地方創生やスマートシティそしてSDGsの枠組みのなかで、「地域循環共生圏」という言葉があります。
これは主に環境省が提唱しているもので、各地域において社会や経済、そして環境などの課題を解決していく考え方および概念です。
地域ごとにある自然資源(海や山、土地、生物など)や、社会資源(インフラや設備、企業、組織など)を連携し循環させながら、最終的には生活の質を高めて地域が“自立しながら持続的な成長をすること”を目指した考え方です。
地域にあった持続可能な社会を目指す観点から「ローカルSDGs」とも呼ばれます。この記事ではローカルSDGsである地域循環共生圏について紹介します。
地域循環共生圏の目的とは
環境省が2021年に発表した「地域循環共生圏創造の手引き」によれば、地域循環共生圏とは以下の内容であるとしています。
自分たちの足元にある地域資源を活用し、環境・経済・社会を良くしていくビジネスや事業といった形で社会の仕組みに組み込むとともに、例えば都市と農村のように地域の個性を活かして地域同士で支え合うネットワークを形成していくという、「自立・分散型社会」を示す考え方
地域循環共生圏の特徴は、足元の資源に価値を見出し、採算性を伴った事業を展開して、環境・経済・社会の各課題を同時に解決を目指す点です。
たとえば、再生可能エネルギーを活用した発電や熱利用は、化石資源の代替と長距離輸送の削減によって脱炭素・省資源を実現します。そして地域雇用の創出や災害時のエネルギー確保による「回復力」「復帰力」「耐久力」の強化につながり、経済や社会的な効用を生み出します。さらにこれが間伐や里山整備で生じた木質バイオマスの活用であれば、健全な森林の維持・管理にも貢献することにつながり、豊かな自然の恵み(生態系サービス)を享受することにもつながるのです。
地方創生や移住者の増加を狙うためには、生活インフラの整備が必要です。そのなかでも、就業先、雇用創出は最も重要な観点と言われているため、地域循環共生圏の取り組みの先にある事業の創出は大きなポイントです。
自然資源の活用は多岐にわたる
地域ごとに存在する自然資源、たとえば森や山、川、海などは、エネルギー資源だけでなく、農林水産業や観光業としても有効な活用ができます。
とくに、これらの環境は地域ごとの特色を出しやすく、地域産業の活性化やブランド化を実現できれば、全国からも多くの人に注目してもらえる可能性も秘めています。つまりは、地方創生につながり、関係人口の増加などにも貢献できる分野です。
また、農産、水産業においては、都心への共有源とされているケースも多く、物価高騰や円安の影響から国内生産品への注目度が増す可能性もあるため、活用の幅は今後どんどん広がっていくともされています。
エネルギーなども生産品と同様で、都市部をはじめ全国へ展開できるものです。もちろん輸送コストなどは発生するものの、地方から都市圏などに提供し、都市圏からは人材や技術を常に動員するといった相互作用を生み出せるともしています。
企業として取り組む価値 ESG経営・投資
企業側の観点でも、地域循環共生圏をはじめとする環境問題に取り組む姿勢は評価されています。
そのなかでもESGと呼ばれる持続可能な世界を実現するための言葉を中心に、融資や投資活動が盛んです。ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」それぞれの頭文字を合わせてできた言葉です。
世界に目を向けてもESG投資は活発で、2018年における世界のESG投資は3100兆円で、全世界における投資額の3分の1を占めているそうです。
従来、融資や投資はキャッシュフローや利益率など財務状況をもとに判断されてきました。しかし、昨今の気象変動や労働問題、環境問題、情報漏洩など、企業自体の持続可能性を問われる状況もあったことから、これらのリスクではないESGという新たな分野で考慮する投資家たちが増えているのです。
ESG投資がさらに盛んになれば、企業ごとに環境などに対する取り組みが今以上に活発になります。事業としての取り組みや収益は当然経済を回していくことで重要なのは変わりませんが、このような社会問題への取り組みや状況も企業運営をするうえで大切な要素になっていくのです。結果的に社会問題の解決にもつながるので、住民としてもありがたいことです。
地域循環共生圏を構成するために重要なこと
環境省では、地域循環共生圏を構成するためには、まず「地域プラットフォーム」を作ることを推奨しています。
地域プラットフォームとは、さまざまな企業や団体、人が参画し、協働しながら共生圏づくりに取り組む体制や場を指しています。地域“循環”と銘打っていることもあり、ひとつの企業や団体での活動ではなく、地域全体を巻き込んでの取り組みになるため、このような場を設けることが重要だとしています。
プラットフォームの形成において、必ず主体となるポジションが必要になります。環境省は自治体、民間団体、協議会がそれぞれ主体になった場合のメリットと注意点をまとめています。具体的にはそれぞれ以下です。
自治体が主体となる場合
メリット
・行政の信用力、公平性、公共性を活かせるため、多様な主体を巻き込みやすい
・地域コーディネーターを行政職員が担うことから、コーディネーターの人件費を新たに確保しなくてよい
・自治体の総合計画等の上位計画に、ビジョンや取組みを位置づけやすい
注意点
・行政担当者の異動があり、担当者の熱意・技術に左右される場合がある(民間の主体性を引き出す、異動に備えて行政が複数人で担当するなど工夫している事例あり)
・行政担当者が組織内の縦割りを超えられない場合、ビジョンや取り組みが分野限定的なものとなる場合がある
民間団体が主体となる場合
メリット
・NPO、地域商社、DMO などの中間支援的な役割をもつ民間団体が運営主体となる
・ビジネスに結び付けることや、採算性を確保した事業計画づくりが得意
・取組の展開や意思決定について、スピード感がある
注意点
・行政との連携が不十分だと、信用力や公平性が不足し、多様な主体を巻き込むことができない場合がある
・組織の設立目的によっては、取り組める領域(エリア、分野)に限りがあり、地域全体のビジョンや取り組みを担うことができない場合がある
協議会が主体となる場合
メリット
・既存の協議会や新規に立ち上げる協議会等の組織体が運営主体となる
・行政と民間の共同体として動くので、取組の公益性、公平性のバランスをとりやすい
・既存の協議会等がプラットフォームのベースとなる場合、プラットフォーム立ち上げまでの仲間集めなどをある程度省力化でき、速やかに具体の取組に移行できる
注意点
・協議会の規約や理念に合致しないと、取組に制限が生じる場合がある(特に、既存の協議会を活用する場合)
・意思決定の役割を担う人々の考え方や判断が優先されやすい(特に、SDGs事業の立ち上げについては、主体的に事業を担う人の意思が何よりも重要)
・これまでの人的ネットワークが優先され、人材発掘の機会が狭まる場合がある
いずれの場合でも一長一短な部分は当然存在しています。ただ、注意点となる部分は事前に解消できることも多く、また、気にするべきは運営上のハードルではなく本質である地域循環共生圏を創造できるかどうかです。
方法論などは異なったとしても、目指す目的が共通していれば、その地域にとってかけがえのないものを生み出せるはずです。
地域循環共生圏の創造には、文字通り多種多様な人、業種、職種が協力して取り組む必要があります。また、異業種の意見からこれまで気が付かなかった課題や、解決策が導けることも少なくないようです。
運営主体でつまずくことがないように、自分事としてリーダーシップを発揮することがまずは大事なのです。
まだまだ成功例は少ないものの、社会課題を解決するにあたっては地域循環共生圏の創造は大きな一手になります。