長野県白馬村でグランピングとサウナを掛け合わせた宿泊施設「From P」を運営する有限会社ぴー坊が、4月20日に7棟目となるサウナ部屋を新たにオープンした。企業の後継者不足が深刻ななか、創業38年の家族経営ペンションを継いだ三代目が、新たな地域の魅力を発信する施設づくりで注目を集めている。
長野県宿泊業界の課題:後継者不足とコロナ禍
帝国データバンクによると、長野県企業の後継者不在率は54.1%にのぼる。特に旅館・ホテル業界では、約3割が「事業承継が進んでいない」と回答し、1割は「廃業を検討している」とも言われている。高齢化が進む一方で、若者は都市部に進学・就職する傾向が強く、地方の宿泊業は構造的な後継者難に直面している。
ペンション経営からグランピング・サウナ事業へ転換
そんな中、白馬村出身の大塚栄青氏は、地元にUターンして父が営んでいたペンション「ぴー坊」を2019年に事業承継。しかし、直後のコロナ禍により白馬村の観光客は激減し、宿泊業は存続の危機に直面した。
「白馬村のために自分に何ができるのか」。そう模索するなか、仲間と体験した移動式サウナに感動を覚え、2021年に金融機関からの資金調達を経て、敷地内のテニスコート跡地を活用したグランピング・サウナ施設「From P」を開業。以降3年間で売上は10倍にまで成長した。
この成長の背景には、第3次サウナブームによる“サ活”人気と、“サ旅”という全国サウナ巡りの新しい旅のスタイルの定着がある。20〜30代前半のカップルを中心に、「記念日に泊まる特別な場所」として選ばれている。
「白馬に戻りたい」と思える地域へ
4月20日には、日帰り専用サウナ2棟と宿泊専用サウナ5棟に加え、新たな7棟目のサウナ部屋がオープン。今後も地域と連携しながら、宿泊業の新たなモデルづくりを進めていく方針だ。
大塚代表の父・大塚善弘氏は「旅館業の厳しさを知るほど、子どもは別の道を選びやすい。引き継ぐ選択をしてくれたことは業界にとって希望だ」と語る。
また、三代目である栄青氏は「宿泊業は厳しいが、新しい挑戦ができる仕事でもある。地域の仲間と支え合いながら、白馬ならではの魅力を発信していきたい」と意気込みを語る。