国内を代表する空港でさえも、人手不足に悩んでいる。
成田国際空港(以下、成田空港)は、2029年3月末までに現状のB滑走路を延伸(2,500メートルから3,500メートルに)、またC滑走路の新設といった計画を進めている。その理由は、増加する航空需要に対応するためで、年間の発着容量は現状の30万回から50万回に拡大する。
当然、発着回数が増えることに伴い、これに対応するため空港で働く人々の数も増やす必要がある。現在、約4万人の空港従業員がいるが、将来的には7万人程度の働き手が必要になると見込まれている。この人手を確保するための施策のひとつとして、成田空港では「職住近接型のライフスタイル」を提案するプラットフォーム「働く、暮らす、成田空港」を開設した。
空港運営と人手不足
新型コロナウイルス感染症の拡大前、成田空港では4万人強が働いていた。しかし、感染拡大の影響で一時的に3万人台にまで減少。徐々に回復しつつあるものの、訪日外国人観光客の増加や物流量の拡大に伴い、依然として人手不足が課題だ。
特に、グランドハンドリング(地上支援業務)や保安検査業務といった空港運営に不可欠な職種で人手不足が深刻化している。これらの職種は、複数の事業者が業務を受託しており、成田空港内だったとしても各社が独立して採用・配置を行っている。そのため、各事業者の人手不足が連鎖的に空港全体の機能不全を招くリスクがある。
成田空港を運営する成田国際空港株式会社では、こうした人手不足を解消するための取り組みのひとつとして、ウェブサイトを通じた雇用促進をスタートさせた。
成田空港で働き、暮らすプラットフォーム
「働く、暮らす、成田空港」は2024年3月(※)にオープンした。このプラットフォームは、「成田空港で働く×周辺地域で暮らす」をコンセプトに掲げている。特徴的なのは、成田国際空港株式会社としての求人情報ではなく、成田空港全体での求人サイトであることだ。
※オープン当初は、「成田空港で働こう」として開設。
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狙いは、成田空港で働く人たちの職種・職務を紹介することで、業務内容の認知拡大をしつつ、成田空港内で事業を展開する各社の採用活動を支援することだ。さらに、空港周辺地域の魅力を発信し、移住希望者をサポートする役割も担う。
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オープン当初は緊急性の高いグランドハンドリングのみを対象とした求人情報だったが、2024年12月には保安検査や航空貨物、整備、給油、清掃、警備など、多岐にわたる職種に拡大した。さらに、有料媒体を活用して求人活動を支援する取り組みも進めている。
地域との共創と共生
空港従業員の人手不足がボトルネックにならず人や貨物の輸送量が増えれば、訪日外国人観光客の増加や地域経済の活性化が期待される。また、空港で働く人々が増えれば、近隣に住む人も増加し、地域全体が活性化する。
空港は国の玄関口として多大なる貢献がある一方で、たとえば周囲への騒音等の問題は解決しなければいけない議題のひとつ。これは空港側だけでなく、周辺の自治体にとっても「経済活性化」と「住民等の満足度」のバランスを取らなければいけない。
もちろん、どちらも満たせればそれに越したことはないが、共創・共生するためには当然ながら空港側、地域側による互いの歩み寄りが必要になる。とくに成田空港であれば“なおさら”だ。成田国際空港株式会社の担当者は「地域と空港が相互に連携し、一体的・持続的に発展することこそが、成田空港が今後も成長発展していく上での鍵です」と話す。
2024年7月に発表された「『新しい成田空港』構想とりまとめ2.0」では、目指すべき地域・まちづくりに向けた方向性として以下のトピックが挙げられている。
- グローバルとローカル視点でのコンセプト策定。
- 行政と空港が一体となった推進体制の整備。
- 無秩序な開発を防ぐゾーニングの必要性。
- 人材確保のための生活・教育環境の整備。
- 自然と調和したエアポートシティの形成。
ここでいうエアポートシティとは、空港およびその周辺を「ひとつの都市」として捉え、持続可能なまちづくりを進めようとするものだ。2025年4月にはエアポートシティの実現に向けて、成田国際空港と千葉県が連携して新組織を設立することも報じられている。主に、空港を生かした産業拠点形成、地域公共交通ネットワーク構築、住環境整備について民間事業者や市町と連携しながら新しいまちづくりを目指す取り組みだ。
意義と展望
開設から1年弱が経過した「働く、暮らす、成田空港」では、すでに複数の採用事例が生まれている。このプラットフォームは、成田空港の国際競争力を高めるだけでなく、地域社会の持続可能な発展にも寄与する包括的な地域活性化モデルとなる。
「成田空港周辺には豊かな自然を生かしたレジャーや歴史や文化を感じられる観光資源など、休日を楽しめる場所も多いです」と担当者は語る。地域の魅力を発信しながら、空港と地域が一体となって成長する未来を目指している。