地方創生やまちおこし、スマートシティ、スーパーシティなどは国が主体となり、さまざまな政策や制度を打ち出しています。
関係する省庁もさまざまで、総務省や経済産業省、環境省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、文部科学省をはじめ、多くの人が地域活性化に向けて取り組んでいます。
そのなかで、デジタルの技術を使って、「心ゆたかな暮らし」「持続可能な環境・社会・経済」を創ろうとする動きがデジタル庁による「デジタル田園都市国家構想」です。この記事では、デジタル田園都市国家構想について紹介します。
デジタル田園都市国家構想とは
デジタル田園都市国家構想とは、「心ゆたかな暮らし」(Well-Being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)を実現していく構想です。目指すのは、地域の豊かさをそのままに、都市と同じもしくは異なる利便性や魅力をもった、新たな地域づくりをすることです。
デジタルの技術を使い、暮らしや産業などの領域で、新たなサービスや共助のビジネスモデルを生み出し、デジタルの恩恵を地域の住民に届けていく構想です。例に挙げられているのは以下の5項目です。
- 住む
デジタル人材の止まり木となる住宅 - 働く
スタートアップ育成につながる社会起業家が集まる場
企業とコラボした質の高いワークプレイス - 学び
大学等におけるグローバル水準の教育 - 交流
地域に開放された公共施設
来訪者と地域住民をつなぐ公園(防災対応) - 遊び
イベントで地域住民の参加機会の創出(農業、漁業)
デジタル田園都市国家構想の取り組み方針
デジタルの力を活用した地方の社会課題解決に向けて、4つの点に重点をおき、分野横断的な支援を通じて地方の取り組みを推進します。
KPIとして、3つの項目が設けられています。
- 地方公共団体1,000団体が2024年度末までにデジタル実装に取り組む
- 2024年度末までにサテライトオフィス等を地方公共団体1,000団体に設置
- 地域づくり。まちづくりを推進するハブとなる経営人材を国内100地域に展開
4つの点と、それぞれの点における主な施策は以下の内容です。
地方に仕事をつくる
地方のイノベーションを生む多様な人材・知・産業の集積を促し、自らの力で稼ぐ地域を作り出します。
スタートアップ・エコシステムの確立
ベンチャー投資や社会的投資の拡充・強化、大学・高専等との連携等を推進します。
中小・中堅企業DX
中小企業等のDXの伴走型支援、キャッシュレス決済、シェアリングエコノミー等を推進します。
スマート農林水産業・食品産業
農業機械等の遠隔操作、農作業の軽労化、食品産業との連携強化等を推進します。
観光DX
観光アプリの活用、決済データを活用したマーケティングへの支援等を推進します。
地方大学を核としたイノベーション創出
地方大学を核とした産官学連携、オープンイノベーションの促進等を推進します。
人の流れをつくる
都会から地方への人の流れを生み出し、地方から流出しようとする人を食い止め、にぎわいの創出や地域を支える担い手の確保を図ります。
「転職なき移住」の推進など地方への人材の還流
地方創生に資するテレワークの推進、企業版ふるさと納税等を活用したサテライトオフィスの整備等を推進します。
関係人口の創出・拡大、二地域居住等の推進
オンライン関係人口の創出・拡大、地方への移住・就業に対する支援、二地域居住等を推進します。
地方大学・高校の魅力向上
地方大学の振興、地方へのサテライトキャンパスの設置、産学官の連携による地域産業の振興・雇用の創出、高校の機能強化等を推進します。
女性に選ばれる地域づくり
女性活躍に向けた意識改革や働きかけ、女性の起業支援などの取組の横展開等を推進します。
結婚・出産・子育ての希望をかなえる
結婚・出産・子育てがしやすい地域づくり、若い女性を含め働きやすい環境づくりを進めます。
デジタル技術を活用した子育て支援等の推進
オンラインによる母子の健康相談、母子健康手帳アプリの拡大など、対面では手が届きにくい取組をデジタル技術の活用促進によって支援します。
結婚・出産・子育てへの支援
新生活への経済的支援を含む結婚支援、ライフステージに応じた総合的な少子化対策等を推進します。
仕事と子育て・介護が両立できる環境整備
育児・介護休暇の取得促進等を推進します。
魅力的な地域をつくる
地方で暮らすことに対する不安を解消し、暮らしやすく、魅力あふれる地域づくりを進めます。
質の高い教育、医療サービスの提供
GIGAスクール・遠隔教育(教育DX)、遠隔医療の更なる活用等を推進します。
公共交通・物流・インフラ分野のDXによる地域活性化
MaaS・自動運転などの公共交通分野のデジタル化、ドローンを用いた物流サービス、インフラ分野のDX等を推進します。
まちづくりDX
3D都市モデル整備・活用、イノベーションを創発する魅力的な空間・拠点づくり等を推進します。
地域資源を活かした個性あふれる地域づくり
中山間地域の活性化、脱炭素・エネルギーの地産地消、デジタルの活用による文化・芸術・スポーツ等の振興を推進します。
防災・減災、国土強靱化等による安心・安全な地域づくり
デジタルの活用による防災・減災対策を推進します。
地域コミュニティ機能の維持・強化
デジタルの活用による高齢者の見守り、社会教育施設の活用促進など、地域コミュニティを補完する取組を推進します。
構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備
また、デジタルの力を導入し、まちづくりを進めるにあたっては環境の整備が必要です。デジタル田園都市国家構想では5項目に分けて各種整備を進めています。
達成に向けたKPIは以下です。
- 2027年度末までに光ファイバーの世帯カバー率99.9%を目指す
- 5Gの人口カバー率が2023年度末には全国95%、2025年度末には97%、2030年度末までに99%を目指す
- 全国各地で十数か所の地方データセンター拠点を5年程度で整備する
- 日本を周回する海底ケーブルを2025年末までに完成させる
デジタル基盤の整備に関する5項目と主な施策は以下のとおり。
デジタルインフラの整備
総務省「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」に基づき、光ファイバ、5G等の通信インフラの整備を地方ニーズに即してスピード感をもって推進します。
光ファイバ
不採算地域や条件不利地域等を含め、全国的な光ファイバ網の整備を推進します。
データセンター/海底ケーブル等
地方データセンター拠点や日本周回ケーブルの整備、陸揚局の地方分散等を推進します。
5G
新たな周波数を割り当て、基地局開設の責務の創設など5G網の整備を推進します。
Beyond 5G
通信インフラの超高速化・省電力化等を実現する技術の研究開発を加速します。
マイナンバーカードの普及促進・利活用拡大
安全・安心で利便性の高いデジタル社会をできる限り早期に実現する観点から、マイナンバーカードの普及推進、利活用拡大を図ります。
マイナンバーカードの利活用拡大
健康保険証としての利用の推進、公金受取口座の登録、運転免許証や在留カードとの一体化等を進めます。
オンライン市役所サービス
引越手続のワンストップ化、子育て・介護等の31手続のオンライン化、行政機関から各市民への的確な情報提供の仕組みの構築等を進めます。
市民カード化
図書館カード、市町村の施設の利用証など生活の様々な局面での活用を進めます。
本人確認機能の民間ビジネス等での利用
マイナンバーカードの機能(電子証明書)のスマホ搭載等を進めます。
データ連携基盤の構築
国・地方間、地方・準公共・企業間などのサービス利活用を促進するため、データ連携基盤の構築、産業活動に関わるソフトインフラの構築を進めます。
公共・準公共領域
情報連携基盤としての公共サービスメッシュの設計の検討、データ連携基盤のコア部品にあたるデータ仲介機能の提供等を推進します。
産業領域
グローバルサプライチェーンにおけるデータの共有・連携、相互連携に必要となるシステム全体のアーキテクチャ設計や技術開発、スマートホームやスマートビルのアーキテクチャ設計等を推進します。
ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備
ICTを活用し、持続可能性と利便性の高い地域公共交通ネットワークの再構築を図ります。また、三大都市圏間等のアクセスの利便性を高める高速かつ安定的な交通インフラとして、最先端のデジタル技術を活用したリニア中央新幹線の早期整備を促進します。
新たな協議の場の設定等
国が中心となり、沿線自治体と鉄道事業者を含む新たな協議の枠組みを創設し、実証事業の活用しつつ必要な対策を促進します。
公共交通ネットワークの再構築
保守等のDXの推進、新技術の活用、輸送モード間の連携、新たな輸送モードの導入等による公共交通ネットワークの再構築を進めます。
実効性のある新たな支援策の検討
最新技術の実装を進めつつ、公共交通機関の運行委託等に対する長期安定的な支援の実施等を検討します。
リニア中央新幹線の早期整備
最先端のデジタル技術を活用したリニア中央新幹線の早期整備を促進します。
エネルギーインフラのデジタル化
再生可能エネルギーの最大限導入、電力の安定供給等を進めていくため、送配電インフラの増強やデジタル化による運用の高度化を推進します。
送電網の増強
データセンターなど需要サイドの見通しを織り込んだ送電網の増強の計画的な実施を推進します。
送電線容量の効率的な利用
ダイナミックレイティング技術等の導入、順次拡大を通じた送電線容量の効率的な利用を推進します。
地域配電網の運用高度化
次世代スマートメーターの導入、分散型エネルギーリソースを活用したフレキシビリティ技術の早期実証等を通じた地域配電網の運用高度化を推進します。
デジタル人材の育成・確保
さらに、デジタルテクノロジーを扱うための人材の確保や育成を促進するための方針も4つ掲げています。
KPIはひとつで、以下のとおりです。
- 2026年度末までに、デジタル推進人材230万人育成を目指す
デジタル人材育成プラットフォームの構築
デジタルに関するスキル標準を設定し、幅広い教育コンテンツを提供します。また、地方の起業・産業におけるDXに必要なデジタル人材の育成・確保を支援します。
デジタルスキル標準の設定
全ビジネスパーソン向けに共通に求められる学びの指針となる「DXリテラシー標準」等を作成します。
デジタルスキル標準に紐づける形での教育コンテンツの整備
民間事業者や大学等が提供する様々な教育コンテンツを提示します。
地方におけるDX促進活動支援
地域の企業・産業のDXに必要なデジタル人材を育成・確保するため、実践的な学びの場等を提供します。
職業訓練のデジタル分野の重点化
労働市場におけるデジタル人材の育成・確保を進めるため、職業訓練におけるデジタル分野の重点化を推進します。
公共職業訓練、求職者支援訓練、教育訓練給付におけるデジタル分野の重点化
IT分野の資格取得を目指す訓練コース等の充実を図ります。
人材開発支援助成金の拡充
IT技術の知識・技能の習得訓練への支援を拡充し、デジタル人材の育成を推進します。
3年間で4000億円規模の施策パッケージの創設による人材育成等の推進
人材開発支援助成金や教育訓練給付とも連携し、企業や労働者のニーズに合ったデジタル人材の育成・確保を推進します。
高等教育機関等におけるデジタル人材の育成
デジタル人材を地方の高等教育機関等から継続的に輩出する体制を構築します。
数理・データサイエンス・AI教育の推進
全国の大学等による「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」を形成し、各地域の数理・データサイエンス・AI教育等を促進します。
リカレント教育の推進
大学・専門学校等が自治体や企業等と連携し、リテラシーレベルの能力取得・リスキリング等を実施します。
デジタル人材の地域への還流促進
デジタル人材が都市部に偏在することがないよう「デジタル人材地域環流戦略パッケージ」として、デジタル分野等の人材マッチングの支援や、地方公共団体によるUIJターン者への就業・起業の支援などにより、地方への人材還流を促進します。
地域企業への人材マッチング支援
プロフェッショナル人材戦略拠点と、地域金融機関、株式会社地域経済活性化支援機構が緊密に連携して行う取組を強化するとともに、スタートアップの実情を把握するベンチャー・キャピタルやスタートアップ専門の職業紹介事業者等とも連携し人材マッチングを支援します。
地方公共団体への人材派遣
地域課題解決において中核的な役割を担う地方公共団体に対するスキルの高い外部人材の派遣を促進します。
起業支援・移住支援等
デジタル等を活用した地域の社会的課題の解決を目指す起業等を支援します。
誰一人取り残されないための取り組み
そして、デジタル田園都市国家構想で掲げられている「誰一人取り残されないための取り組み」として、5つの項目とひとつのKPIを設けています。
KPIは以下のとおりです。
- デジタル推進委員を2022年度に全国2万人以上でスタート
デジタル推進委員の展開
高齢者等が身近な場所で身近な人からデジタル機器・サービスの利用方法を学ぶことができる「デジタル活用支援」事業に取り組みます。2022年度に2万人以上で「デジタル推進委員」の取組をスタートし、今後、全国津々浦々に展開できるよう、さらなる拡大を図ります。
デジタル共生社会の実現
地域で子どもたちがICT活用スキルを学び合う「地域ICTクラブ」の普及促進を図ります。また、障害者に対するデジタル機器の紹介・貸出・利用についての相談等を行うサービス拠点の設置などの取組を支援します。
経済的事情等に基づくデジタルデバイドの是正
生活困窮者のデジタル利用等に関する支援策の検討を進めるとともに、全国の学校におけるICT環境の整備、ICT支援人材の学校への配置促進、低所得世帯向けの通信環境の整備を図ります。
利用者視点でのサービスデザイン体制の確立
サービスデザイン体制を確立するための取組を推進します。
「誰一人取り残されない」社会の実現に資する活動の周知・横展開
「デジタルの日」の開催や、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」の実現に資する活動等を行う個人や団体への表彰等を通じ、社会全体のデジタルへの理解・普及や、事例の横展開等を進めます。
国が示すモデル地域ビジョンと重要施策分野
デジタル田園都市国家構想だけでなくスマートシティなどでは、国が地域のビジョンのモデルを示し、そのモデルに向かって地域は地域ごとの個性や魅力を生かしたビジョンを描き、実現に向けて取り組んでいます。
国が示すビジョンでは主に5個の例があります。
スマートシティ・スーパーシティ
AI、IoTなどの先進技術や大胆な規制改革により都市機能やサービスを効率化・高度化し、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する都市や地域。
SDGs未来都市
SDGsの理念に沿った経済・社会・環境の三側面を統合した取組を進めることにより、地方創生に取り組む都市や地域。
「デジ活」中山間地域
基幹産業である農林水産業を軸として、地域資源やデジタル技術を活用し、社会課題の解決と地域活性化に取り組む中山間地域。
産学官協創都市
知と人材の集積拠点である大学を拠点とした産学官連携を進め、大学発のイノベーションの創出や社会実装を促すことで地域活性化に取り組む都市や地域。
脱炭素先行地域
再生可能エネルギーやデジタル技術を活用し、産業、暮らし、インフラ、交通など様々な分野で脱炭素化に取り組む都市や地域。
そして、デジタルの力を活用した社会課題解決のための重要施策分野は以下が例となっています。
地域交通のリ・デザイン
MaaS等のデジタル技術の活用等により、持続可能で利便性の高い地域公共交通ネットワークを再構築します。
遠隔医療
医療資源が限られた地域の医療提供体制の選択肢の幅を広げる観点等から、住民に身近な場所を活用したオンライン診療や服薬指導を推進します。
こども政策
地域間連携、デジタル化・オンライン化などにより、居住地に関わらず、切れ目のない医療と母子保健サービスが受けられる環境の実現を目指します。
地方創生テレワーク
地方と都市の差を縮め、活力ある地域づくりにつながる地方創生テレワークの導入・定着、「転職なき移住」を推進します。
教育DX
地域独自の学習コンテンツの開発、オンラインによる学校間交流・教育活動の実施などの教育DXを推進し、地方の子供の教育への不安を解消します。
観光DX
大阪・関西万博等の機会を捉え、日本全国への誘客を促進するため、受入環境の整備とともに、移動や購買データ等の高度活用など観光DXを進めます。
これらはあくまでも例ではあるものの、地域それぞれに対して「国としてこういう取り組みをすれば、地域は活性化していくのではないか」と示しているのが上記です。
目的としているのは、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会の実現です。
デジタル田園都市国家構想交付金による支援
当然ながら、国としてデジタル田園都市国家構想を推進するために、自治体行政向けに「デジタル田園都市国家構想交付金」として、地方公共団体の取り組み、社会課題解決、魅力向上に向けたサポートを図る活動もあります。
大枠では以下の4つの分野に交付金の支援があります。
- デジタル実装タイプ
デジタル技術を活用し、地方の活性化や行政・公的サービスの高度化・効率化を推進するため、デジタル実装に必要な経費などを支援する。
- 地方創生拠点整備タイプ
観光や農林水産業の振興等の地方創生に資する拠点施設の整備などを支援する。 - 地方創生推進タイプ
観光や農林水産業の振興等の地方創生に資する取り組みなどを支援する。
- 地域産業構造転換インフラ整備推進タイプ
産業構造転換の加速化に資する半導体等の大規模な生産拠点整備について、関連インフラの整備への機動的かつ追加的な支援を創設する。
各タイプや支援される交付金の金額は、対象地域(首都圏か、それ以外かなど)、どういった取り組み内容かといった要素で変動します。
採択された自治体は、富山県朝日町や福島県会津若松市が挙げられます。今後は多くの自治体で採択が進み、コスト面でのハードルを国ができるだけ排除するような取り組みが進めば、急加速してデジタル田園都市国家構想が進んでいけると考えられます。
地域活性化やスマートシティなど、基盤となるのはデジタル領域であることは間違いないので、デジタル田園都市国家構想の取り組みや、それに関する情報は日々キャッチしていきましょう。