スマートシティやスーパーシティ、地方創生、まちおこしなど、地域や地方を活発にする取り組みが盛んです。
同様のキーワードとして「地域活性化」というトピックがあります。最終的な目標や目的はほかのトピックと近しく、日本という国全体レベルでの社会課題の解決です。ただ、地域活性化は、どちらかというとその地域の住民による関わりを求められる機会が多いという認識です。
本記事では地域活性化について解説します。
地域活性化とは
地域活性化とは、国内の各地域の経済や社会、産業、伝統、文化などを活性化させたり、地域住民の方々の各種活動意欲を向上させたりすることです。
地域活性化の意味合いとしては、スマートシティやスーパーシティなどに比べ、「まちおこし」に近しい分野です。
たとえば、スマートシティの取り組みは国や行政、コンサルティング企業や各種ITベンダーが主体となって取り組み、地域それぞれのもつ課題解決のためにソリューションを提供したり、枠組みを考案し実行したりするケースが多いです。この一連の流れのなかで、地域住民にフィットするか、満足してくれるかなどのすり合わせをして取り組んでいきます。
一方で地域活性化は、上述のスマートシティのケースと同じく最初は行政や企業が舵を取るものの、最終的にはその地域の住民の方々による取り組みが必要になります。もっと嚙み砕いて言えば、スマートシティの取り組みは地域や街という“場所・環境”に対してのアプローチで、地域活性化はそこに住む人々に向けた取り組みでもあります。
また、地域活性化の特長のひとつとして、“伝統”や“文化”の活性化も含まれています。地域特有の産業や催しなどをプロモーションすることで、地域の盛り上げや他地域からの集客(=観光)、移住へとステップアップしていくのです。
つまりは、地域活性化を目指すのであれば、地域住民の方々による施策受け入れはもちろんのこと、地域の方に「手伝ってもらう」「協力してもらう」だけでなく、その地域に住む方々が最終的には「中心人物」になって動いてもらえる状態を作る必要があります。
地域活性化が必要とされる理由 地域活性化が解決するべき課題と目的
地域活性化の目的は、スマートシティの取り組みなどと概ね同じです。
まず挙げるのは、首都圏人口一極集中の是正です。
首都圏・・・とくに東京への人口集中は著しく、2018年に総務省が公表した内容によれば、東京および埼玉・千葉・神奈川の「東京圏」の転出者は35.5万人に対し、転入者は49.1万人で、転入超過数は13.6万人いたとされています。
わかりやすくすると、東京圏では毎年のように沖縄県沖縄市の人口がまるっと増えている、というイメージです。
※沖縄市の人口はおよそ14万人
人口が一極集中することによる主なデメリットは以下です。
・首都圏への大規模災害時に国の機能が麻痺する
・税収や雇用環境、インフラ整備に格差が生まれる
・衰退していく地域が増加する可能性がある
国の機能が麻痺するという点は文字通りそのままなので割愛しますが、税収などによる格差はとても大きな問題です。
税収・・・言い換えれば自治体などの運営資金に差が生まれることは、地域と首都圏での生活レベルなどでの格差が生じるという意味です。首都圏では潤沢な税収によってさまざまな行政サービスが住民に提供されるものの、ほかの地域では同様のサービスはうけられない・存在しないという話になります。これが突き進むと、より東京圏への一極集中が増すだけで、東京圏以外の地域にとっては悪循環といえます。
また、東京圏以外の地域の人口が減り続けると、独自の文化や産業、そしてその地域そのものが衰退していくことに繋がります。行政サービスの円滑な提供や各種インフラの整備など、ポジティブな理由が満載の自治体統廃合であればまだ住民への理解も深められる可能性はあるものの、いわゆる“地域が消滅する”といったネガティブな話になりかねないのです。
これらの地域と東京圏の“差”が主な課題であり、この課題を解決するために地域活性化といった取り組みが進められているのです。
地域活性化の事例
地域活性化にはいくつか事例がすでに存在しているなかで、環境や文化、新たな事業、教育の3つの観点から各自治体での事例をそれぞれ紹介します。
青森県田舎館村 / 田んぼアート
田んぼアートとは、田んぼをキャンバスに見立て、色の異なる稲を絵の具代わりに巨大な絵を描きます。
取り組み自体は1993年からスタートしていますが、昨今の地域活性化や地方創生などのトピックが話題になったことで急激に注目を再び集めている取り組みです。
田舎館村の人口は8,000人弱であるものの、田んぼアートの鑑賞のため全国から毎年30万人以上が観光に訪れるようになっているとのこと。また、現在では「全国田んぼアートサミット」なども開催されており、多岐にわたる展開になっています。
岩手県陸前高田市 / 高田民泊
2011年の東日本大震災で多くのものを失い取り戻せないものもありますが、そこには命ある限り前向きに生きている人たちがいます。新しい陸前高田へ、0からのまちづくりが行われています。
岩手県陸前高田市は、りんごやゆずなどの農産物や、ワカメやホタテといった海産物が特産にある“半農半漁”の地域です。この地域では民泊事業が営まれており、全国の修学旅行先などとして選ばれるケースが増えています。
民泊とは、民宿やホテルとは異なり、一般家庭の家に数日間泊まることです。旅行に来たお客様ではなく、その家の家族の一員として暮らしや生活をともにします。
陸前高田の民泊修学旅行は2016年ごろに町の方から「民泊をやりたい」といった声が挙がったことからスタート。徐々に受け入れる人数も増えていき、2019年には東北地区最大規模の民泊受け入れ地域になりました。
民泊では“暮らし体験”として周辺地域の散策や、農業体験、郷土料理作りをしたり、震災について学べる時間もあったりするなど、「陸前高田ならでは」の催しで構成されています。
島根県海士町など / 島留学
3つ目に紹介するのは、教育という観点からまちおこし、地域活性化を根付かせた「島留学」です。島留学は、地域活性化やまちおこし、地方創生に関する媒体や書籍、番組などで何度も取り上げられているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
廃校寸前だった高校を数々の施策で盛り立て、いまでは全国から生徒が集まる人気校になりました。いわゆる“島にある学校”にもかかわらず、全校生徒の半数ちかくが島外出身。地元の島内生と島外生が交わり、多種多様な文化や価値観、そして人生観を養っていきます。
海士町では学生向けだけでなく、“大人向け”の島留学も実施中。島に観光にいって楽しむというより、実際の暮らしを体験できる施策で、生きる上で大事な働き方を経験できます。
地域活性化を成功させるためのポイント
まず、地域活性化はすぐに効果が現れづらいプロジェクトです。そのため、中長期的な計画が最初に必要です。
そして、本稿でも記載していますが「住民が主体となって取り組む」ことが必要です。つまりは、先端テクノロジーを大量に使えば地域が活性化するわけではありません。目的は地域特有の環境や文化、伝統などから住民が中心となって動き、人や企業などが集まっていく状態を作ることです。
そのため、地域の資源や特徴を活かす、という点も大きな要素を占めています。事例に掲載している3種はとくにわかりやすい例かと思います。
成功事例のほとんど(というかすべて)に共通するのは、その住民が楽しそうに取り組んでいることです。当然、持続可能なものである以上、事前活動ではないので関わる人への収入や見返りも必要になります。もっと言えば、地域活性化が各地域で事業となり、そこで雇用がうまれ、経済がまわる状態が最終的なゴールのひとつです。
成功例はまだまだごくわずかです。現在は取り組んでいる真っ最中だったり、失敗を積み重ねていたりする自治体がほとんどです。国や企業側の人たちが各地域で活性化に取り組んでいる人たちの気持ちが折れないように下支えする仕組みを提供できるようになれば、全体として活性化されていくのではと考えています。