がある。

「バックオフィス部分は、国がこれからリーダーシップを執ってまとめていきます。仕事の流れもまとめていきます。

たとえば、デジタル庁では現在、全国に1,700以上ある自治体すべてが使える、システムの共通化を図っています。新しい手当(補助金、給付金など)が仮に始まったとき、イチからシステムを個別に作りこむ必要がなくなります。といいますか、これをもう続けていくのは現実的ではありません。それであれば、デジタル庁がシステムを提供しますから、自治体のみなさまには使ってもらうだけでいい。

これからはシステムなどを作りこむ必要はありません。自治体のみなさまは、どんどん使い倒してもらう段階です。

注力してもらいたいのは『我が町でどういった政策を進めるのか』を考えるところです。バックオフィスの部分は我々(デジタル庁や国)に任せてもらい、必要な行政、ニーズのある場所に人を充てて施策を推進してほしいです」(河野氏)

宮坂氏も話していたことだが、同じようなものに対してすべての自治体が同じ作業をする必要はない。基幹となる部分は今回の話でいえばデジタル庁が用意し、ほかの地域は具体的な施策の考案に注力してもらう。そのほうが圧倒的に“こと”が進む速度は上昇し、結果的に市民へのサービスも豊かになる。

なお、デジタル庁の大臣である河野氏として、すべての自治体に対して注意喚起した発言もあったのでここに記しておく。

「すべての自治体をサイバー攻撃から守り切れるかといえば、厳しいものがあるとは思っています。ただ、ニュースになっているような大きなサイバー攻撃の8割程度は単にIDやパスワードが流出してしまった。もしくは、パスワードが『111111』『123456』『asdf1234』など単純なものであるケースだと聞いています。

自治体のみなさまにおかれましては、まず自身の、そして周りの、自治体全体のIDとパスワードの管理を徹底していただきたいと考えています。二段階認証をきちんと設定いただくだけでも、大半のサイバー攻撃を防げると思われます」(同氏)

必要なのは「失敗した時は『ごめんなさい』と言って、いろんなことを変えていく精神」

河野氏は本講演のなかで、自治体の職員の方に対してのメッセージを出していた。

「ゼロリスクというものはない。何かあったら、そこは柔軟に仕組みを変えていくこと自体を日本の社会の中に取り入れる。『まずやってみようよ』とやってみて、『問題があったら変えていこう』ということを、行政の中でも積極的にやらなきゃいけないのだと思います。

これまで我が国では『行政は間違わない』という建前でいろんなことをやっていました。

しかし、行政が間違わないなんていうことはあるはずがありません。行政だって間違えるし、やってみたらこういうやり方よりももっといいやり方の方があったよね、ということは自治体で行政に携わっている方は頻繁に経験をされていると思います。

だから行政が間違えないんじゃなくて、行政は試してみるけども、これはちょっと別のやり方があるね。あるいはここを改善した方がいいよねと。

ですので、なにか失敗があった時には『ごめんなさい』と言って、いろんなことを変えさせていただく。今後はこのような精神や考え方が必要になってくるのではないでしょうか」(同氏)

念のため記載するが、これは決して「ミスありきで行動する」のではなく、新たな領域に足を運ぶことになるデジタル化やDXの時代において、取り組みながら完成形を目指すという行動指針でもある。とくに、少子化や高齢化、そして過疎化など早急に対応する必要があるものは山ほどあるため、完璧な状態を待っているほどの余裕はないという意味、そして期待も込められている。

実際、河野氏がこのメッセージを投げた際、講演を聞いていた自治体の職員の方が頷く姿は少なくなかった。

また、これは宮坂氏の講演でも出た話だが、河野氏も「AIなどの新しい技術を使った取り組みで、良かったものはどんどん共有してほしい」と伝えていた。くわえて最後には「スピーチ原稿をchatGPTで書かせた、というような誰でも思いつくような運用ではなく、業務をどのように変革させられたのか。何に使ってどうチャレンジしているのかを共有してほしい」と冗談を交えながら話した。

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シクチョーソンでは、デジタル庁 河野太郎大臣の講演をはじめ、「自治体・公共Week2024」で実施された各種セミナーや出展ブースのレポートなどを公開中。気になる取り組み、参考にしたいサービスなどを紹介しているのであわせてチェックしてください。

自治体・公共Week2024 レポート記事一覧

展示会概要
展示会名自治体・公共Week2024
会期:2024年6月26日(水)~2024年6月28日(金)
会場:東京ビッグサイト 西展示棟
※本展は業界関係者のための商談展です。一般の方はご入場できません。

河野さん講演

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