アセンブラ合同会社は、現実空間のデータを仮想空間に即時かつ連続的に同期・更新する技術の特許を取得した。これにより、仮想空間にいるユーザーが、リアルタイムで現実空間の人々と交流したり、まるで実際にその場にいるかのような観光体験を味わうことが可能となる。
今回の技術革新は、仮想空間から現実空間にアクセスするこれまでの常識を覆すものであり、観光、福祉、教育、ビジネスなど、多様な分野での活用が期待されている。
仮想空間にいながら“リアルの人”と出会える仕組み
一般的なデジタルツイン技術では、仮想空間に再現された建物や風景を訪れることはできるが、その空間に今いる“人”との交流は難しかった。従来の仮想体験は、あくまで過去の情報や構築済みの世界にとどまっていた。
これに対し、今回の特許技術では、現実空間の位置情報や人物情報をリアルタイムに特定・更新し、仮想空間に反映することが可能となった。ARグラスなどの装置を活用し、現地の人が注目している対象に絞って3D情報を取得することで、大量データの送信負荷を軽減しつつ、リアルな体験を実現している。
ケアファームから広がる“誰もが旅できる世界”へ
この技術が生まれた背景には、高齢者や障がい者の「旅したい」という願いがある。アセンブラ合同会社は2020年に、日本型ケアファームをモデルとした高齢者住宅を運営する都市緑地株式会社を設立。農業と福祉を掛け合わせた取り組みを通じて、移動が困難な人々の生活の質向上を目指してきた。
今回の技術は、そうした方々が遠方や海外の農園、観光地を仮想空間から訪れ、現地の人と会話を交わし、土産物まで購入できるという、これまでにない“体験型バーチャルトラベル”を可能にする。
たとえば、北半球の春のガーデンと南半球の秋の農園を1日のうちにめぐったり、先進国のスマート農園からグローバルサウスの未整備農地まで、多様なリアルを見て回ることができる。そこにあるのは、単なる視覚体験ではなく、「今、この場所に人がいる」という“生きた世界”との接続である。
リモートワークや地域振興にも期待
観光や福祉の枠を超え、リモートワーク分野でも活用が見込まれている。仮想空間上のバーチャルオフィスではなく、現実のオフィス空間にアバターが“出社”し、リアルオフィスワーカーと一緒に会議を行う――そんな未来が現実となりつつある。
また、地方の観光地や生産現場をリアルタイムで“訪問”できる体験が普及すれば、観光振興や農村交流といった地域活性化への新たな起爆剤にもなり得る。
技術と人をつなぐ、社会実装に向けた展望
今回の特許技術(特許第7646116号)によって、単なる仮想体験ではなく、「現実の延長線上にある仮想空間」が実現されようとしている。高齢者や障がい者が“あきらめずに旅をする”未来、地域が世界とリアルにつながる未来が、確かに動き始めた。
アセンブラ合同会社は今後も、福祉、観光、働き方といった分野において、本技術の社会実装を進める方針だ。
この技術がもたらすのは、単なるテクノロジーの進化ではなく、人と場所、人と人をつなぎなおす“新しい交流のかたち”なのかもしれない。