「北三陸より、世界の海を豊かにする」というコーポレート・ミッションを掲げる株式会社北三陸ファクトリーと、持続可能な社会の実現を目指すヤンマーホールディングス株式会社は、2025年4月1日より「ウニの大規模陸上養殖システム」の実証事業を開始する。
この取り組みは、2024年10月に総額9.2億円で採択された農林水産省「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)」の支援を受けて実施されるもので、国内外に展開可能な「ウニの短期陸上養殖技術」の確立を目指す。
岩手県洋野町に大規模施設を建設、「UNI-VERSE systems®」を実証
実証の舞台となるのは、岩手県洋野町に建設される大規模陸上養殖施設。ここでは、北三陸ファクトリーが開発したウニの短期実入り改善システム「UNI-VERSE systems®」が導入される。
この技術は、従来駆除・廃棄されていた“痩せウニ”を採捕し、ウニ専用の生簀で短期間の給餌を行うことで、実入りや色、品質を大幅に改善するもの。開発には北海道大学大学院水産科学研究院の浦和寛准教授らと7年以上の歳月をかけて取り組み、天然ウニと遜色ない品質を実現している。
ウニ用飼料「はぐくむたね®」や独自構造の生簀・水槽といった要素技術はすべて北三陸ファクトリーの特許技術であり、これにより秋冬といった本来流通が少ない時期にも安定した供給が可能となる。
ヤンマーHDの養殖技術で飼育環境の最適化へ
このプロジェクトには、ヤンマーグループが長年培ってきた養殖関連技術も大きく関与する。いけすや水槽洗浄機などの設備、そして流体解析や自動洗浄技術を駆使し、飼育環境の制御を最適化。北三陸ファクトリーの「UNI-VERSE systems®」との融合により、高品質なウニの安定生産と輸出を視野に入れた実証が行われる。
養殖水槽は2025年春に着工し、同年秋の竣工を予定している。
世界規模の課題「磯焼け」解決への一手
日本沿岸では、海藻が減少し岩礁がむき出しになる「磯焼け」が深刻な問題となっており、その影響で十分に育たない“痩せウニ”の増加が漁業に打撃を与えている。
北三陸ファクトリーはこうした社会課題に対し、「再生養殖」という新たなアプローチを提示。天然資源を持続的に活用しながら、環境保全と経済的利益を両立させるモデルの確立を目指している。
輸出市場を視野に入れたグローバル展開へ
再生養殖されたウニは、日本国内のみならずEU、アメリカ、ドバイ、タイなど世界各国への輸出を計画。すでに中東最大級の食品展示会「Gulfood」へ出展を果たし、国内初のウニによるEU HACCPも取得済みだ。
2025年にはバルセロナ、ボストン、ドバイ、バンコクといった世界四大水産展示会への出展も予定しており、世界市場に向けた商流の構築を本格化させる。
地方から始まる「海の再生」への挑戦
北三陸ファクトリーとヤンマーHDが共に描くのは、「環境保全」と「食の未来」が共存する社会の姿だ。地方の海から始まるウニの再生養殖は、地域資源の利活用による産業創出の新たなモデルとしても期待される。
海の未来を変えるこの挑戦が、やがて世界の海を豊かにする一歩となるかもしれない。